夏チリン…チリン…と軽い鈴のような音が、風が吹く度聞こえてくる。
その日は風は吹いてたが、暑くて、ミスタは手に持っていたタオルで汗を拭った。
部屋の中なのに暑くて、暑くて、仕方がない。
ぼんやりと小窓から青空を見れば、雲がゆっくり動いていた。
「暑いなぁ……」
ぽつりと呟く。
ミスタの言葉に返事はかえってこない。
ミスタは細くて日焼けなんかしたことないような右腕を真っ直ぐにゆっくり、ゆっくり肩まで上げる。
そして人差し指だけ真っ直ぐに伸ばして、指の先に視線を投げた。
「どうして俺を置いていったの?」
目の前にいたのは、顔に幾つものシワやシミを隠そうと化粧をした女。
母…と言うべきその存在に、ミスタは夕日と海を表現したような瞳を彼女に向けていた。
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