嵐が恋を連れてきた現パロ
※メインは甚直ですが、五♀夏♀五♀が出てきます。
地雷がある方は読まないでください。
世話ンなってるオンナがチェーンのファミレスの店長だったンだけど、人手不足で忙殺されて、アタマパーになってトんじまった。
オレはオンナに乞われたびたび無給でその店を手伝わされてたが、新しく本部から派遣されたオッサン店長はオハザースと裏口から入ってきたオレとシフト表をキョドキョド見比べて、
「誰だキミは!?」
と怒鳴った。
オンナはオレを入社させずにシフトにプラスワンで働かせてたので、オッサンがビビるのも当然。
オンナがトんでからオレはバイトの連中の家を転々としていたが、今は人間関係のトラブルを恐れたオッサン店長が自宅に住まわしてくれてる。その上ちゃんと給料が出るよう入社手続きもしてくれた。
メシは出るし金はもらえるしネドコの心配もねエが、本業の仕事が入ったら二秒でバックレなきゃなんねエし、最近オッサンがオレの将来だの何だのを心配してクチ出してくンのが増えてチョットウザイ。
安さがウリのこのファミレスに来る底辺ドモをヘラヘラ笑って見てンのは楽しいンだが、物事には向き不向きがある。
オレには時給千円の仕事は向いてない。
オレが向いてるのは、ヒトヤマ何十万の後ろ暗いヤマか、オンナの部屋で帰りを待つ時給ゼロ円の暮らしか、そのドチラか。
バサバサバサッと何かが翻る音、風がドアを抜けてビュウビュウ吹く音、チリンと音が鳴ってソレらが遮断される。重たくて客には不評なドアだが、その重さが幸いし一度閉まってしまえば外界の音を殆ど通さない。今日みたいな悪天候でも、雨風でドアが軋むコトもない。
そのドアを開けてヨロヨロと入ってきた客は、アタマのテッペンからツマサキマデが例外なくビショヌレになっていた。持ち物はビジネスバッグだけで傘はなく、苛立った様子で下品なキンパツをかき上げる。コートを脱ぐと、かろうじて濡れていないスーツのエリモトを神経質そうな所作で整えソレから黙って見ていたオレを睨みつける。
「突っ立っとらんで早よ通せや」
「アア、スンマセン。一名様ですか」
「見たらわかるやろ…………」
ヨケーにイライラとさせたようで、舌打ちをされた。マニュアルくらい流せるニンゲンであれよ。
イツモドーリお好きな席へとテキトーに案内し立ち去ろうとすると、オトコは何か拭くモン持ってきてとエラソウに言い捨てて奥まったボックス席に座った。
「ドーゾ。ゴチューモン決まりましたらそちらのボタンでお呼び下さい」
「待てや。コレ何?」
テーブルにポンと無造作に置いた箱ティッシュをユビさすオトコの額にはアオスジが立っているように見えた。
「ティッシュですけど。見たらわかりません?」
「拭くモン言うたら、タオルやろ。こないなペラ紙で拭け言うんか?オレがビショビショなん、見たらわからんかなア?」
箱ティッシュを持ち上げてテーブルにカンカンとぶつけながらイヤミッたらしく文句を言う。
「ホテルじゃねーンだから、あるワケねーだろ。サイ○リヤだぞ。メニュー見てからモノ言えよ」
客単いくらだと思ってンだバ~~カ。
オトコは無言でメニューを開き、ちょっと目を見開いた後、眉間にグググとシワを寄せた。
「オカシイやろこの値段……三百円て、何使こてんねん、気味悪いワ……」
「ゴチューモンは備え付けの用紙にご記入下さ~い」
「コレとコレ。あとワイン」
「………………赤、白ドチラでしょーかー」
オトコはコチラを見もせずに、イチバンマシなの、と答え、ティッシュで髪から滴る水滴を拭っている。ホントはグラスかデキャンタかボトルかも聞かなきゃならんが、フツウにムカついたからイチバン高いボトルを入れてやろう。
オトコの身にまとう場違いなスーツやクツ、バッグ、時計、最新のiPhone、何よりその高慢なタイド……から察するに金は持ってるだろうからダイジョーブっしょ笑
「あとコーヒー」
「ドリンクは単品でチューモン頂けませ~ん。ドリンクバーセットになさいますかあ」
「何でもエエから早よしてや」
「セルフサービスです」
絶対にドリンクバーの使い方ナド知らないだろーケド、シカトして厨房へ戻る。
ホールの仕事は接客だけでなく、デザート、アルコールは自分らで用意しなきゃならない。酒を頼むジジイとデザートを頼むガキがいるときはヨケーな仕事が増えるってワケだ。
ワインボトルとグラスを用意しホールに戻る。テーブルには既にホットコーヒーが湯気をたてており、スマシガオの可愛げのなさにマスマスイヤケがさした。金持ってて要領もよく、この分だと実家も太いンだろーな。チッ!
「お待たせしましたあ」
「……………………」
一言も発さずスマホを見ている。
チラと見えた画面から見るに、電車の運行情報を見ているようだ。残念だが、今日はこの悪天候のせーで根こそぎ運休だよ。始発までせいぜいサ○ゼでムダ金を使うこったな。
その後料理を提供するトキもタイドは変わらず。パカパカグラスを空けて追加でボトルを注文するトキにしかクチを開かない。料理も、シブシブ食べてはいるがヤハリクチに合わないようで進みが遅い。
「冷めるとヨケーマズイっすよ」
「…………サイアク」
フとクチを衝いて出たコトバに、ようやっとレスポンスが来て、客が他にいなくてタイクツだったからそのまま話しかけてみた。
「アンタさア、メチャクチャタイド悪いね笑 ドコ行ってもそうなん?」
「ハア?気安いなキミ……」
「何でサ○ゼ来たの?」
「………………他になかったからや、朝マデやっとるミセが」
ココはオフィス街で昼、夕時は混むケド、今日みたいな休日は基本的に閑散としている。くわえてこの悪天候じゃ客足も見込めない。
だから周囲のミセは臨時休業かよくて早仕舞い。ウチはホスピタリティがどうとかで通常営業となった……。
「料理ウマイ?」
「そう見えるか?」
「三五〇円だからな笑」
テーブルセットしてあるカトラリーからスプーンをとり、スッカリ冷めた煮込み料理を掬って食べる。
「ハア?」
「イージャンどうせ、食わないんだろ」
「オマエ何なん?責任者呼べや」
「いねーよこんな時間に。オレだけ。黙ってワイン飲んどけ」
正確に言うとキッチンにもうヒトリ、暗いオタクのフリーターがいるケドもアイツを呼んでもハナシになるまい。
ボトルを片手で持ち上げ、まだ半分以上残ってるオトコのグラスにドボンドボンとワインを注ぐ。
「流石に酒はな~、勤務中だから♡」
「どのクチが……早よ仕事せえ」
「もおやるコトないモン」
オトコの座る向かいに堂々とコシ掛け、料理の皿をスプーンで寄せた。ヒジをついてダラダラしながら残りを掻っ込む。
「チュートハンパに食ったらヨケーハラ減ってきた。なんか頼んでイイ?」
「エエからどっか行け。アタマオカシーでこのミセ。ドコもこーなん?」
「親しみ易くてイーダロ」
煮込みに入ってるちょぴっとした肉なんかよりもっとガッツリ肉が食いてえ。
注文トバしてホドヨイ頃合いにキッチンに戻る。
「コレがオレのオススメな」
「何ッで戻ってくんねん!」
肉、肉、肉の鉄板をヨッツ携えて戻る。ライスはムロン、勝手に大盛り。
チョリソーとハンバーグの乗った鉄板を自分に寄せ、リブステーキをオトコに押しやる。
イヤそうなカオをされたケド、シカトしてフォークでハンバーグをカットしライスと一緒にかっ込んだ。
「同じコト言わせんなよ。冷めたらマズイぜ」
「食いながらシャベンな…………」
オトコはウンザリしたカオでナイフとフォークをとる。何だかんだでハラは減ってるようだ。
「ウマイ?」
「マズイ」
「このミセでイチバン高い料理だぜ。ソレがダメなら全部アウトだな」
と言いつつ黙って食うオトコ。
タイドは悪いがやはりイイトコの出らしく、ステーキをカットしてクチに運ぶ所作は非常にお上品だ。
そのステーキをイチマイ平らげる前にオレはハンバーグとチキンステーキ、自分の分のリブステーキを片付けた。ハラがクチくなったのでソファに横になりヒト眠りするコトにする。
「オイ!アリなんかソレ!!」
「客が来たら起こして」
来るワケねーケドよ。終電はトックに終わった時間だ。
「オイ」
「スヤ…………」
「起きろアホンダラッ!」
バシンとアタマをはたかれて目を覚ます。
見上げると、性格の悪さが滲み出た目つきの悪いオトコに睨まれている。オトコの背後から刺すような鋭い光がチラつき、思わず目をギュッと瞑った。
誰だっけコイツ……。
「寝るなや寝汚い。帰るから、早よ会計してんか」
「…………あ~…………そうだそうだ、勤務中だった……笑」
「どのクチが……」
モソリと起き上がりアクビしながらカラダを伸ばす。
「アレッ、アンタもしかしてずっと起きてたの?」
「こないなトコロで寝られるか」
テーブルの上には見覚えのないワインボトルが増えていて、その代わり放置してたステーキの鉄板ナドが消えていた。
昨夜はコイツと、オレと、キッチンのオタクしかいない。オレは寝てた。コイツが自分で給仕ナドするハズもない。
「なんやねんアイツ。ロクな店員おらんのか」
「…………アハ」
キッチンのオタク、カワイソウに。
自分の荷物だけ持ってサッサカレジに向かうオトコをノンビリ追いかける。
「あのさア、伝票テメエで持って来いよな」
ヒラヒラとユビで摘まんだ紙をオトコの眼前で上下に振ったら、マガオで避けられた。可愛くねえー。
バーコードをスキャンして、イチオー値段を読み上げる。
「一万六百五十円でーす」
ソロサ○ゼであり得ん数字出た。
酔っ払いだったら、エ!?そんなに!?サ○ゼなのに!?って驚いてイヤそうに払うんだが、案の定オトコは何てことないカオでペラペラのサイフを取り出す。
ペッとほぼほぼ投げるようにキャッシュトレーにクレジットカードを無言で置いた。
「カード使えないッスよ」
「……ハ?」
「クレカ決済対応してない」
「ほな、コード決済、」
「や、だから、現金のみだって」
オモシロイ展開になってきたなと観察してると、オトコがマガオでオレを見つめ返す。
「そんなコトある?」
「客単低いから、導入してねえんだって」
「…………………………」
※実際のサイ○リヤでは二〇二一年四月よりキャッシュレス決済を全店に導入しています。
「…………コンビニで、下ろしてくる」
「昨日深夜から今日イッパイ、店内改装で休業中。他のエキチカのコンビニは三軒先の駅マデない。あとは歩いて二十分以上かかる」
「なっ………………」
愉快だ…………。
イケスカねえー金持ちが焦ってるのはサイコーの光景だな。
ハライッパイで朝までグッスリ寝て、追加でこんなイイオモイが出来るとは……。オマケに給料も発生してるし。
「チッ…………コンビニに、行って来るから、」
「エエ~?食い逃げとかされたら困るう~」
「するかアホッ!身分証、置いてけばエエやろ!?」
バンとカウンターに叩きつけられた免許証には、ウツリはイイのにブアイソな顔写真と、イチバン上に“禪 院 直 哉”と記載があった。ウーワ、いかにも旧家、名家ってカンジのヤーな名字。旧漢字?気取ってんねエ~。
そんなお上品な出であろうに、目の前のオトコは殺意バリバリの表情でコチラを恫喝している。ヤクザモンかよ。ヘンなヤツ。
「プッ」
「!?」
「アーワリワリ…………イーヨ。金貸してやる」
ニンマリ笑ってやると、オトコは面食らって、それからスグに居心地悪ソーに目を逸らす。
「ヨケーなコトすンなや…………下ろしてくる言うてるやろ」
「オレ昨日出勤前にパチンコ勝ったンだよね~。もうジャンジャカ出るわ出るわ……おかげで遅刻してメッチャ怒られちゃった♡笑」
ブツクサ文句を言うオトコをムシしてケツポケからクシャクシャの万札を二枚取り出してレジに入れる。会計ボタンを押すと、自動でオツリがジャララと出て来た。ケツポケに仕舞い直す。
オトコは助けられたのがヨホド悔しいのか眉間にシワを寄せてスッカリ大人しくなり、クチビルを引き結んでいる。
重たいガラスドアから外を見ると、スッカリ晴れ渡って雲ヒトツない。
「じゃーな、ちゃんと金返せよ」
レシートをさっきみたいに眼前で振ってやると、手を掴まれてピッと奪い取られる。
「自分、覚えとけや…………」
「ンでそんなエラソーなんだよ笑」
オトコは高そーな尖がったクツでオオマタの早歩きで店を後にする。
振り返らないその背中を何となく見えなくなるマデ見送って、ウ~ンと伸びをヒトツしてから、オタクに朝飯作ってもらいにキッチンに戻った。
あの日サボってたのをキッチンのオタクが店長にチクッたせーで、オレはコッテリ絞られた。せっかくイーコトしたのによ。
そのコトをついでに話したら、褒められるどころか、トラブルのモトだから金銭のやり取りはしないように、だって。アタマ固いねエ。
オトコだし、この体格だしで深夜から早朝時間帯に入るコトがホトンドだったシフトは、ピークから深夜時間帯へと変更になり、常に店長に見張られている。だからダッセエハンチングも被んなきゃだし、髪も結ばなきゃなんねエ。
ツマンネエーからそろそろバックレっかなと思っていたある日、悪天候でもないのに件のオトコが再来店した。
「ラッシャーセエ。一名様ですか」
「見たらわかるやろ…………」
だから、マニュアルくらい流せよ。イチイチウルセーな。
ピーク終わりの店内はまだビミョーに稼働が高くて、空いてる席は狭めの二人掛けのテーブル席だけだった。客がいないテーブルもボチボチあるが、まだ片付いてない。
席に案内するとオトコはあからさまにイヤソーなカオをした。
「混んでんだからシャーネージャン」
「空きあるやん、他にも」
「片づけてねエんだっつの」
「じゃあ早よせえや」
そーだったコイツそうゆうヤツだった…………。
言い捨てて、勝手に入口に設置されてる待ち客用のイスにふんぞり返りアシを組んでやがる。
前みたいに誰もいなければ、じゃあテメエで片付けろとダスターを投げつけてやったものを…………運のイイヤローだぜ。
バッシングを済ませテーブルをザッと拭く。オトコを呼びに行こうと入口の方へカオを向けると、コチラを見ていたようで目が合う。
マガオだが、ギラリと強い視線は逸らされるコトがなく、ハテとクビを傾げる。ウインクと一緒にキスを投げてやったら、途端にさっきと同じイヤソーなカオをした。
手招くと、肩を落として大きなため息を吐いてから大人しく従った。
「お待たせしましたあ~」
「自分、誰にでもやっとンのか?」
「ア?何が」
オトコは窓側にビジネスバッグを置き、背広を脱いでバッグに乗せ通路側に寄って座った。エラソーに、アシを大きく開いて座るモンでヒザがオレのスラックスを擦る。
「………………………………」
「ゴチューモンは備え付けの用紙にご記入下さ~い」
「ワイン。前と同じの」
「………………………………」
聞かねえなコイツは……。
「………………あとステーキ」
「………………へえ」
「何やねん」
「べっつにィ。単品でよろしいですかあ」
「タンピン?」
メニューを広げて、ライスやパン、スープをトントンと指す。オトコは一五〇円、と呟いて、結局ライス大盛を注文した。
「ドリンクバーはつけますかあ………セルフだけど」
「ほんならつけといて………………あとコレ」
懐から出した白い封筒をエプロンのスキマにねじ込まれた。
「コレで貸し借りナシや」
封筒を取り出すとオモテに社名が入っていて、ソレは誰でも知ってるようなデカイ商社だった。そーいや、この辺に本社ビルがあるとか聞いたな……。
アソコはビル内にいくつも上等な飲食店が入ってるから、ワザワザサイ○リヤに来ねえーし忘れてた。てコトはコイツ、超エリートじゃん。全身ハイブラで堅めてるのもトーゼンだわな。
「今日はちゃんと現金持ってンのかよ、最近負け続きだから貸してやンねーゾ」
フンとハナイキヒトツ、オトコは席を立ちドリンクバーにコーヒーを淹れに行った。ウロチョロ走り回ってるガキをキヨウに避けながらオオマタの早歩きで。
ドリンクバーのコーヒーマシンに向かう後ろ姿はケツの位置が順番待ちのオッサンよりずいぶんと高く、アシが長いンだなとフと気付く。
「マ、オレのホーが長いケド~……」
封筒を二つ折りにしてケツポケに仕舞う。
キッチンに戻り、出された料理を提供する。皿を片付ける。会計をする。机を片付ける。客を案内する。
ソレらを繰り返している内に、ピークも終わりフロアの客はどんどん減っていった。
「じゃあ僕は明日オープンだから帰るケド、くれぐれもトラブルは起こさないようにね!ヒマになったらちゃんとやるコト探してね!」
店長は先に上がり、残されたのはオレともうヒトリのホールスタッフのオンナ、キッチンスタッフのオンナ三人になった。二時間後に朝までのスタッフが出勤してきたら交代でオレたちは退勤。ちなみに、キッチンの深夜帯はあのオタクだ。最近は退勤間際に死ぬほど話しかけて絡んでいる。オレとオタク、ドッチが先にバックレっかな…………笑
ピーク時間帯にメチャクチャになったドリンクバーやトイレ、フロアの点検を終わらせて、もうやるコトがなくなる。
一緒に入ってるオンナ共は、人類の中では珍しくオレのコトを嫌っていて、ヒマになったとたんキッチンでフタリでオシャベリを始めた。
たぶんコレも店長の仕組んだコトで、他のオンナスタッフだとオレに甘いのであのフタリに見張らせているンだろう。
レジに寄りかかってるうちに会計が何組か立て続いたので、オンナがまとめてバッシングし、オレはテーブルをテキトーに拭いた。
フロアを見回すと客は残り一組になっていて、その一組は、例のあのオトコだった。
「ウマかった?ステーキ」
「マズイ」
「だろーな」
商社勤めに千円のステーキのヨサはわかるまい……。
オレはまた前の席に座って、ヒジをついてオトコのグラスにワインを注いだ。
被らされていたハンチング帽を放り投げ、髪を解きブルブルとアタマを振る。やっと落ち着いたぜ。
「アレ、あんま飲んでないじゃん」
「………………この後仕事やからな」
「仕事なのに飲んでイーの?笑」
オトコはグラスを煽りイッキに飲み干して、グラスをオレに寄せた。
「禪院さーん、ココキャバじゃないンすケド~」
「!?」
言いながらワインを注いでやったら、オトコはイキナリ盛大に咽せ手でクチを抑えながらうずくまった。
「ゴッホゴホゴホ!!」
「カッコつけてイッキするから」
「ちゃうワッ、アホンダラ!!ンッ!!………………名前、何で知ってるん」
ソレで驚いたの?カワイイトコあるじゃ~ん笑
「何でって、免許証見せびらかしてきたジャン」
コンビニに金を下ろしに行くとか何とかのトキに、カウンターに叩きつけられた免許証。
“禪 院 直 哉”
「イカにも金持ち、って感じのイヤミったらしい名前だよなア」
「少しは歯に衣着せンかい」
「だってさア、オレアンタに金貸してンだぜ?今更ある?そーゆうの」
「もう返したやろ…………自分は?」
何かオゴッてもらおとメニューをパラパラ見てたら、トウトツにオトコが訊ねた。強い視線がオレにぶつかる。
「…………何が?」
「わかるやろ、今の流れで…………名前や」
名前…………オレの?
訝しく思ったがムナモトにあるプラスチックの名札、「ふしぐろ」と記載されている名札をユビで摘まんで見せてやる。
「ちゃうくて。下の名前」
「アア?…………甚爾だけど」
「トージ?どんな字?」
ボールペンを手に取って注文用紙のウラ側に書こうとしたがインクが出ない。オトコはペンくらい持っとけとため息を吐いて、自分のカバンから重たいボールペンをオレによこした。ペン先は紙に引っかかるコトもなくインクがスルスル滑るような書き心地。
用紙のウライッパイのデカイ字で、“甚爾”と書いた。
「ケッタイな字ィやなア」
「“禪院”に言われたくないね」
「オレは新字体で書く」
「ズッケーぞテメー」
ボールペンを返そうとしたら、コチラを見もせず仕事中くらい持っておけと受け取らなかった。
エプロンのポッケにスルリと放り込んで、またメニューを見る。
「トージクン、オレスグ帰ンで。頼むンなら早よしィや」
「ハイ?」
「言うたやろ?この後仕事やって」
「チガウチガウチガウ」
眉間にシワを寄せてウットーシソーに窺われる。ホナ何、じゃなくてだね…………。
「な~んで下の名前で呼ぶンだよ」
「やって、フシグロってウソッポイモン。何?イヤなん」
「べっつにィ…………ウソッポイって、シツレーなヤツ」
アナガチ外れてもない。
フシグロは何年も前に籍だけ入れたオンナの名字だ。甚爾だけがホントの名前。カンが鋭いなコイツ。
「全然似合うてへん」
「アッソオ。好きにすれば」
「言われんでも」
料理を注文して、自分で運んで席に戻る。オトコはもう何も言わなかった。
スグ帰るって言ったクセに、ダラダラメシを食うオレを急かすコトもなく、オレが食い終わる頃にホットコーヒーをイッパイ飲んで、タバコが吸いたいとボソリと呟く。
「禁煙」
「わァッとるワ」
会計、と言い捨て先に席を立つ。追いかけてレジに立つと、先にキャッシュトレーに万券が出されていた。
「ニヤニヤしなや……」
「してな~い」
オツリを渡そうとして、フト気が付く。
返してもらった金、封筒から小銭の音しなかったな。まアいっか、利子ってコトで…………笑
「トージクン」
「ア?何」
フラチなコトを考えていたからホンの少しドキッとした。思ったよりブアイソなコエが出てシマッタと内心舌を打つ。
オトコはジィとオレを見つめた後、フンとハナで笑ってニヤリとクチハシを上げた。
「ボーシ、よお似合うとったで」
「………………はあ~~~ッ?」
ハッと気が付いた頃にはスデにオトコはミセを出ていて、ウシロスガタも追えない。
…………何か気に入らない…………。
だけどもう二度と会うコトはナイだろう。
だってアイツの会社には何件も飲食店が入っていて、サ○ゼでイチバン高い千円のステーキは、クチに合わなかったンだから。
「テメ、伏黒ォ!!テメーで食うモンはテメーで作れやッ!!」
ところがオトコはホトンド間を置かずに来店するようになり、オレを大変困惑させた。しかし、オレが上がるマギワまで居座り、マイド肉をオゴッてくれるのでスグに慣れてどーでもヨクなった。
「アンタの仕事ってさア、案外ヒマなの?」
「ンなワケないやろ。オレやなかったら死んでる」
「優秀アピウザwww」
さて本日も、早々に仕事を終わらせダラダラと着席してメシを食うオレ。
キッチンのメンツは、二回目にコイツ……ナオヤサンが来店したトキと同じでオレのコトを嫌ってる珍女子フタリ。終電の時間を過ぎると、店内はこの四人しかいないコトがホトンドで、まれ~に飲んだくれた若いのが始発まで寝に来たりするダケ。ナオヤサンは中途半端な時間に帰るのでいつもどうしてるのか聞いたら、何てことナイふーに「タクシーやけど」って答える。可愛くねえ。
その時聞いたんだけど、最初の来店時は仕事してるうちにタクシーが出払っちまってどうしても捕まらなかったんだそうな。
モースグオレが上がる時間だ。ナオヤサンは、今日もオレにメシを奢ってタクシーで帰る。帰ってまた仕事をするらしー。
会計を済ませる。レシートは不要なので言われる前に処分する。いつもならその間にスタスタ出口に向かい一切振り返らないのに、今日はオレがレシートを伝票差しにブッスリ刺すのを見てる。カオを上げたら、無言で何かを持った手を突き出してきた。
「何?」
「……………………」
「ンだよ…………」
聞いても答えないのでシブシブ受け取ると、ソレは名刺だった。返された金が入ってた封筒にも書いてあった、誰でも知ってるようなデカイ商社名のヨコに小さい字でズラズラズラと所属部署や役職が書いてある。
わかっちゃいたが、コイツホントにエリートだったンだ~。な~んでサ○ゼが気に入っちゃったかね笑
「で何。もらってイーの?悪用しちゃうよ」
「………………ウラ」
言われるがままピラリと名刺を裏っ返すと、シュッとしたクセのない字でナンバーが書いてあった。
この字は見覚えがある。
オモシロがって、注文用紙にちゃんと記入させたトキに見た。じゃあコレ、ナオヤサンの字か。
…………どー見てもケータイのナンバーだよなア。
「え?ホントに何?」
「わかるやろ」
「えっ」
ヘラヘラ笑いながら聞き返したら、見たことナイ真剣なカオで見つめ返された。オレが何も答えられずにいたら、ナオヤサンはいつも通りスタスタと、高そーな尖がったクツで、オオマタの早歩きで店を後にする。
最近ではソレが当たり前すぎてその背を見送るコトもなかったのに、今日は何となく目が離せなくて、見えなくなるまで見つめ続けた。
「オイ、バッシ終わってンゾ!」
オンナらしからぬ汚い言葉遣いでオレを急かすのは、五条。どこぞのお嬢様で金に苦労などしていないハズだが、キッチンの夏油というオンナにベッタリ懐いてて、いつも同じシフトに入ってる。オレもソコに入れられてる。
いつも同じ…………。
「あっ、そおゆーコト?」
「?」
「…………ハイ」
オレは、ナオヤサンの名刺をユビで挟んで五条に差し出した。
「ンだよ、コレ」
「いっつもダベッてるリーマンいんじゃん。ソイツから」
この時間帯に入ってるメンツはほとんどがこの三人。夏油は便所に行くトキくらいしかホールに出てこないから、多分五条狙いだろ。当てずっぽだけど。
五条は名刺を引っ手繰って破こうとして、ピタリと手を止める。オレのホーにナンバーが向いてるので、見てるのは社名や役職、名前が書いてあるオモテ面だ。やっぱ、エリート商社マンは気になるか。コイツも所詮オンナよな。
「…………………………コレ、ホントにオレに?」
「あ?わかんね。夏油かも?」
「ンなコトあって堪るかッ!!………………フゥ~~~ン」
ニヤニヤと、オキレイなカオを下品に歪めて名刺を品定めする五条。
渡したトキのようにユビで挟んで、今度はオレの前でピラピラと振った。
「イーの?オレがもらっちゃって」
「はア?」
「もらっちゃうよ?」
ニッと挑発するようにサングラスの隙間からオレを射抜く目は、純日本人のクセに虹彩が薄いブルーで、髪の色も天然モノのド派手な白。ガンメンもスタイルも整っていて、帰り際に身に付けてる私服のセンスもイイ。
難があるとすればこの性格だが、トロフィーとしては十分オツリが来るンじゃないか。
ナオヤサンと五条が並んでるトコ想像してみた。
「……………………元々オマエ宛てだろ」
「ヘェ………………あっそオ。アリガトね♡」
名刺をエプロンのポッケに入れて、サッサとテーブル拭いて来いと言い捨てキッチンに戻って行く五条。中で、夏油とキャイキャイ盛り上がる喧しいコエがホールにマデ聞こえてくる。大方、エリート商社マンにナンパされちゃった~とか何とかジマンしてンだろーな。
「………………………………」
テーブルに飛んだステーキの油が固まって中々拭き取れない…………。
……………………もういーや。メンドクセ。
今日のナオヤサンはノッケから引くホドフキゲンで、イツモノヤリトリである一名様ですか~に、ガチトーンで「見てわからんか」と返してきた。
注文も、赤ワインのボトルをひたすら頼み続け、何回か目の注文のトキに、何かハラに入れねーと潰れンぞって言ったら、無言で睨み付けられた。
ヤダねエ、テメーのキゲンをテメーでとれないヤツって笑 部下がカワイソ~。
ピークが終わり、メチャクチャになったドリンクバーやトイレ、フロアの点検を終わらせて今日もまたやるコトがなくなる。でも、あんなにキゲンが悪いヤツとワザワザ同席するイミもナイし、どーしよっかな~てボーッとシルバーいじくってたら、オンナ共からあからさまにイヤなカオをされたので、シブシブフロアに出た。
ナオヤサンは、マドの外を黙って睨み付けながら酒を飲んでてメチャクチャカンジが悪い。
「な~に怒ってンの?生理?」
「……………………」
シカト!!
ハ~そうですか。このオレがオトコなんかのゴキゲンを窺ってやったのにそのタイド。
もうイイ。オレだってシカトしてやる。
いつも通りメシを注文したケド、ナオヤサンは何も言わない。
出来上がった料理を運んでテーブルに戻る。
「ン」
「……………………」
「何だか知ンねエーケド、メシくらい食えよ」
イツモのリブステーキ、ジュウジュウ油が跳ねる鉄板を寄せてやると、イチベツしてからナイフとフォークをとる。
シバラク無言が続いた。
別にフダンから、オンナみてーにペラペラペラペラ喋るワケじゃねエーケド、案外ナオヤサンは黙ってオレのハナシを聞いたり、自分のハナシをするのに、今日は一切何も言わん。
「なー。ンでそんなキレてんのか知ンねエーケド、オレに当たンなよな」
「…………当たる?」
ナオヤサンは肉をクチに運ぶ手をピタリと止めて、ナイフとフォークを無造作に放り投げた。テーブルに転がって、ソースが飛び散る。オイ……最後にテーブル拭くのオレなんだケド……。
ソースの脂が固まると拭き取りづらくなるので、ナイフとフォークを鉄板に戻して紙ナプキンでテーブルを拭いた。
ナオヤサンはホトンド白目でオレを睨み、怒り過ぎてブルッブル震えてる。
「自分、名刺どーした」
「名刺?」
「渡したやろ、名刺、オレの」
ナオヤサンの名刺。
ウラに恐らくプライベートナンバーが書かれてたヤツ。ナオヤサンの手書きで。
「ちゃんと渡した」
「渡した!?」
「あっ、ヤッパ夏油だった?」
「~~~~~~~~~ッッッ!!!!」
ブチブチと血管の切れる音が聞こえた気がした。
そンくらいナオヤサンはブチギレで、ソファに放ってあったバッグを漁り始めた。ナイフか拳銃でも出てくるンじゃとイチオー構えていたケド、取り出されたのはテノヒラサイズの革の名刺入れだった。
ブランドロゴや柄のないシンプルなモノだったが、一目でハイブラとわかる仕立て。手入れもシッカリされていて、革の上品な光沢がテーブル越しにも分かった。
ナオヤサンはソコから名刺をイチマイ取り出して、テーブルのボールペンでウラに何かを書こうとした。でもボールペンのインクがカスカスで、何回も何回も重ねて書かなきゃいけないみたいで目に見えてイライラしてた。
「ハイ」
「………………」
以前に貰ってポッケに入れッパナシだったペンを差し出すと、一瞬怒りを忘れたようにマジマジとペンを見つめ、大人しく手に取った。
サラサラサラと、今度はスムーズに何かをメモしていく。
「ン」
「……………………え?」
名刺を持った手を突き出し、ダルソーに頬杖をついてオレを見るナオヤサン。その視線は以前にも向けられたコトがあって、あのトキは…………あのトキはウィンクしてキスを投げてやったンだっけ。
二度目の名刺を受け取り、ウラを見る。
書き損じて、グルグルって何度も重なったマル。その後に、ハチ、マル、と続くソレは………………ケータイのプライベートナンバーにしか見えない。
「なアコレ、」
スラッとしたユビが伸びてきて、テクビを下から掴まれる。
アツイテノヒラ。
そのままスマートに名刺を持つ手をギュウと握られて、コチラを見ろとでも言うようにクンと引かれる。
「わかるやろ」
ホンの少し、いつもより近いキョリで囁かれた。鈍く輝く金目にオレが映ってる。
オレが固まってると、フンとハナで笑って、名刺をピッと引ったくり、勝手にオレのポッケに入れた。
そのままバッグとジャケットを片手に席を立ち、高そーな尖がったクツで、オオマタの早歩きで店を後にする。
ヒトリ取り残されたオレは、振り返らないその背中を見えなくなるマデ見送った。
ボーッと座りッパでいたら、キッチンからトレンチを持った五条が近付いてきてニンマリ笑った。
「でェ?もらっちゃってイーワケ?」
トッサにポッケを押さえたらマスマス面白がって、バッシングを済ませるとオレをキッチンに引っ立てて行き、夏油とフタリでネホリハホリアレコレとお節介なクチを聞き出す。
アーウットーシー…………な~ンでオンナってこ~~……………………イワユルコイバナが好きなワケ?