ひたり。ひたり。
大理石の床に両の足を付ける音が部屋に響く。
常人は裸足のままでは足の裏を火傷してしまうくらい冷たい床に、その男──アイク・イーヴランドは立っていた。
その目はまだ半分も開いておらず、虚空を見つめている。広い部屋は音を吸い込む程の冷気に包まれており、アイクが立っている後ろには今し方彼が浸かっていたバスタブのみが置かれている。そのバスタブには、液体窒素よりも低い温度なのでは無いかと思うほど冷たい特殊な液体で満たされている。その水でアイクは眠っていた。
元々特殊な体質であるアイクは特別な力を手に入れると共に、常人よりも睡眠が必要な身体として生を得ることとなった。幼少期はこの体質の所為で多くの楽しみが奪われ辛い思いをした。けれども他の特別な力を持つ四人の仲間に救われた。この出会いは彼の人生を大きく左右し、また四人の人生も大きく左右した。この土地を治める者として成長すると共にこの体質は常人に理解され、崇拝される事となった。同時に更なる力も手に入れる事が出来たが、沢山の犠牲と敵を増やした。それでも、アイクがここまで歩み続ける事が出来たのは彼らの支えがあったからだ。
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