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    @t_utumiiiii

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    手紙も無い状態での自由なリチャ姉妄想
    ※荘園設定に対する好き勝手な捏造
    ※日記のないキャラクターの言動を捏造

    おとぎの国の人(「騎士」と小説家、リチャ姉) オルフェウスは荘園、もとい彼の実験場を新たに訪れた「騎士」を名乗る客人の、高い鼻筋に微かな影を落とす前髪さえ、その完璧さを演出することに寄与しているような優雅な美貌を横目で一瞥すると、(プライドが高い)と決めてかかるように分析した。
     よく手入れされた古い演劇衣装を身に着け、手縫いの青みがかった深緑のマントを肩に靡かせながら、時代錯誤のヘルメットを片腕に抱えて姿勢よくしゃなりと歩く彼を一見した人々は、近くに歌劇団でも来ているのか、そうでなければ、旅芸人の一人歩きと見られるだろうが、そんなことを改めて分析するまでもなく、蒐集されたカルテ群の中から選別され、定められたタイミングで実験場を訪れるように〝調整〟された被検体の情報というものは、粗方把握できているものばかりだ。
     リチャード・スターリング、われわれの協力者のうちの一つであり、裏である種の産業に手を染め、巨万の富を得ているという噂のあるスターリング家の長男であり、夫妻二人亡き今は、スターリング家当主の立場を持つ青年だが、騎士道物語の世界の中に生きている彼にはどうやら、家を経営しそこから日々の糧を得るという「現実の暮らし」に気を払うような発想は、些かも無いらしい。何せ現に、彼はここにやってきたのだ。挙式後程なくして失踪したという彼の「姉上」を探し出すために。

     前髪を靡かせながら、ここが招待状に記載の目的地であることに間違いないか確かめるリチャードに、オルフェウスは例の、小綺麗ではあるがやや貼り付けたような印象のある笑顔で慇懃に応じると、自ら彼に館を案内してみせた。対象者に個別で接触を図り、追加の〝情報収集〟を行う手法は、これまでに被験者が起こした「予想外の行動」によって失敗したいくつかの実験の経験をもとに取り入れられた手法である。
     「本番」を前に、この検体について知る必要があることは、本人の気質と行動の傾向だ。彼が何を目的にスターリング家に入り込み、或いは潜入させられ、何を得るために全てを排除して、「巣」を乗っ取ったのか。彼は何らかの外部組織の命を受けて活動する優秀な駒の一人であるのか、それとも、彼はただ騎士道物語の中に生きる、才ある異常者なのか――そして、屋敷を案内する道中に繰り広げた何気ない会話の応酬からオルフェウスが知れたことと言えば、リチャードの性質と彼の行動の動機はより私的なところにあり、彼は何らかの組織や密命を受けているというよりもむしろ、自らに密命を下す指揮官であり、自らに下した役柄を演じることに熱中している、ということぐらいであった。
    「最後にもう一つだけ、よろしいですか?」
     オルフェウスは最後、二階客室から、屋敷の案内を始めたまさにその場所である玄関ホールに戻る道中の階段を降りしなに、彼の先導に身を委ねて後ろから歩いてきていたリチャードを振り返ると、そう切り出した。オルフェウスは自らの肩書である「小説家」を名乗ることで、特に誇大妄想を抱くような対象者の警戒を容易に解き、カルテの欠落部分を埋めることに長けていた(実際、彼が名の売れた人気小説家であることは事実でもあった。)。案内人を買って出たオルフェウスに、自らの役職として「騎士」と名乗ったリチャードも、オルフェウスからの取材には気を悪くした様子もなく、饒舌に応えた――或いは、元より彼の「物語」に興味を持つものが相手であれば、誰が相手であろうと饒舌に語る性質であるのかもしれないが。
    「無論、構わない。」
     オルフェウスが切り出した質問に、気障ったらしいと陰口を叩くにしてもあまりにも優雅に、滑らかな声で返して見せるリチャードに、オルフェウスは例の貼り付けたような、もとい、取材に向いた余裕のある微笑みのまま「あなたもご存じのことと思いますが、より深く、読者の望むような濃い洞察を作品に与えるのが、小説家の役目というものです。であるからして、この質問を避けて通ることはできない。どうか読者の為のこの質問が、あなたの気分を害さなければと願うばかりですが……」と過剰な前置きを口にした後、さらに続けて言った。
    「あなたはここに、「役者」を探しにいらっしゃったのでしょうか? 聡明なあなたのシナリオを、完璧に演じられる役者――いえ、今更回りくどく言っても仕方がありませんね。あなたはここに、姉君の「代役」を演じる資質あるものを求めているのでは、」
     オルフェウスが放った、不躾な程輪郭のはっきりしたその言葉に、リチャードの完璧な微笑は微かに崩れると、元より陰鬱な雰囲気を纏う美貌は瞬く間に剣呑な眼差しとなって、挑戦的な敵意を真直ぐに向ける。
    「全く以て的外れだな」
     そしてリチャードは、オルフェウスの推論を聞き届けるでもなく声高に否定したが、その声は滑らかな声色のまま、図星を突かれた人間が毛を逆立てるような毛羽だった気配がまるでない。オルフェウスにはそれが解せなかった。この男は、チェスボードの上で戦術を練り続けることを好み、現実の生活に興味がない。そうやって「敵」の戦術を予見し、自らの定めた「戦場」を演じ切ることが彼の報酬に繋がるからか、或いは、そうやって自らを彩る「物語」の中にのみ人生の喜びを見出しているか、その歪みの内訳を明らかにする必要はないだろうが、いずれにせよこの種の、自分の思う通りに物事を運ぶことに悦びを感じる類の人間にとって、思う通りに事が進まず、自らの築き上げた世界である巣が焼け落ちる時ほど、自らの面目を辱める瞬間はないだろう。この手の性質を持つ人間は、自らの「完璧な」シナリオ通りに動かない役者というものを最も軽蔑し、毛嫌いするものだ――その瞬間に、オルフェウスの形の良い眉の間にうっすらとした、しかし確かにそこにある、白磁の表面に走ったヒビのような皺が微かに、自己嫌悪でもするようにぴしりと走る。
    「しかし、彼女はあなたの〝シナリオ〟を受け入れなかった。その上で、姉君に拘る理由は何です?」
     これが現実的な問題であれば、スターリング夫妻の実子であり、家督の継承権を主張できる彼女という存在は、あくまで手元に確保する必要がある。そんなところだろう。しかし、目の前の彼はおよそ現実的な男ではない、というのがオルフェウスの見立てである。それに、父母を難なく手に掛けたこの男が、姉一人を逃したとも考えづらい。彼の言う「姉さん」は既にこの世にはおらず、彼女に与えられた「姫君」の役割に相応しい、ある種の「代役」を探す途上に彼は居るのではないか? そうであれば、意義のある結果を得る為、この男には当然、何らかの調整を行うべきだ。リソースは無限にあるわけではないのだし――オルフェウスは当初の目的から段々とそれて行った道の先でひたすら試行を繰り返しているような現状に倦み、当初(少なくとも多少は)持っていたような熱意と気力を徐々に失いつつあった。
     そして、シミ一つない糊のきいた白いスーツを着こなしながらも、その白皙の面立ちに微かに倦んだような翳を滲ませたオルフェウスが、胸中で肩を落としながらやれやれと億劫そうな溜息でも吐いているような気配を嘲笑うかのように、リチャードはその時口を開けて「ハハッ」と音高く笑うと、オルフェウスの立てた推論を手で払いのける具合に、自らの烏の濡れ羽根を思わせる色をした豊かな横髪をかき上げ、「「騎士」は姫君を救い出すものだ。邪竜の息に惑わされることは決してない」と、いかにも「騎士」らしく、清廉な自信に満ち溢れでもしたような調子で、高らかにそう宣言する。
    「……スターリング家の一件は、最初から破綻するためのシナリオだったということでしょうか?」
    「それも違うな。ただ、姉さんは私を見つけたんだ。」
    「シナリオを否定したからこそ、あなたにとって姉君は特別だと?」
    「いいや、そうではない……あなたは古き良き物語の心に立ち返る必要があるのだろうな、〝オルフェウス〟殿。ドイルやポアロを名乗るなら兎も角、その名を負うのであればこそ!」
     それまで踊り場に立ち、彼の前を歩いて屋敷内を先導し、今は半身だけ振り返りつつ怪訝な表情で質問を繰り返すオルフェウスを見下ろしていたリチャードは、朗々と台詞を読み上げるような調子で芝居がかった言葉を続けつつ、身に着けた鎧の存在感を示すように微かな金属の擦れる音を立てながら階段を一段一段、確たる足取りで降りると、「愛する人には、本当の私を見ていてほしい」と、(彼の真実を自らの築き上げた舞台の上にのみあるものと決めかかっているオルフェウスにしてみれば、違和感を覚えるまでに)素朴な、まるで恋を覚えたばかりの少年めいてすらいるようなことを口ずさみながら、それまで数段下から彼を見上げていたオルフェウスに並び立つ。
    「それこそが、ロマンスというものだろう? そして……姉さんは私を見つけたのだ。」
     その時リチャードは、ひとつの小さなほくろに彩られた口角を引き上げ、隣に立つオルフェウスに向かって魅力的、かつ親し気に柔く微笑んだが、それは彼の考え得る物語の外側で安楽椅子に座るばかりで、心あるものであればおのずと感じ入るような「ストーリー」の自明ささえ理解できない頑迷さを備えていると思われるオルフェウスに宛てた憐憫であり、品の良い侮蔑に他ならない。
    「だから、次は私が姉さんを探し、見つけ出すんだ。永遠の幸福を共に過ごすため……それだけのことだよ」
     そして、オルフェウスはそれを解さない程の男ではなかった。その意を正しく受け取ったオルフェウスが、リチャードからの親し気な調子の言葉とは裏腹に貼り付けていた微笑を消し、思案気に、或いは、少なからず苛立たし気に口を噤んで黙り込むのを見届けるでもなく、リチャードは鎧を誇るように微かな音を立てながらオルフェウスを悠々と追い越して階段を降りきると、ある童謡の旋律――それは、常に物語の中心に存在すべき彼の存在と身分を歌い上げる、「騎士」の伝説のはじまりに相応しい曲であるが――を口ずさみながら、玄関ホールから颯爽と立ち去った。
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    recommended works

    @t_utumiiiii

    DOODLE #不穏なお題30日チャレンジ 1(2).「お肉」(傭オフェ)
    ※あんまり気持ちよくない描写
    (傭オフェ) ウィリアム・ウェッブ・エリスは、同じく試合の招待客であるナワーブと共に、荘園の屋敷で試合開始の案内を待っていた。
     ここ数日の間、窓の外はいかにも12月らしい有様で吹雪いており、「試合が終わるまでの間、ここからは誰も出られない」という制約がなかろうが、とても外に出られる天候ではない。空は雪雲によって分厚く遮られ、薄暗い屋敷の中は昼間から薄暗く、日記を書くには蝋燭を灯かなければいけないほどだった。しかも、室内の空気は、窓を締め切っていても吐く息が白く染まる程に冷やされているため、招待客(サバイバー)自ら薪木を入れることのできるストーブのある台所に集まって寝泊まりをするようになっていた。
     果たして荘園主は、やがて行われるべき「試合」のことを――彼がウィリアムを招待し、ウィリアムが起死回生を掛けて挑む筈の試合のことを、覚えているのだろうか? という不安を、ウィリアムは、敢えてはっきりと口にしたことはない。(言ったところで仕方がない)と彼は鷹揚に振る舞うフリをするが、実のところ、その不安を口に出して、現実を改めて認識することが恐ろしいのだ。野人の“失踪”による欠員は速やかに補填されたにも関わらず、新しく誰かがここを訪れる気配もないどころか、屋敷に招かれたときには(姿は見えないのだが)使用人がやっていたのだろう館内のあらゆること――食事の提供や清掃、各部屋に暖気を行き渡らせる仕事等――の一切が滞り、屋敷からは、人の滞在しているらしい気配がまるで失せていた。
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