彼誰時夜風が窓から緩やかに吹く。
俺はベッドに腰を掛け、ウルダハの夜空を眺める。
ただなんとなく眺めていただけだった。
換気をするために開けた窓。
ああ、また。
不意に涙がつぅと流れ数秒、胸の閉塞感に気付き嫌気がさす。たまにこうして思い出す。あの森も今俺が見ている空と同じなのか。
もし兄さんが生きていたら、同じ空を今も見ていたのではないだろうか。
それとは裏腹に今は一人、辿り着いた土地。この場所が分かたれた道の延長にある。そこに己が立っていることを痛いほど自覚させられる。
「…兄さん」
兄さんは教えてくれない。
それが良いことなのか、悪いことなのか。自分では理解している。
ただ、俺だけが理解している。
兄さんは分かってくれているだろう。きっとこの世ではないどこかで。そんな感情がいつも心根にある。忘れられないし、忘れてはいけない。
1906