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    mafu8waman

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    mafu8waman

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    高校でオシャレ感覚でピアスとか髪染めとかしまくったら不良と勘違いされた大人しい男子が読書同好会を通じて知り合った読書好き男子と色々ある話の予定だったんですが、途中で飽きて投げちゃったやつです。ディープキスとかしてます。ポイピクで供養します……

    読書好き飄々男×見た目チャラい気弱男 桜は緑に変わり、不安と期待とを胸に秘めて入学した1年生たちが、徐々に高校に馴染み始める季節。
     教室の扉を開けると、ざわめいていた生徒たちがにわかに静まり返る。すぐにその声は活気を取り戻したが、中にはひそひそとこちらを見て噂する者もいた。
     蓮根 咲真が鋭い目つきでじろりと囁き声の方を睨むと、とたんにその一群はなりを潜める。蓮根は勝手に道を開ける生徒たちの間を進み、自分の席へ静かに座る。ホームルームが始まるまで誰に話しかけるでもなくスマホをいじる蓮根を、クラスメイトは恐怖と好奇心とが入り交じった目でちらちらと見やっていた。

     蓮根は、高校では不良だと思われている。
     思われているだけで、実際は大して素行も成績も悪くない。得意科目は古典だし、平均点より上の点数をとることもある。
     染髪やピアスの許された自由な校風に惹かれ入学し、自分のやりたいように髪を染め、ピアスをつけたところ、随分と人相が悪くなってしまっただけだった。
     何度もブリーチして作ったグレイブルーの髪色は、蓮根としてはかなりお気に入りだ。中学時代から念願だったヘリックスやトラガスのピアスも、自分でやりたいからやっているだけなのに、いつの間にか校内全員から"とんでもない不良"というレッテルを貼られてしまった。
     すっかりクラスメイトからも怯えられた蓮根は、友達も誰ひとりとして出来ないままだった。口下手で少し粗暴なところはあるが それなりに心根の良い蓮根は、このままクラスの仲間たちと交友を深められずに1年が終わるのではないか、と薄い不安を感じ始めていた。

     『読書同好会 会員募集中』
     結局放課後まで誰とも会話することもなく、いよいよ落胆した蓮根が裏門から下校しようとした時、見えたのがこの文面だった。
     登校した時にはなかったチラシだ。適当にセロテープで貼り付けられたそのコピー紙はまだ新しいものだった。
     裏門近くの壁からそのチラシを剥がし、蓮根はじっとその詳細を読み込んだ。
     (放課後毎日、旧校舎3階の空き倉庫で活動中……来たい時に来て、帰りたい時に帰る。私物の本貸出もやってます)
     いかにもゆるそうな雰囲気に、蓮根はうっすらと惹かれる。登校初日、先輩たちからも怯えられて勧誘ビラを1枚も貰えなかった蓮根は、部活を決めかねて帰宅部のままだった。どうせどこにも歓迎されないなら、と、蓮根は西日の差す裏門にぐるりと背を向けて、旧校舎の方へと足を進めた。

     (ここ……ここだよな?)
     遠くの校庭から、運動部の間延びした掛け声が聞こえてくる。旧校舎の埃っぽい廊下の突き当りで立ち止まり、蓮根は怪訝そうに眉をひそめた。
     旧校舎の3階は、他の部活の準備室や倉庫として使われている部屋が多く、人通りが少ない。その中でも1番右端の倉庫だけが、今のところどの部活にも使われていないもののようだった。
     蓮根は1つ大きな深呼吸をして、汗ばんだ手で倉庫の扉を叩く。コン、コン、という乾いた音が静かな廊下に響いて、蓮根の緊張をより強いものにした。

     「はい、なんです……」
     ガラガラと立て付けの悪い音を立てて扉が開くと、男子の声で返事があった。蓮根より少し背の低いその生徒は、切れ上がった強いつり目が印象的で、蓮根とばちりと目を合わせるとみるみるうちににんまりと嬉しそうな笑顔を作ってみせる。
     「入会希望かな?」
     「あ……一応、チラシ見て」
     蓮根が緊張で握りしめすぎたチラシを見せる前に、男子生徒はぐい、と蓮根の腕を掴んで倉庫の中に引き入れた。半ば無理やり連れ込まれた蓮根は一瞬声を上げたが、倉庫、改め部室内の様相に今度は言葉を失ってしまった。
     天井ギリギリまである棚に、所狭しと並べられた書物類。収納しきれなかった本は、ダンボールに詰められて乱雑に床に置いてあるようだ。いかにも難解そうな学術書から、子どもが読むような児童書、絵本の表紙まで見える。高校の図書室顔負けの蔵書量に圧倒され、蓮根は目を白黒させて狭い部室内を見つめていた。
     「ようこそ、読書同好会へ」
     つり目の男子生徒はあっけに取られる蓮根を面白そうに見つめながら、自信の満ちた声音でそう言う。少しハスキーなその声で我に返った蓮根は、そばに立つ男子生徒の方に身体を向ける。
     「これ、全部お前の本か?」
     「そうだよ。入学前は僕の家に置いていたんだけど、いよいよ床が抜けそうでね。同好会設立ついでに一部を移動したんだ」
     これでまだ一部だという彼の言葉にまた蓮根が目を見張ると、センターパートにされた黒髪のかかるつり目が興味深げに細められた。
     「それで、入会希望かな?大歓迎だよ。会員は今のところ、僕だけだしね」
     「お前ひとり!?」
     「だって、入学してから僕が作った同好会だから。言っただろ?設立ついでにって」
     彼が眉を上げてそう説明する。となると、彼も蓮根と同じ1年生なのだろうか。入学して早々同好会をたった1人で立ち上げ、この量の本を狭い倉庫に収めていったのかと思うと感心してしまう。
     「……なあ、1年生だよな。何組だ?」
     「あ、自己紹介がまだだったね。僕は幌間 響也。D組だよ。よろしくね、レンコンくん」
     にこやかに手を差し伸べてくる幌間に握手を返しそうになる蓮根だったが、彼の最後の言葉に気づいてはたとその手を止める。
     「レンコン!?」
     「レンコンって書いて蓮根くんでしょ?知ってるよ、B組に怖い不良がいるって噂、君だよね」
     幌間はさらりとそう告げて、固まっている蓮根の手を無理やり取ってぶんぶんと振り、子供じみた握手をする。他クラスまで不良の噂が流れていることに沈んだ蓮根だったが、それを聞いても怯えない、むしろ積極的とも言える幌間は、蓮根にとっていささか異質な存在になりつつあった。
     「俺のこと、怖くねえの?」
     「怖くはないね。少なくとも、そんなちゃちなチラシを見て同好会に来る人だから」
     幌間はそう言って、蓮根が握りこんだままのチラシを一瞥する。自分を見透かされたような心持ちになり、蓮根は頬が熱くなるのを感じた。
     「ともかく!活動内容は蓮根くんが持ってるチラシに書いてあることと同じ。読みたい本を読んで、話して、帰る。学術書も小説も技法書も漫画も雑誌も絵本もあるから、会員は借りて好きに読んでいいよ。ただし大事に扱うこと」
     あ、入会届だけ書いてって。僕が出しておくから。矢継ぎ早にそんなことを言われ、蓮根は促されるがままに空いている席に座り、入会届に記名してしまった。蓮根 咲真、と名前を書き終えると、横から幌間が用紙を取り去る。
     「よしよし、これで今日から蓮根くんも読書同好会の一員だ。幽霊会員になっても構わないよ、僕は一向に気にしないからね」
     「すげえ適当だな」
     「僕が快適に楽しく本が読める環境が欲しいだけだから。でも、そうだな……もし、また同好会に来てくれたら、蓮根くんが気に入りそうな本を貸してあげるよ」
     幌間が伝えた適当な提案は、蓮根にとって少しばかり魅力的に感じた。この高校に入学して以来、初めての同級生との交流チャンス。それに、飄々とした幌間が自分にどんな本を選ぶのか、純粋に興味があった。

     旧校舎3階の、右端の倉庫。初めて訪れた時より、廊下は蒸し暑くなってきていた。引き戸に手をかけ、ガタガタと鈍い音を鳴らしながら部室へ入る。読書同好会の部室には、いつものように幌間が古びた椅子に座り、端正な顔を俯かせて読書に耽っていた。しかし蓮根がやって来たことを悟ると、切れ長の瞳をちらりと動かして挨拶に代えた。
     「ああ、蓮根くん。どう、あれ泣けたでしょ」
     「……幌間お前、とんでもねえもん貸すなよ」
     蓮根は鞄から小さな文庫本を取り出す。一昨日幌間から借りたそれは動物と人間の絆物語を綴った作品で、表紙には生き生きと走る大型犬の写真が使われていた。
     「特に最後の方なんか、ボロボロ泣いたんじゃない?蓮根くん、動物好きそうだもん」
     図星だ。主人公の相棒であるラブラドールレトリバーの亡くなるシーンなんかとんでもなく泣いてしまって、赤くなった鼻を兄に心配されるほどだった。とはいえそれを幌間にはっきりと伝えるのは癪だったので、口を尖らせるだけに留めた。
     「まあまあ面白かった。なんか、読みやすかったし」
     「読みやすいものを選んだつもりだからね。字間も行間も広めで、児童書に近い」
     「児童書って、俺はガキかよ!」
     「だって蓮根くん、本を読む習慣なんかないだろう?読みやすい本で慣らしていったほうがいいかと思って」
     幌間が得意げに眉を片方つりあげて蓮根を見やる。また図星だった。今まで借りてきた本も幌間が選んでくれた読みやすいものだったのかと思うと、読書家を気取ってほんの少し得意になっていた自分が恥ずかしい。居心地悪そうに肩を竦める蓮根の後ろの棚を指さして、また幌間が言う。
     「その本、戻しておいてくれるかな。蓮根くんの真後ろのの棚だから」
     「……わかった」
     幌間の整った顔立ちで見据えられると、蓮根はなんとなくむず痒い心持ちになる。適当に指を指す動作でも様になるのだから、クラスでは相当人気があるのではないか。
     級友に囲まれて爽やかに笑う幌間を想像すると、少し笑えてしまった。
     同好会に入会して1ヶ月と少し。彼と知り合ってまだ日の浅い蓮根だったが、幌間の飄々と掴みどころのない性格に振り回されつつも、それなりに好ましく思っていた。
     少し隙間のできている本棚に借りていた本を差し込もうとして、蓮根は奥にも本が収納されていることに気づく。案外奥行きがあるのだな、と何の気なしに見えた本を抜き取り、適当にパラパラとページをめくった。
     "私は鼻息荒く、彼女の赤く熟れた肉壺を舐った。尖った舌先がピチャピチャといやらしい音を立てて陰核を掠める度、アン、と甲高い嬌声が──"
     「う、わッ!?」
     思わず声を上げてしまった。蓮根の顔にカッと熱が集まる。一節を読んだだけでもわかってしまった。明らかにこれは、そういう本だ。
     一瞬怪訝な顔をした幌間だったが、すぐにピンと来たのか蓮根を見て意地悪く笑みを浮かべる。嫌な笑い方をする彼と目が合ってしまい、蓮根の赤らんだ頬にじんわりと汗が浮いてきた。
     「ふふふ、ウブだねえ。別に隠してるつもりはないんだよ?読んだって構わないからね」
     「よ、読むわけねえだろ!バカにしやがって……!」
     「バカになんかしてないよ。それに、案外官能小説っていうのは面白い。独特の表現方法が多くてね」
     幌間はそう言いながら席を立ち、こちらへ近寄ってくる。逃げようかとも思ったが、あまりにもそれは情けない。いよいよのっぴきならなくなった蓮根は、彼の視線から逃げるように官能小説へ目を落としてしまう。
     「ほら、男性器ひとつとっても、魔羅とか、肉棒とか、肉茎、昂りなんて呼んだり。ちんちん、じゃ味気ないし、読み手に興奮させる工夫なんだろうね」
     ぴたりと傍へ立つ幌間の口からいくつも卑猥な言葉が飛び出ては、小説の中の文字を指さす。綺麗な指先がページをなぞる様子を見ているうちに、蓮根の身体はじわじわと熱を持ち、強ばっていった。
     狼狽える蓮根をからかうように、幌間はつらつらと淫語の説明を続ける。同い年のはずの幌間の解説は妙に達者で、嫌でも蓮根の頭の中に淫猥な光景が浮かんできてしまう。羞恥と混乱とで、今にも倒れそうなほど蓮根の心音は大きく脈打っていた。
     「……わ、かったから、もう、いいって……」
     蓮根は俯いたままどうにかそう言い、幌間の肩を掴んで押し離そうとする。いじらしく真っ赤に染まった耳だけが、髪の隙間で垣間見えていた。一瞬の沈黙の後、今度は蓮根の両肩へ腕が伸びてくる。油断した蓮根をぐっと引き寄せ、幌間は唇を蓮根の口に重ねた。
     幌間の薄く柔らかな口元の感触が体温と共に伝わって、蓮根の身体がぎくんと強ばる。持っていた本を取り落とし、ばさりと乾いた音が響いた。その動揺に構うことなく、幌間は蓮根の身体を離すことなく唇を柔く食んでいた。
     「ふ、んぅッ!?」
     反応が一瞬遅れた蓮根が幌間を引き離す前に、幌間はその舌を口内へ滑り込ませた。ぬる、と生あたたかい感触がして、蓮根の口蓋を濡れたそれが掠める。感じたことのない感覚がぞわぞわと蓮根の背筋を這い上り、びくりと内腿が震えてしまう。
     「ん、む、……!」
     幌間の身体を押し返そうとしても、力が入らない。その間にもぬるい舌先は蓮根の縮こまる舌を絡め取り、じゅる、と淫らな水音を響かせた。そのあからさまで卑猥な音に、蓮根の頬がますます熱を持つ。そうして執拗に口内を舐る幌間に翻弄される蓮根は、困惑と共に僅かな快楽をひっそりと感じ始めていた。
     「ゔ……ッン、ふ……♡」
     荒い呼吸の中に、甘く鼻にかかった声が交じる。幌間は八重歯がちになった蓮根の歯列を時折確かめるようになぞっては、お互いの舌と唾液とを絡ませ合う。そうして口づけを深くする度に、じんじんと痺れるような鈍い快楽が蓮根の腰に響いてきた。
     「ッは、♡ンゔ、ッ♡」
     最初は怯えと戸惑いで応えなかった蓮根も、おずおずとその舌先を差し出すようになっていた。普段は目つきが悪いと怖がられる瞳は熱で浮かされ虚ろになっており、幌間から与えられる悦楽をただ享受し、時折その先をねだるように幌間の唇を食んでいた。
     そうしてついに、無防備な蓮根の舌先へ幌間はぢゅう、と吸い付いた。突然の強い刺激に蓮根はぎくん♡と震え、熱の溜まった腰をへこ♡と前へ突き出してしまう。
     「ッ♡♡ゔ♡んむ、♡」
     いよいよ立っていられなくなった蓮根は、へなへなとその場に崩れ落ちていく。幌間はそれを追うように口づけたまましゃがみこみ、本棚へ蓮根を押しつけた。
     「ひ、ぅ♡♡ン♡ふ、ッ♡」
     幌間を押し返そうとしていた蓮根の手は、いつの間にか幌間の肩をぎゅうと握っていた。角度を変えて何度も唇を重ねては、ぢゅ、じゅる、と粘ついた唾液が蓮根の口の端からこぼれ落ちる。
     「ッゔ♡♡ン♡ッ♡ぁ、♡♡」
     逃がすまいと蓮根の肩を掴んでいた幌間の薄い手の平が、ワイシャツ越しに蓮根の肌へ触れる。まさぐるような触れ方に蓮根の中で奇妙な期待と欲が頭をもたげ初め、疼く心地のままぎゅ♡と幌間へ縋り付いた。制服越しに張り詰めた下腹部も、幌間のそこへぐり♡ぐり♡と押し付けてしまう。夕暮れの光が照らす部室の中、2人はそうして長く口を触れ合わせていた。
     「……ッあ、ぅ……」
     ようやく、どちらともなく唇が離された。まだ朦朧としたままの蓮根は、無意識の中で名残惜しむかのようにその舌先をちろ♡と突き出す。唾液もまだ繋がったまま、幌間はその赤く濡れた舌に軽く歯を立て、やがて離す。微かな痛みに蓮根がひく、と肩を震わせ、性感を逃がすように幌間の制服をきつく握り込んだ。
     「は、は……ッ♡ほ、ろま……」
     乱れた息のまま、その名を呼ぶ。蓮根の身体は深い口づけの快楽にじんじん♡と熱く痺れ、震えていた。一方でひどく彼を弄んだ幌間は額に薄く汗が浮き、僅かに頬を火照らせているだけで、性急さは伺えない。それでも、蓮根の身体に触れる手は離れてはいなかった。
     静かな部室に、蓮根の浅い呼吸音が響く。やがてその頬に伸ばされた幌間の手の体温に、びくりと身じろいでしまう。潤んだ視界の中で幌間の涼やかな瞳とかち合い、蓮根は無意識に喉を鳴らした。
     「……いや、このへんにしておこう」
     幌間のフラットな調子が、いやに響いた。頬に感じていた彼の体温が消えると同時に、すうっと頭まで冷えていく心地がする。途端に蓮根の心の内から羞恥と怒りとが湧き上がり、ぎゅうと奥の歯をかみ締めてしまう。
     幌間は今まで蓮根に触れていた指先で黒々とした前髪を撫でつけると、幌間は立ち上がって手を差し伸べた。
     「ほら、立てる?」
     平然と声をかける幌間を、蓮根は勢いよく突き飛ばした。後ろにあった机に強かに腰を打った幌間が鈍くうめくのを聞きながら、蓮根は震える脚を叱咤してどうにか立ち上がる。
     「ふざ、ッふ、ふざけんな!!」
     回らない頭で精いっぱい幌間を罵ってから、蓮根は荷物を引っ掴んで部室を飛び出す。後ろから幌間が何か言っていたような気がするが、もはや聞く気もなかった。
     自分をからかった幌間にも腹が立ったが、何よりもその先を期待してしまった自分自身が許せなかった。彼に縋りついたことを思い出すと、自己嫌悪で消え入りそうになる。旧校舎から離れても、想起しては涙が滲んだ。どうしようもなくなった蓮根は、誰にも見られないようこっそりと高校を後にした。


     1週間経っても、蓮根は同好会に足を運ぶ気になれないでいた。自分から幌間にあのことを持ちかけることは絶対にできない。かといって、学校で初めてできた友人といえる存在との関係を、強引に絶ってしまうことも苦しかった。
     未だクラス内では腫れ物のように扱われている蓮根は、昼休みになっても1人のまま、ぼんやりと悩み続けていた。
     (……俺、幌間の連絡先知らないな)
     なんだかんだでそれなりに仲良くしていたはずなのに、お互いに連絡先を聞いたことがなかった。ほぼ毎日会っては話をしていたので、必要も機会もなかったのだ。
     面と向かって話す勇気もなく、連絡する手立てもない。今の蓮根には、廊下で幌間とすれ違わないように祈ることしかできなかった。
     「……ねえ、あれってD組の……」
     「……だよね、やっぱ……」
     ふと、クラスの誰かが囁くのが聞こえる。その声色は好奇に満ちていて、女子のクラスメイトも浮き立った雰囲気に変わった。D組といえば、幌間のいるクラスではなかったか。奇妙な予感にじっとりと冷や汗が浮き始め、蓮根はできるだけ教室の扉あたりを見ないように努めた。
     「蓮根くん」
     随分聞きなれた声で、そう呼ばれた。クラス全体が驚愕と困惑でざわめくのを感じる。いよいよ無視できなくなり、蓮根はゆっくりと扉の方を向いた。
     幌間が薄く笑みを浮かべて佇んでいた。こうして多くの人がいる場所に立つと、やはり彼の端正さは異質だった。こちらを見据えて軽く手招きする仕草すら、際立って見える。実際、その姿を見て女子が小さな声ではしゃいでいた。
     (……行くしかない、よな)
     覚悟を決めた蓮根は、無意識に唾を飲み込む。ふう、と深くため息をつく様は不機嫌に見えたようで、遠巻きに見ていたクラスメイト達が僅かにたじろいだ。
     ゆっくりと幌間の方へ向かう。彼との距離が縮まる度に、部室でのことが思い出されて逃げ出したくなる。しかし、こうして真っ向から会いにこられてはどうしようもない。
     「……なんだよ」
     無愛想な声を心がけて、蓮根は言う。幌間は萎縮することなく、その切れ長な瞳を細めてにこりと微笑んだ。
     「一緒にお昼、食べようよ」
     幌間が掲げたランチボックスを一瞥し、蓮根はぎゅうと眉根を潜める。自分が酷く悩んでいることを、幌間は1つも気にかけていない様子なのが腹立たしかった。だんだんと苛立ってきた蓮根の様子を見てか、幌間が小さな声で囁きかけてくる。
     「あのことの話をさせて」
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