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    暗殺者&天使

    天使と剣のいつもの日 ●

     職員は支部長への報告を済ませる。レネゲイドビーイングは比喩に非ざる『天使の微笑み』でそれを聞いていた。
    「結構。ご苦労様でした」
     下がるように片手で示すので、職員は一礼して下がろうとして――天使の机の上に、リボン付きの美しい箱が置かれているのを見た。
    (ああ、いつもの)
     やれやれと内心少し苦笑する。天使の子飼いの、彼が「私の剣」と呼ぶ兇手。暗殺専門の凄腕エージェント。彼への『ご褒美』だ。中身はチョコレートか、焼き菓子か……。
     ……彼はもう十分に大人なのに、まるで女子供を甘やかすようなご褒美だ。まあ、それで支部長と剣は満足しているのなら、部外者は何も言うまい。
     支部長室から退室する。そうして――廊下で当の『彼』とすれ違った。白く、物静かで、意思が希薄げな顔立ちの男。その首に巻かれているのは――支部長の机にあった焼き菓子の箱を飾るあのリボンと同じ類のモノ。左耳を飾るのは、支部長の右耳を飾るバイオレットサファイアの片割れ。纏う服も所作も地位も全て、天使から与えられたモノ。

     ――『天使の人形』。

     人々は彼をそう呼ぶ。彼を寵愛する天使の様から。天使にひたすら従順な男の様から。
     時に「人形遊び」と揶揄する者もいる。されど、天使と兇手の実績とUGNへの貢献の数々を前に、彼らの在り方を揶揄はできても否定できる者はいなかった。ある種、それは強者に許された特権的な振舞であった。
    「お疲れ様です」と職員は会釈をした。『仕事帰り』だというのに、その白無垢に血が一切ついていない兇手が小さく会釈を返した。無表情だった。あまりにも、ついさっき人を殺してきたようには見えなかった。
     それから数秒後、職員は背後で支部長室のドアが開閉する音を聞く。あの部屋の中で、兇手は天使にかわいがられているのだろう。

     ●

     数時間前に人を殺めた手が、しゅるりと細いリボンを解く。血のように赤い色。ブリキの箱を開けば、焼き菓子とチョコレートが並んでいた。もちろん勝手に開けたのではない。「開けてご覧」と天使に言われたから、開けたのだ。
    「今日も素敵な死をありがとう、私の剣」
     手袋を外した天使の指が、チョコレートを一粒取る。それを差し出し、微笑みかける。
    「ほら。お食べ」
     手ずから与えんとしている。ならば、と意図を汲んだ兇手は顔を寄せた。口を開き、賜る――そこにチョコレートが置かれる――離れ際、天使の指先が白い唇をそよ風のように撫でていった。
     口を閉じる。兇手のあたたかい体温の中で、甘いご褒美は溶けていく。目の前では天使が、兇手の白い髪を撫でながら優しく見守っている。
    「いいこですね」
     細められる紫の瞳。背後の窓から射し込む光に、天使の白い翼がキラキラ美しく縁取られていた。神秘の後光さながらだ。眩いけれど、兇手は決して目を閉じたり反らしたりしなかった。じっと、彼の天使を見つめていた。


    『了』
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    DOODLE十三 暗殺お仕事
    初夏に呪われている ●

     初夏。
     日傘を差して、公園の片隅のベンチに座っている。真昼間の公園の賑やかさを遠巻きに眺めている。
     天使の外套を纏った今の十三は、他者からは子供を見守る母親の一人に見えているだろう。だが差している日傘は本物だ。日焼けしてしまうだろう、と天使が持たせてくれたのだ。ユニセックスなデザインは、変装をしていない姿でも別におかしくはなかった。だから、この日傘を今日はずっと差している。初夏とはいえ日射しは夏の気配を孕みはじめていた。

     子供達の幸せそうな笑顔。なんの気兼ねもなく笑ってはしゃいて大声を上げて走り回っている。きっと、殴られたことも蹴られたこともないんだろう。人格を否定されたことも、何日もマトモな餌を与えられなかったことも、目の前できょうだいが残虐に殺処分されたことも、変な薬を使われて体中が痛くなったことも、自分が吐いたゲロを枕に眠ったことも、……人を殺したことも。何もかも、ないんだろう。あんなに親に愛されて。祝福されて、望まれて、両親の愛のあるセックスの結果から生まれてきて。そして当たり前のように、普通の幸せの中で、普通に幸せに生きていくんだろう。世界の全ては自分の味方だと思いながら、自分を当然のように愛していきながら。
    2220

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