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    saruzoou

    @saruzoou

    さるぞうと申します。
    🐉7春趙をゆるゆると。

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    POIPOI 32

    saruzoou

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    春趙の両片思いの話。心情を語らせるのがものすごく苦手で、完成に時間がかかってしまいました。そして、多分私しか楽しくない、なんのオチもないお話です。

    二人の視点作戦会議と称して、サバイバーに春日一番とその仲間達が集まり、しこたま店で飲んだあと。当たり前のように二階へ移動して飲み続け、日付が変わる頃には一人また一人と潰れていった。
    最後まで起きていた趙は、あちこちに散らばる酒瓶や空き缶を集めてゴミ袋にまとめ、つまみの皿や袋を台所のシンクの上に片付けていく。
    俺、横浜流氓の総帥だったんだけど。
    一番下っ端がやるような後片付けを細々としながら、それをちっとも不満にも嫌だとも思わず楽しんでいる自分に苦笑する。
    床に転がる男どもは無視して、一升瓶を抱えて壁に寄りかかったまま眠る紗栄子にタオルケットを掛けてやって、さて自分も空いたスペースで横になろうと周りを見渡した。
    無意識に春日の姿を探すと、ちょうど足立が寝返りを打ったことで、春日の隣のスペースがほんの少し空いたところだった。
    ラッキー。
    電気を消そうと思っていたけれど、せっかく間近で寝顔を見られるチャンスだ、どうせなら明るい状態でじっくり見たい。
    狭いスペースにするりと体を滑り込ませて、春日を起こさないよう細心の注意を払って横になった。
    目の前には、ぐっすりと眠る春日の横顔。
    日本人離れした高い鼻梁と彫りの深い目元。大して明るくもない蛍光灯の下でも影を作るほど長くて濃いまつ毛。頬骨の高さも、エラの張りも、男らしい見事なバランスだ。
    黙っていれば近寄りがたい造形の顔立ちなのに、豊かな表情のおかげで人懐こい印象を与える。
    コンビニでも飲食店でも、店員に対して概ね丁寧だし、なにより笑顔で話しかける。
    そんなところも好きだった。
    そう、この男が好きだった。
    触りたいな。
    込み上げた衝動に疼く右手を諌めるように左手で押さえたら、まるで恋する乙女みたいな姿勢になってしまい、内心苦笑する。
    見た目や年齢は置いておくとして、気持ちは乙女みたいなもんだ。
    こんなプラトニックな片想いは初めてで。
    馬渕と対峙したあの時、本当は一人で行くつもりだった。
    異人三の三すくみが崩壊しかけ、近江連合が乗り込んで来た際に、まったく無関係なはずの春日とその仲間達に命を救われた。
    その後の流れで総帥の座を降りることになり、思いもかけず自由を得た。
    一人ではどうにも出来なかった状況を打開してくれただけでも、返しきれないほどの恩を受けたと思っていた。
    だからこそ彼の仲間となった。支えるとまでは行かなくとも助けになれればと思ったし、命を賭けてもいいとさえ思えた。
    組織を裏切り、めちゃくちゃにした馬渕を殺すことも出来ないと言う不甲斐ない自分に対して『仲間想いの熱いやつ』だなどと言い、命の危険すら伴う対峙の際にも付いてきてくれた。
    これ以上迷惑は掛けられないと思ったが、それでも試すように甘えてみたのだ。
    「付いてきてくれない?」と軽い調子で誘ったにも関わらず、真剣な目で即座に応えてくれたあの時、不覚にも泣きそうになってしまった。
    その後の予想通りだった襲撃にも加勢してくれて、馬渕とのみっともない今生の別れも見守ってもらった。
    「帰ろう」と言う言葉が出たのは無意識だったし、その時はまるで気づいていなかったが、あとから思い出してき恥ずかしさに顔から火が出る思いだった。
    思えば、あの頃から好きだったのだ。
    髪の毛なら、触っても起きないかな。
    そうっと手を伸ばして、ゆるくカールした髪に触れる。
    汗に湿っていつもよりくるくるした髪はしっとりとして、思いの外細くて柔らかい髪だった。
    昔はパンチパーマだったんだっけ。
    そんなことを思い出しながら、起きないのをいいことに、手の甲でふわふわの感触を確かめるように何度も軽く撫でる。
    そのうち、長い睫毛がむずむずと震え、ううん、と小さく唸った春日にぱっと手を引くが、口の中で何かもごもごと言っただけで、ひとまず起きることはなかったことに小さく安堵の息を吐く。
    触れるのは諦め、こんな近距離で顔を見ることも滅多に無いのだから、よく見ようとサングラスを外す。
    夜だろうが室内だろうが、基本サングラスを外さない。ナンバに「度入りなのか?」と聞かれたこともあったが、そういうわけでもなかった。
    ただ、なんとなく外すことが出来なくて、それが春日や仲間達との間にまだ見えない境界線が自分の中にある証なのかと自己分析したりする。
    サングラスを外して間近に見る春日は、年齢を感じさせない肌艶の良さとは裏腹に、ほんの少し疲労を浮かべていた。
    疲れてるよな。
    色んなことがいっぺんに起きすぎた。
    またしても触れようと手を伸ばしそうになって、小さく苦笑する。
    こんななんてことのない状況ですら、『見ているだけでいい』が出来ない自分など、想像も出来なかった。
    近くで見ているだけで充分、仲間にしてもらえただけで幸せだ。
    自分が好きなだけ。
    気持ちを押し付けたくない。
    彼には、ごく普通に幸せになって欲しい。
    そんなきれいな建前は、触れたいと疼く手を前に脆くも崩れ去ってゆく。
    再び寝返りを打った足立が背中にぶつかり、すっかり油断して自らの体を支えられなかった趙は、春日の肩口に身を寄せる形になってしまった。
    ぶつかるように触れた感触。
    頬が肩口に当たって、子供のような高い体温を伝えてくる。
    煙草と、アルコールの匂い。
    ほのかに、香水と体臭の混ざった匂いもする。
    不可抗力だと開き直って、僅かに顔を傾けて首筋の匂いを嗅ぐと、汗の匂いと一緒により春日の匂いを感じられた。
    首筋にホクロを見つけたり、至近距離での観察を楽しんでいると、春日の眉がぎゅっと寄って、瞼がぴくりと震えた。今度こそ目を覚ましそうで、趙は慌てて目を閉じ、眠ったふりを決め込んだ。


    体を揺すられた気がして目を覚ますと、電気をつけたままのサバイバーの見慣れた天井がぼんやりと視界に広がっていった。
    また酔っ払って寝たな、と思っていると、肩口に人の体温とほのかな整髪料の匂いを感じた。
    不自由な姿勢で首を巡らせると、自分の肩口に頬を寄せて眠る趙がいた。
    ラッキー。
    咄嗟に思ったのはそんなことで、どうにも思春期の子供のような自分に苦笑する。
    趙の向こうには足立がいて、どうやら寝返りを打った足立に押される形でくっついてきたようだと予測がついた。
    現に足立の手が、趙の頭の上に遠慮なく乗っている。
    それがなんとなく気に入らなくて、趙を起こさないよう体を捩ってその手を払う。
    足立はふがふがと息を漏らして、こちらに背を向けるかたちで寝返りをうって離れていった。
    珍しく熟睡しているのか、趙は起きる気配もなく自分の肩に縋り付くように眠ったままだ。
    きれいな顔してんな。
    アクセサリーや派手な服装に目がいきがちだが、目鼻立ちの整った繊細で綺麗な顔をしていると思っていた。
    もしかするとそれを悟られたくなくてサングラスをしているのかと思ったほどだ。
    サングラス?
    至近距離で顔を眺めていてようやく気づいたが、そのトレードマークのサングラスが、今は無い。
    趙は基本的に寝る時にしかサングラスを外さないので、素顔を見たことがあまりなかった。
    それが、目を閉じているとはいえ煌々とした明りの下で拝めるとは。
    起こしてしまえば、普段はサングラスに隠されている瞳の色を確認出来るかもしれない。
    一度そう思いついてしまうと、好奇心が抑えられなかった。
    紗栄子に「ツーブロック」と言うのだと教えてもらった、艶やかな髪と、その下の刈り上げ部分を撫でるように触れる。
    まるで起こそうとは思っていないような慎重な触れ方になってしまったことに、自分の臆病な部分が出てしまっているようで、春日は内心苦笑した。
    趙が好きだ。
    いつからか。
    自分でも、何をきっかけにそう思ったのかわからない。
    ただ、気づいたら好きだった。
    横浜異人町の、『異人三』と呼ばれる裏社会の三代組織のひとつで総帥を務めていた男。
    その責務から解放されて自由の身になった途端、なぜか自分の仲間に加わってくれた。
    総帥だなんて部下を手足として使う立場だったくせに滅法強く、体幹のまったくぶれない、見慣れない中国武術を使いこなす様は、戦闘中ということも忘れて見惚れるほどだった。
    当然のように頭も切れるし、物事の考え方も柔軟で、時折視野の狭くなる自分に色々な気づきを与えてくれた。
    そして今は胸に抱え込むようにしている手が、器用に動いて美味しい料理を作ってくれることも知っている。
    けれど、知り合った年月を思えば、圧倒的に知らないことの方が多い。
    趙が仲間になったことで人となりを知る機会が増え、知れば知るほど好感を持つようになっていた矢先に、馬淵の件があった。
    異人三崩壊の危機を招き、最悪の形で趙を裏切った男を、それでも仲間だから殺せないと自嘲する趙に、腹の奥が熱くなった。
    たとえ裏切られても見捨てられないという気持ちは、当時の自分とナンバの関係や、若との関係に重なる部分もあった。普段飄々としている男が、意外にも熱い男だと知った喜び。
    そして同時に、趙にこんな顔をさせる馬渕に対しての嫉妬と羨望を感じた。
    知らない顔を、もっと見たい。
    時に冷徹に振る舞う飄々とした仮面の下の素顔を、滅多に表に出さない熱い感情を自分に向けて欲しい。
    そんな独占欲にも似た感情が自分の中にあるなんて。
    こめかみに触れたままだった手で頬をなぞると、伏せられたまつ毛がぴくりと震える。
    起きるかな。
    起きたら、この体勢の言い訳をどうしようか。
    サングラス越しじゃない目は、どんな色をしてるかな。
    そんなことを考えていると、足立が再び寝返りを打って、こちら側に戻ってくる。そして、そのまま趙に覆いかぶさりそうになった。
    春日は咄嗟に趙を腕の中に引き寄せ、長い脚を器用に伸ばして反対側へと足立を蹴飛ばした。
    弾き飛ばされた足立がさすがに目を覚まし、上半身を起こして欠伸をする。
    「…いってえな。なんだよ、誰も取らねえよ。そんなに取られたくなきゃ、アレだ、ほら、キャバクラのゆあちゃんに…」
    悪態を吐き、支離滅裂なことを口にして足立は再び倒れ込み、いびきを立てて眠りだす。
    「は?な、誰だよ、キャバクラって…」
    明らかに誤解を招きそうな発言をするだけして眠ってしまった足立に反論しようにも、『取られたくなきゃ』という言葉に心の中を見透かされた気がしてうまく言い返せない。
    そもそも、眠ってしまった酔っ払いに反論したところで相手は何も聞いてはいないのだ。
    「…春日くぅん、こんなゴツいのとキャバ嬢間違ったの?寝ぼけすぎじゃない?」
    くすくすと趙が笑い出して、起こしてしまったことと、腕の中に抱き込んだままだったことにようやく気づく。
    しかも、思った通り完全に誤解していると気づいて、春日は慌てて否定する。
    「はぁ?いや違えよ。知らねえよキャバ嬢なんか」
    「ハイハイ、いいよそういうのは」
    「だから、趙…」
    とはいえ、まさかキャバ嬢となんて間違っていない、お前だからだなどとも言えず、足立の寝言に思い当たる節も無いではない春日はどんどん歯切れが悪くなり、口をつぐむ。
    その様子をどう受け取ったのか、小さく苦笑してするりと腕から抜け出した趙は、頭上にあったサングラスに手を伸ばして素早くかけてしまった。
    「あ……」
    素顔を、裸の目元を、ほとんど見ることが出来なかった。
    おまけに、あっさりと離れていった温もりに落胆して思わず声が出る。
    「ん?」
    不思議そうに首を傾げる趙に、とても本当のことなど言えずに春日は緩く首を振った。
    けれどどうにも諦めきれず、まだ手を伸ばせば届く距離にいる趙を、再び引き寄せる。
    大人しく腕に収まった趙は、事態を把握出来なかったのかしばらく固まったあと、身を捩って春日の顔を覗き込んだ。
    「まだ寝ぼけてる?」
    「…寝ぼけた振りが正解か?」
    サングラスに隠されてしまった瞳を探るように春日がまっすぐ見つめると、趙は動じることなくその目を細めて息だけで笑った。
    その態度の真意を測りかねて春日が戸惑っていると、汗に湿る髪の毛をくしゃくしゃと掻き回して、再び腕の中から抜け出してしまった。
    そのまま身を起こした趙は、何事もなかったかのようにカーテンの隙間から外を除いて、今何時かなと呟いた。
    「なんか目ぇ覚めちゃったな」
    「じゃあ、散歩行かねえか」
    「散歩?」
    「おう」
    「朝しか出ない珍しい虫でもいるの?」
    「虫は関係ねえよ」
    虫集めを変な趣味だと思われているなと苦笑しながら、春日も身を起こす。
    「いいよ、お散歩しようか」
    まるで子供に言うように柔らかい調子でそう言って立ち上がると、趙は両手を上げて伸びをした。
    それを見るともなしに見ていた春日の目の前に、シャツの隙間から白い脇腹が見えた。
    ラッキー。
    「春日くんのえっち」
    ただならぬ視線にすぐに気づいた趙が、一瞬だけ戸惑ったあとに、ニヤッと笑って春日の額を弾く。
    下心を持って見ていたことに気づかれたとは思わない。
    けれど、先ほどからのはぐらかすような態度が悔しくて、春日は趙の腰を掴むとシャツの中に無理矢理に頭を入れ、普段日に当たることのない白い肌に直接頬ずりをする。
    「ちょっとぉ!ヒゲ痛いってば!寝ぼけすぎだよ」
    慌てたように腰を引いて身を捩る姿にようやく溜飲が下がる。
    笑いながらシャツから顔を出し、してやったりと見上げた先で、趙は顔を真っ赤にして、今にも泣き出しそうだった。
    「趙…、その…」
    悪ふざけが過ぎたかと肝が冷えて即座に謝ろうとするが、喉が縮こまって声が出ない。
    立ち上がって目線が合うと、趙がすっと身を引いてしまう。
    たまらず春日は、反射的に手を伸ばして抱きしめていた。
    腕に余る、大きくて硬い男の体。
    「春日くん、よく見て。俺はゆあちゃんじゃないよ」
    「わかってるよ」
    揶揄うような笑い含みの声は僅かに震えていて、春日はさらに強く抱きしめる。
    整髪料と香水の甘い香りの隙間から年相応の男の体臭をかすかに感じ、春日は匂いをさらに感じたくて首筋に顔を埋める。
    「趙だ」
    この硬さも、大きさも匂いも全部、この男だ。
    「…人の気も知らないで」
    「ん…?」
    趙が低く呟いた言葉を聞き取れずに顔を上げると、突然、軽いながらも鳩尾を殴られる。
    呻き声が漏れ、よろける間に趙が腕の中から離れてしまった。
    「痛ってえ…!」
    「ふふん、仕返しだよ。ほら、みんな起きちゃうから早くお散歩行こうよ」
    そう言うと趙は足立の体を跨いで、スタスタと扉に向かう。
    「あ、おい、待てって…」
    慌てて追いかけると、趙は扉を開けて振り返って不敵に笑う。
    もう、いつもの趙に戻ってしまっている。
    「春日くん、お財布持った?」
    「ん?ああ、ケツポケットに入れてるぜ」
    「じゃあ、コンビニでコーヒー買ってお散歩しよう」
    「俺の奢りかよ?」
    「誘ったんだから当然でしょ」
    笑った趙が、灯りもついていない階段を音を立てずに降りて行く。
    慌てて後を追いつつ、春日は二人きりで夜明け前の街を歩きながら、自分が何を口にするか、そればかりを考えていた。
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