欠けた色、満ちた時 この人はとことんおかしくて、とことん俺に甘いのだと気づくのに時間はかからなかった。
泳ぐのが面倒臭かったので「泳げません」と言ってみた。
「それは、何か体に障ったか?」
「いいえ……なんか、だりーんで」
死んでんのに青い顔をしたあの人は波の上に浮かんだ俺に駆け寄り――なぜか水面の上で俺とあの人は地面のように走る事ができた。だから仰向けで眠れるのだ――、かつて赤くなった飛行帽の箇所をさすってくる。
日が沈み始めている。出来れば夜は海の底で、暖かな砂の上でいる方が良い。
「あんただけ、先に戻ってくださいよ。少佐」
「む〜、今は大佐だぞ」
わざとらしく、腕組みして威厳ありそうにするが、今更だ。そもそも階級に拘るならこんな死に方しないだろう。
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