夢だったらよかったのに 暁人には、繰り返し見る夢があった。
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カーテンの隙間から射しこむ夕日が、ワンルームアパートの白い壁を茜色に染めあげている。同僚からの飲みの誘いを断り、ひとり自室で夕飯を腹に詰めこんでいた暁人は、顔をあげてデジタル時計を確認した。
現在時刻は午後六時三十分。今朝確認したお天気アプリによれば、あと十分ほどで日没だ。
少しのんびりしすぎたらしいと、暁人は慌てて最後のからあげを口に放りこんだ。咀嚼する間にもダイニングテーブルを手早く片づけてゆき、口の中の鶏肉を完全に飲みこみきると同時に立ちあがる。すでに満杯になりかけているゴミ袋に、空になったからあげ弁当の容器と、使用済みの割り箸を押しこんだ。沈みゆく夕日と競いあうようにして、あらかじめ準備しておいた黒いジャケットに着がえ、お札で満杯のボディバッグを身に着ける。
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