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    sengiricabbagee

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    sengiricabbagee

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    かるまごう+みつるぎしん 逆転裁判2時点
    (身内のサルベージ)

    熱海 ゴルフを楽しんだ後、
     温泉にでも浸かりませんか、
     と眼鏡の若手弁護士に誘われた時、
     何と馬鹿げたことを言い出すのかと、
     狩魔はその男を心の底から軽蔑した。

     百万年、早いわ。

     あまりに軽蔑したので、
     常より滑らかに返事をしてしまった。

    「断る」
    「やはり、お忙しいですか?」
    「当然だ」
    「残念です」

     言葉ほど残念そうには聞こえない声で、
     眼鏡の弁護士はあっさりと引き下がった。

    「では、どなたか別の方をお誘いしてみます」

     そう言われて、
     狩魔は軽蔑の上に怒りを重ねた。

    「待て」
    「はい」
    「貴様、何様のつもりだ」
    「と、おっしゃいますと」

     過度の軽蔑と怒りのために、
     平たくなった声で狩魔は言った。

    「吾輩を、誰だと思っている」
    「狩魔豪さん。完璧なる常勝検事」

     打てば響くような速さで、
     眼鏡の弁護士が穏やかに答えた。

    「私の、商売敵ですね」
    「貴様など、吾輩の敵ではない」
    「はい、今のところは」
    「何?!」
    「いつかは、勝ってみせますよ」

     それも、
     おそらくは近いうちに、
     と言って弁護士がうっすらと笑った。

    「ですから、お誘いしたのです」
    「どういうことだ」
    「貴方と私が、本当の敵同士になる前に」

     一度くらいは、
     プライベートでお会いしてみたかった、
     と弁護士が呟いた。

    「でも、やはり無理なようですね。失礼しました」
    「本当に失礼な奴だ」
    「申し訳ありません」
    「貴様は、何も分かっていない」
    「は?」

     眼鏡の弁護士が、
     今日初めて見せた僅かな隙に、
     狩魔は鋭く攻め込んだ。

    「まず一つ。吾輩は、決して負けない。絶対にだ」
    「ほお」
    「次に一つ。吾輩の代わりになれるような者は一人も居らん」
    「ほおお」
    「この二つの根拠から導き出される結論は何か。言ってみろ」

     眼鏡の奥の視線を少し逸らせた後、
     弁護士は速やかに答えた。

    「まず一つ。貴方と私が本当の敵になることは一生ない」
    「次に?」
    「故に私からの誘いは保留扱い、ということでしょうか」
    「一番目はともかく、二番目は随分と勝手な結論である」
    「すみません」
    「だが、間違ってはいない」
    「は?」
    「論理に破綻はないからな」

     聞くだけは聞いてやる、
     と言って狩魔は腕を組んだ。

    「どこだ」
    「はい?」
    「場所は」

     眼鏡の奥の目を丸くしながら、
     弁護士が再び穏やかに答えた。

    「熱海です」
    「熱海か」
    「はい」
    「通俗的だな」
    「そうですね」
    「せめて、川奈ならな」
    「あそこは、VIPだけでしょう」
    「当然だ。吾輩が会員なのだから」

     組んだ腕を解いて、
     狩魔は口の端で笑った。

    「首を洗って出直して来い。市井の弁護士風情が」

     これで話は終いだと、
     背を向けて歩き出した狩魔を、
     弁護士の声が追い掛けて来た。

    「では、お忍びでどうぞ」

     下々の生活を知ることも、
     支配階級の義務の一つではありませんか?
     もしも完璧なる振舞いをお望みならばの話ですが。

     狩魔は再び足を止めて、
     肩越しに背後の男の顔を見た。

     あくまで穏やかな微笑みの下に、
     喰えない男のしぶとさが透けて見えた。

     まるで、雑草だな。

     自分の足を二度に渡って止めた男に、
     狩魔は向き直った。

    「御剣信」
    「はい」
    「吾輩に、勝つつもりか」
    「はい」
    「狂気の沙汰だな」
    「そうでしょうか」
    「その狂気に免じて、一つ約束してやろう」
    「は?」
    「もし貴様が吾輩に勝つことが出来たなら」

     熱海でも何処でも、
     存分に付き合ってやるぞ。

     そう言い捨てて、
     狩魔は今度こそ歩み去った。

     平日午後の、地方裁判所。

     細い廊下に一人残された御剣は、
     遠ざかって行く男の背中を見つめながら、
     小さく不敵に笑ってやはりその場を後にした。
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