熱海 ゴルフを楽しんだ後、
温泉にでも浸かりませんか、
と眼鏡の若手弁護士に誘われた時、
何と馬鹿げたことを言い出すのかと、
狩魔はその男を心の底から軽蔑した。
百万年、早いわ。
あまりに軽蔑したので、
常より滑らかに返事をしてしまった。
「断る」
「やはり、お忙しいですか?」
「当然だ」
「残念です」
言葉ほど残念そうには聞こえない声で、
眼鏡の弁護士はあっさりと引き下がった。
「では、どなたか別の方をお誘いしてみます」
そう言われて、
狩魔は軽蔑の上に怒りを重ねた。
「待て」
「はい」
「貴様、何様のつもりだ」
「と、おっしゃいますと」
過度の軽蔑と怒りのために、
平たくなった声で狩魔は言った。
「吾輩を、誰だと思っている」
1610