お題「無言で緩く抱きつくことがたまにで、構ってあげると顔を赤くします」ドスン。と音がして、背中に衝撃が走った。
気配には気づいていたし、どうするつもりなのかも何となくわかっていたので、作業の手は止めていたから被害はない。当然だ。
4日前くらいから帳簿が合わないとかで部屋にも帰ってきてなかったようだが、ここに来たって事は、ようやく一息付けたんだろう
文次朗は普段から意図的に自分を追い込んではいるが、それを超えてしまうとコントロールが少し甘くなる。
なので、勝負を吹っかけては、なけなしの気力体力を削って布団に放り込んだりしてきたのだが……。
恋仲になってからは、こうして作業中の俺の背中に懐いてくるようになった。
ちなみに作業してない時は来ない。
一回理由を聞いたことがあるが、なんでも『作業をしている音を聞いてると自然に眠くなるから』だそうだ。
なので、俺は作業を再開する。
小刀で木を削る音だけが部屋に満ちる。
しゅるしゅる、さりさり
それ以外の音は呼吸音さえ聞こえない
早く、寝ればいいのに
しゅる、しゅる…
そこにかすかな呼吸音が混じった
ああ、ようやく寝たか……強情な奴
ちょうど作業は終わったし、寝堕ちた文次郎を部屋に運んでやるのも吝かではないのだが
俺もなんだか、背中を温める体温と重みを離しがたくなってしまったようだ。
「さて、どうするかね」
身体を捻ると、文次郎の身体が傾いだ。
熱と重みが離れて寒いからだと心の中で言い訳をして一緒に寝転がり、その無防備な耳に唇を寄せると、鼻をくすぐる文次朗の匂いに熱が上がった。
今晩は冷えるから、早く起きて芯からどろどろに蕩けるくらいに熱くしてほしい。
「起きたら構えよ?ばかもんじ…」
留三郎がつられて寝息をたてる頃
文次朗が動くことも叫ぶこともできずに、ただただ顔を赤くして悶えていたのは、また別のお話で。