ノイズまみれのビデオレター「ム。これでいいだろうか……」
生まれてこの方、三脚など使ったこともなかった。
「撮れている、と信じて、このビデオをのこす事とする」
彼の幼い娘の成長を留める手伝いに買った、押し入れの箱の中で眠っていた小型のカメラが赤く小さな光を放っているのを見て、私は前口上を述べる。
「結婚おめでとう、成歩堂」
「結婚することにしたんだ」
ついに来たか、と思った。
「………ほう?」
若い頃はお互い、腹の底の底まで探りあってさらけ出しあったような仲ではあったが。
今となってはもうすっかりと知っていることしか知らないような年齢になってしまった。
「その。結構前から、付き合ってて、でもお前には紹介した事ない……んだよね」
顔を綻ばせつつも、ちらりとこちらの顔色を見やる成歩堂。
1985