さようなら、ダンスの下手な僕の友人元婚約者だった彼女と王都で再会したら彼女は騎士になっていた。
「キミは騎士になったのか」
「ええ、貴方が貴方のお父様達から逃げた後に私は騎士になるって決めたのよ」
彼女の言葉を聞いて昔の彼女は貴族令嬢であるはずなのに昔から僕達兄弟を木の棒で追いかけ回していたくらい活発な人だったのを思い出して思わず僕も納得してしまった。
「キミらしいな。」
「貴方もねアーノルド。」
それから彼女と久々に出会い他愛もない話に花が咲き、何度かお酒を飲んだりするようになった。
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某日。王城でダンスパーティーがあると職場の人達が浮かれているのを横目にいつも通り仕事を始めた
。もちろん僕は参加する予定などなかったのだが親友や弟子がたまには参加でもしてみろと勢いに押されてしまった為顔だけ出して帰るつもりで会場にむかった。騒がしいは好きではないし、正直本を片隅で静かに読んでいた方が有意義だ。
そう考えている僕に声をかける者がいた。振り返るとパーティに参加していたであろう彼女だった。彼女は僕と違って楽しいことが好きであるのは昔から知っていたのでなんら不思議ではない。
突然騎士である彼女に腕を掴まれて仕舞えばもう逃げることも出来まい。
「アーノルド、ダンスは出来るでしょう??貴方がリードして。」
「ブランクがあるし、そもそもキミはダンスが苦手なんじゃなかったのか?」
僕の記憶では、僕が参加した数少ないパーティでは踊っている彼女を見たことは無かったしなんなら彼女は昔ダンスが嫌で泣いてるとこも見ていた。
「別にいいわよ。それより昔パパの足に乗せてもらってダンスをした事があるの、アーノルドもできるでしょう?」
にっこりと言う彼女に僕も流石に顔を顰めた。
出来なくはないがと伝えてる途中で彼女が僕の腕を引っ張る。つられて踊る場所につけば彼女の知り合いであろう騎士達がちゃちゃを入れているあたり彼女のダンス下手は他の人にも伝わっているのだろう、中には戦いで傷付いたときに治療をしてやった者達もいた。
仕方ないと彼女に僕の足に乗せてといえば嬉しそうな顔をした。
曲に合わせて足を動かせば彼女は笑い、僕もつられて笑う。まぁ彼女が楽しいのならたまには騒々しいのも悪くは無い。
「ありがとうアーノルド。久々に楽しかったわ。」
そう言って笑う彼女を見て僕も満足して会場を後にした。
そして数日後彼女は僕の腕の中で冷たくなった。
魔物討伐で前線に居たはずの彼女が運び込まれて来た時に必死に回復魔法をかけたがもう手遅れだ。
僕は何も出来なかった。
「あー、のるど…………。笑ってくれなきゃ、いや、よ」
こんなときに笑えるわけが無いだろ。そもそも僕は笑えないのだ。
「ばかね、あの時、笑って、た…」
そうして彼女は死んだのだ。
僕の腕の中で。
僕が昔キミと結婚出来ていたらキミはここで死ぬことは無かったのか?
……いや彼女は僕を捨てて騎士になっていただろう。
最後の言葉はそれでよかったのか??
僕は笑えていたか?
もう誰も答えはしてくれなくなってしまった。
ああ、今度こそ本当にさようなら。
さようなら、ダンスの下手な僕の友人。