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    シデンの話🔪

    シザンケツガ ●

     死ぬかと思った。

    「はぁッ―― はぁッ――……」
     屍山血河とはよく言ったものだ。クソみてえな街のクソみてえな貧乏ガキがこんな小洒落た言葉を知っているのは、オレが単に古本屋で本を読むのが好きだったからだ。
     皮を毟られ、火で炙られ、爪を剥がれて。そんな俺の両手には、銀色に輝く日本刀。辺りには、さっきまで俺を『スナッフビデオの主演男優』にしようとしていた大人共が転がっていた。俺の血が、奴らの血が、俺の服のない肌に流れていく。皮を削がれた右額からの流血が特に酷い。ザックリやられた唇も、鏡ないから分かんねーが、なんか、上手く閉じなくて、変な感じだった。
     死体しか居ない部屋はとても静かで。自分の息遣いと心音だけが、鼓膜の内側でやかましい。それもゆっくりと冷めていく。
     そんな中、ふと――目に留まったのは、三脚に据えられたままのビデオカメラだった。「年端も行かぬ少年を暴行殺人してその映像を売り物にする」、そんなビジネスの為の道具だ。これが売れるんだから世も末だと思う。
    「がぁッ!」
     ムカつく。カメラを毟り取って、床に叩きつけた。落ちてた肉叩き用ハンマー(俺の血と皮膚がついていた)で滅茶苦茶に破壊してやった。念入りに、念入りに。
     ああクソ、フラフラする。このままじゃ下手したら死ぬかも。死人共を漁って、腕時計とか財布とか、連中の事務所のものとか、とにかく金目の物を持てるだけかっぱらって。今は一先ず、逃げ出した。

     闇医者の場所は知っていた。ガキだからって金だけ取って殺される可能性もあったから、「妙なことしたらブチ殺す」と脅してやった。
     幸いにして俺は死なずに済んだ。スナッフビデオの撮影で手足や五感を喪失せず、障害も残らずに済んだのは運が良かったと言っていい。
     手元に残ったのは、『フィナーレ』で俺の首を刎ねる予定だった日本刀。――これを奪取して、俺は連中を皆殺しにした。
     しみったれたベッドで、どうにか処置をされた身体で、そんな刀を抱き締めて横たわって。
     ――クソ犯罪者共。アイツらは、存在しているだけで俺の平穏を脅かすのか。ただ生きているだけでも俺は連中に害されるのか。
     ついさっき俺を殺そうとしてきた連中は殺せたが、これは一時的な平穏に過ぎないのだろう。このクソみてぇな世界には、クソみてぇなのが死ぬほど居た。
     理解した。心から安らぐ為には、全ての犯罪者共をブチ殺さねばならないのだ。
     だったら手に入れてやる。俺の、俺の為の世界を。アイツらを皆殺しにしてやる。平和の為でも何でもない、全て全ては俺自身の為に。誰一人とて赦さない。
     さてその為には力が要る。金という力が。
    (……あの事務所、金庫があったな)
     ベッドから身を起こす。闇医者を呼んだ。オイ、お前、金が欲しいか。俺を手伝え。

     ――思えばそれが、俺が「ギャング」「人斬り」だの呼ばれる始まりだったのだろう。

     かくしてその果てに、大人になってしばらくしてから、俺は警察に逮捕された。
     クソ犯罪者に殺されるのではなく、法に則って殺されるのなら寧ろ本望だった。手下共が少し気がかりではあるが……まあ。路頭に迷って野垂れ死にするとか報復で惨殺されるよか、檻の中で生活が保証されるのがまだマシか。手下共には常々、「サツに捕まったら日生シデンの所為にしろ」と伝えていたが、はてさてどこまでアイツらが守るだろうか。変な忠義心だの出さねぇことを祈る。
     俺は多分、死刑だろう。法律には詳しくないが、覚えてないぐらい殺した。相手がクソ犯罪者とはいえ強盗殺人もしたし放火や爆破もした。犯罪者を憎みながら罪を犯す矛盾について、俺は「だから何?」としか思わない。葛藤したこともないし、俺の中には俺のルールが敷かれている。そのルールに則って言うと、法によって裁かれるのは『極めて道理』であった。
     警察の連中は、俺が檻の中で大人しいことに驚いていたみたいだ。たまに「アレが噂の人斬りですか」「思ったより若いっすね」「このご時世で刀なんて酔狂な」「すごい傷痕だな」みてーなやりとりがたまに聞こえた。

     檻の中は平和だった。ある種、俺の求めた平穏がそこにあった。
     ここにクソ犯罪者共はやって来ない。俺を傷つけるものは何もない。ただ最期に、法律という正しいロープが俺を縊り殺すだけ。浅い眠りの中で、今まで築き上げた『屍山血河』を勲章のように思い返す。欲を言えばもう少し、殺してやりたかったが。

    「――番、出ろ」
     厳然とした声。逆光の刑務官。
     思ったより執行日は早かったな。まあ犯罪者だらけだし、さくさく殺していかねえと刑務所もパンクしちまうか。
     手錠やらをつけられたまま通された部屋は、面会室ではなくて。見知らぬエージェントがそこに居た。
    「こんにちは。わたくしこういう者です」
     差し出される名刺。そこには、「タイタン・アウトカムズ社」と書かれていて。
    「日生さん。ガンドッグになりませんか? ――いいえ、なっていただきます。既に大まかな取引は済んでいます。あなたにできるのはイエスかノーか答えるだけ。最早それだけです。死んで終わりか、生きて殺すか、選んで下さい。今ここで」
     ネゴシエイターは穏やかな笑みだが、そこに容赦はなかった。そういう交渉が俺好みなのを、おそらくコイツは事前に調べていたんだろう……と後から思い返すとそう思った。
    「金の為なら犯罪者の罪すら買い上げちまうのか。大したビジネスだな」
     果たして俺は。――ちょいと癪だが、ネゴシエイターの言う通りだったから。
    「……まだクソ犯罪者共をブチ殺せるのなら。ガンドッグだろうがなんだろうが、やってやるよ」
    「グッド! いい判断です」
    「……俺の刀ってまだ残ってんの?」
    「確保しておりますよ。『出所祝い』にお渡ししましょう。では今後ともよろしく、日生さん。……ああそうだ」
     ぽん、とネゴシエイターが手を打った。
    「名刺の裏をご覧下さい」
    「裏ぁ?」
     めくった。なんとも言えねーケバケバしいカラーリングのシンボルと、ダッセェフォントから成るタイタン社のロゴ(?)がそこにあった。
    「非公式ですが我々のロゴです。どうです、魅力的でしょう。私がデザインしたんですよ」
    「……」
     ボケてんのかコイツと思ったが真剣だった。まあいい、なんにせよ、今日から俺はガンドッグになった。
     そうして『出所』して、幾つか研修やらトレーニングを受けた後、俺に――初任務が言い渡された。


    『了』
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