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    天使羊

    或る晩餐 ●

     天使の、夜を裂く三日月のような美しい指が、銀のナイフで子羊の肉を刺した。銀のフォークでゆっくりと切っていく。白い皿の上の、焼き上げられ、塩や香草をまぶされた、物言わぬ家畜の肉を。
     そうして一口分になった肉を、天使はフォークで口元へ運ぶ。完璧な造詣の唇が静かに開けば、白い歯列と、赤い咥内の色が見えた。濡れた舌のつやめきが垣間見えた。食べる為に少し俯いた顔の、伏し目の瞳の黒い睫毛と、整った鼻梁と、なめらかな額と、つややかな前髪が見えた。
     天使が子羊の肉を口に含む。そのあぎとで、その牙で、肉を噛む。噛まれて形を失っていく子羊を舌で味わう。ゆったり、楽しんでいく。それから飲み込んで、天使の白い喉が少し動いて、彼はまた子羊を切り分けるのだ。あたたかい内に。
     美しい所作。ただ食事をする姿ですら一幅の絵画。正面に座る殺し屋には、印象派の絵画のように天使は光り輝いて見えた。しかし美しいものに見惚れているように見えて、その実、男の頭には、自らを皿の上の子羊に投影したふしだらな妄想が渦巻いていた。真っ白な皿の上に横たえられて、天使に覗き込まれ、フォークで刺され、ナイフで切られ、口に運ばれ、舌と歯に蹂躙されて、バラバラにされて飲み込まれて……あたたかい天使の臓腑の中で一つになる……。
    「冷めてしまいますよ。それとも、私に切り分けて欲しい?」
     天使の声が殺し屋を妄想から現実に戻す。この個室には彼我しかいない、異形たる触腕を出しても怪しまれることはない。
    「あ―― ええと――」
     あなたに切り分けて欲しい。複数の意図に解釈できる意図を込めて、殺し屋は「はい」と小さく頷いた。
     含み笑う天使が立ち上がる。男の背後から、抱きしめるように両腕で、ナイフとフォークで、男の為に子羊の肉を切り分けはじめる。
    「ほら、お食べ」
    「……いただきます」


    『了』
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