棘は抜けず、肉に食い込む猛吹雪。視界と聴覚を侵食する白いノイズはそれが連れてくる痛みを忘れさせるほどに強く、遠い懐かしさを呼び起こす。カドック・ぜムルプスは吹雪の中に少女の後ろ姿をぼんやりと思い描き、そしてはたと彼女との約束を思い出す。
「・・・・・・ここじゃ死ぬな」
悴み痛む身体を抱き、洞窟の奥へと戻る。カドックの頭の中で揶揄うような甘い声が聞こえた。
「ねえ、もしかして約束を忘れていたの?本当に酷い人」
「わかってるだろ、ぼんやりしてただけさ」と口に出し、苦笑する。幻聴に返事をしたなんて知られればそれこそ散々に揶揄われただろう。
洞窟は大して大きくないものの、熱は暖かといえるほど篭っておりカルデアとの通信も出来ず孤立無縁の二人にとっては願ってもない拠点だった。カドックはそのもう一人、藤丸立花の様子を見る。毛布に包まれ静かに寝息を立てているものの、額に手の甲を当てるとひどく熱い。
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