Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    nok_0000xxxx

    @nok_0000xxxx

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 257

    nok_0000xxxx

    ☆quiet follow

    帝都の日陰
    毒にも薬にもならない警察と放蕩者の話
    ※賭博が実際どう扱われているかは私はよくしらないです。

    違法賭博を扱う店があるとの報せを聞き、加賀は同輩を伴いそこへ乗り込んだ。
    帝都の日陰、華やかな街並みの裏側にはこんな店などごまんとある。いちいちめくじらを立てていたらキリがない。さりとて、通報があれば見過ごせないのは公僕の定めだ。大方、大負けした客が腹いせに報せをよこしたのだろう。
    店主、客、とにかく加担したと言える者たちはその場で捕らえる。こうでもなきゃ生きていけない、心ない狗ども、罵倒を浴びせられたところで、動く心はなかった。
    摘発を終え、連行は同僚に任せる。後は証拠品を上げれば事は終わるだろう。
    まずは帳簿と、裏方に足を踏み入れようとした。その時だった。
    「ありゃぁ。何よ、開店準備中かい?」
    軽薄そうな男の声が店内に響いた。入り口の方を見やれば、朱色の生地に金蘭で鳥の翼の刺繍が施された派手な肩掛けをした男が立っていた。着流しもまた派手で、真っ黒な生地に鮮やかな桃色の牡丹の咲いた、女物でも通るような仕立てのものだ。
    そんな男は、戸に背中を預けてにやにやと秀麗な顔に笑みを浮かべている。
    「そう見えるなら、生憎だな」
    「ふふん、ま、店主がお巡りさんになったなんて話ァ、聞いてねェからなあ。あーあ、ここも店じまいか」
    くるり、肩掛けを翻して男が踵を返した。……ところで、男は足を止めた。
    「おいおい、呼び止めてくれないのかい?」
    「不要だ」
    「明らかに客よ? 俺」
    「現行犯ではない。貴様のような放蕩者にいちいち構っていられるか」
    「厳しいねぇ」
    生来、厳格な父に育てられた加賀はこうした手合いが不得手であった。話し振りを聞いているだけで苛立つ程度には。
    であるから、言葉にはいくつもの棘を含ませて突き放した。つもりだったのだが。
    「つれないことを言いなさんなって」
    男はひょいひょいと柳のような体で軽やかに足を運んで加賀の傍らに立った。
    そしてあまつさえ、臆することもなく加賀が目深く被った警察帽をぱ、と取って見せたのだ。
    「ッ、貴様なんのつもりだ」
    「ハハハ、厳しい顔だね。こりゃ幸も薄そうだ。いや、幸を自分から追い払う顔……かねェ?」
    そのままぽすりと自分の頭に帽子を乗せる男の姿は、派手な着流しと比べてちぐはぐなものだった。
    「……邪魔立てをするなら貴様も拘留するぞ」
    脅すつもりで言ってみれば、男はニヤッと笑みを浮かべて、しかしその顔をすぐに崩してその場でむせ込んだ。
    「ごほ、っ、ごほっ、ごほっ……、あぁ、構わんけど面倒だぜ? なんせほら、この通り病弱でね。移すものなら悪いよ」
    都合のいい時に咳き込むものだから、嘘かと思えばそれも否のような、喋る間のかひゅ、という細い空気の音。患いものはどうやら真実らしく、気に入らない態度であっても弱者に強く出ることは、厳格に正しく躾けられた加賀鉄志という男には難しいものだった。
    「……チッ、もういい。邪魔さえしなければ好きにしろ」
    雲のような男だ。加賀は顔を顰め、かぶりを振り考えた。
    一方の男といえば、座敷にどかりと腰を下ろして、どこからか書き物帳を取り出すと、加賀をじぃ、と観察し始めたのである。
    「いやぁ、俺ぁアンタみたいな頭がカタそうな人が好きなんだよ」
    さらり、紙を捲る音と共に、男は陽気に歌うように話す。
    かんらかんらと笑う声を煩わしく思いながら、加賀は荒れた賭博場の検分を再開した。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👼👍😊🙏👏💘🍼💖❤💴🙏🙏❤😭🙏👏💕
    Let's send reactions!
    Replies from the creator