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    neko3_88

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    neko3_88

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    【ルムナン】Eエンド後に再会して色々ある話です。
    なんとか1章分書けたので一部公開します。(2022-07-15 privatter公開)
    2章も途中まで書けたので一部追記します。(2022-09-28 追記)

    #ルムナン
    moonan
    ##ルムナン

    Eエンド後小説 進捗一部公開1章
    (前略)
     スマホのロックを外して開いたのは、職場の同期とのLINEグループの下、大学の登山サークルやゼミのトーク履歴に埋もれ、さらに下の方に追いやられた馴染みのある名前。以前より落ち着いた印象のアイコン画像。
     小林大地。
     久しぶりに気が向いて、ついタップした。あの旅行の初日の日付に、早朝の短いラリーがある。「起きた!」と無事に起床できたことの報告に、親指を立てたスタンプで返している。待ち合わせの駅に何分に着くという報告が最後。合流してそのまま。あれ以来メッセージが送られることはなかった。
     ふと、楽しくないなと素直に思う。
     あんなことがあった割には、不思議と元気にやっていけているけれど、俺の毎日は明らかに味気無くなった。あの後面接にも通って、無事に国家公務員として就職した。ただ、今抱えているこの味気無さは、就職したからとか、所謂社会人、大人になったからじゃなくて、大地がいないからだと気付いている。同僚ともうまくやれていると思うけれど、大地ほど馬の合う友人は得ていない。
     今更だが、やっぱりどこかで寂しさを覚えているんだろう。トーク画面をスクロールしてしばらく眺める。もう何も送られてこないのが分かっているから、新しいメッセージにすぐ既読を付けてしまう心配もない。
     別に、寂しいからというだけでこんな風に突然大地のことを思い返して見ているわけじゃない。最近家の中を整理しているという母が、俺の子どもの頃の写真が出てきたからと嬉しそうに見せてきたのだ。中学の入学式で学ランが大きくてかわいいとか、体育祭で一生懸命走ってるとか、妹もいる前で広げていくから少し困ったけど、修学旅行の写真で大地と一緒に写っているのがあって凄く懐かしくなった。北海道の牧場でソフトクリームを食べながら満面の笑みでカメラにピースしている大地がかなり微笑ましかった。
     あの沖縄旅行の後からずっと、大地から連絡は無い。あんなことがあったし、俺と顔を合わせたくないんだろう。大学を卒業して、きっとどこかで先生をやっているんだろう。明るくて、子供に好かれる、寂しい思いをしている人の気持ちが分かる先生。
     会いたいけど、仕方ない。
    「ふわぁぁ……」
     あくびをして、戻るボタンを押してそのままLINEを閉じる。
     ニュースアプリが、明日も真夏日になるという地域を示している。東京も、明日は暑くなるらしい。


    (中略)


     周りも、世の中も、あんな出来事を知るよしもない。暴力も犯罪も陰に隠され、社会は平然と回っていく。
     あれから、もう少しで4年が過ぎようとしていた。こんなに時間が経っても、例の悪夢は完全には消えていない。もちろん誰にも話していない。そんな発想もない。そんなそぶりすら見せていない、と思う。外向きにはうまくやれている分、内側との乖離を感じることがある。もう平気だと思っている自分と、そんなわけがないと分かっている自分がいる。でも仕方ない、生活も人生も待ってはくれない。生きていかなきゃならない。
    それでもやはり俺は神経が太い方なのか、あの旅行を思い出させるような話題に触れても、強い拒否反応は出なくなった。性的なコンテンツや大地に使った道具と同じく、多少意識して前もって避けている部分があるとはいえ、今のところ具合が悪くなったこともない。そうなる場合を心配したけど、少し嫌な感じがするくらいでなんとかなっている。
     ただ、あれ以来久しぶりにバスに乗った時には少し焦った。あの日、座るのは気が進まなくて、目的地まで立って乗っていた。困ったのは車内アナウンスが入った時で、空いているバスで立っている乗客がいると、運転手が車内転倒事故を危惧して、席に座るようさりげなくアナウンスを入れることがある。ちょうどその日の帰りのバスでも声をかけられ、仕方なく座った。
     ……バスから降りた時、俺は鞄の持ち手を強く握り締めていた自分に初めて気が付いた。


    『年齢確認商品です』
     レジの音声が喋る。コンビニに寄り、大地がよく飲んでいたレモンチューハイを見つけたので買ってみた。いつもはわざわざ酒を買って飲むことなんて無い。こんなものでは気は紛れないと、分かってるけど。
     今日は実家の方に帰ると連絡してあるので、見慣れた成城の道を歩いている。感傷的になって酒を買うのは、また今度にすれば良かったなと思った。
     新卒当時、すぐ独り暮らしをする選択肢も考えなかったわけじゃないが、特に一、二年目は忙しいと聞いていたこともあり、始めは実家から通勤した。兄に手がかからなくなってから俺に世話を集中させた母親を思い返すと、高校・大学の受験を控えた妹と両親だけを家に残すのは当時少し気が引けたのもある。母親と妹の、両方が心配だった。親父から文句が飛んでくるかもしれないと思ったけど、むしろ親父も主に母の心労の方を気にしていたらしく、そういう意味でも俺はまだ家にいていいということになっていた。一人暮らしをしている今も、最近は高3の妹の大学受験があるので、邪魔しない程度に実家の様子を見に帰るようにしている。
     プシュッーー
     慣れ親しんだ部屋でよく冷えた缶を開けた。実家のドアを前にしたときには、酒を持ってきた自分に少し違和感を覚えた。変な後ろめたさすらあって、なんでわざわざこんなものを買ったんだと思いつつ、半ば隠すようにさりげなく自室に持ち込んだ。
     なんとなく癖で缶の表示を眺め、原材料名や注意などを読む。搾りたてを演出するしぶきを背負ったレモンが、明るい黄色でプリントされている。クーラーの音を背景に、軽いアルミがカラカラと小さい音を立てる。
     分かっている。1杯じゃ酔えもしない。顔が熱くて、うっすら頭痛がして、具合が悪くなるだけで。何てことない。楽しくない。ウーロン茶でも楽しい相手がいれば。あいつがいれば違うだろうに。


    (中略)


     一人暮らしの部屋に帰った後、ベッドの上で仰向けになりながら今日を振り返る。
     大地に突き放された後、あいつが一体何を考えているのかを聞き出した。あいつは課題についてだけじゃなく、最後に別れた時に俺を“一人にした”ことについて、自分を責めているようだった。
     例の実験組織……そもそもあんなのを実験と呼ぶことに付き合わされるのも癪なんだが、つまりあの犯罪組織に解放されて羽田で目覚めた後、警察に行って事情を話そう、被害届を出そうと言う大地に対して、警察がこんな話に真剣に取り合うわけがない、あてにできないと断り、俺は一緒に行かなかった。
     でもそもそも、助けがなくて一人で苦しんで……そう、苦しんでいたのはあいつも同じじゃないのか。閉じ込められて、見世物にさせられて、ストレスに潰されそうだったのは、俺も大地も同じだ。あいつは心を痛めながら、やりたくないことをさせられて、痕が残るような怪我までさせられて、文字通り血も涙も流した。
     誰も頼りにできないと泣き寝入りをしたあのとき、大地はトライして、そして駄目だったんだろう。
     警察に届け出ることを、当時俺はやらなかった。仮に俺達がストレスや屈辱、セカンドレイプ、徒労感や無力感、あるいはフラッシュバックに耐えながら詳細を何度も説明して証言をして、被害届を出そうとしたとしても、証拠を集めてもいない。仮にあの部屋の動画を撮ったとして、どれくらい信じてもらえるのか。最初に見せられた映像をスマホで録画すればよかったか?あんなもの、本物だと判断されたらされたで、危険すぎてむしろ俺達が疑われる。
     今思えば、あの映像で亡くなっていた被験者……被害者がもし行方不明や死因不明のままにされているなら、その真相解明にも少しは役立ったかもしれないけど……そこまでは分からない。俺達の無実を証明することもできない。同じ部屋の人が亡くなって、施設から解放された人もいるかもしれない。その人は今も、俺達と同じように泣き寝入りのままこの社会で生きているんじゃないか。首を絞めている映像もあった。あの人の映像を勝手に撮る権利も見せる権利も、俺達には無いと思う。
     だいたい、10日もの間自分の精神を守らなくてはならなかったのに。今だってあの部屋のことから離れたいのに。頭の中も、物理的にも、思い出させるものからも本当は離れたいのに、あの場で確実な証拠を抑えろなんて、手元に残せなんて、被害者には無理難題で。あの映像も、一度だって見たくなかったのに。それに、あそこに10日いたって、施設を運営している奴らのことは何も分からなかった。犯人を特定出来るような証拠はない。
    あの送迎バスを捉えている監視カメラを探すか?無理だろう。ぱっと思い付くような捜査方法には対応しているはずだ。決定的なものは出てこない。だからあんな大掛かりなことができる。
     一般人の大学生が持ち込む微々たる証拠と"妄言"で誰が聞いてくれる?何が掴める?
     そもそもあの部屋はずっと監視されていた。証拠になるものを撮影したとしても部屋を出る時には消されるだろう。データならまだしも、警察に届け出ようとする面倒な奴だと見なされて、命を取られたらそこで終わりだ。あの部屋の俺達に安全な状況など一秒たりとも無かった。今だって分からない。
     「他にも似た証言があれば」、大地はそう言っていたけど、もしかしたら本当に捜査に繋がる可能性はあったかもしれないけど、手がかりや証拠が出たかもしれないけど、でも現実はこうなったんだ。「もっとこうすればよかったのに」「早くああしておけばよかったのに」なんて部外者が想像したとしてもそれは身勝手な考えで、たらればは通用しない。
     俺はできなかった。
     ただ……だからこそ、そういうとき、大地にとって唯一頼りにできるのは俺だったんじゃないのか?俺の方があいつを一人にしたんじゃないのか?幼い頃から暴力と孤独に痛め付けられたあいつをもう苦しめたくないと、あの部屋で強く思ったはずなのに……。
     あんなことのあとに、大地を一人にした。今、そう感じている。誰も俺を責められないとしても。
     旅行の後、しばらく経っても大地からの連絡が無かった時も、大地は強いから大丈夫だろう、俺は必要ないんだろう、そう信じて何もしなかった。仕方ない、友人と別れても生きていけなくなるわけじゃない、こういうこともある、そう思うことにした。自分からは決して働きかけないで、これが冷静で合理的な判断なんだと慢心した。追いかける勇気も努力も放棄した。また手を抜いた。
     そうだった。大地は、自分が大切にされる価値のある存在だって分かってない。大げさに聞こえるけど、本当にそうだと思う。
     高校受験のために一緒に勉強した日々のことがまた思い出される。「お前とは住む世界が違うんだ」「俺みたいな奴は……」自分のせいじゃないのにそう言って、内在化された生きにくささえ、手放すことを躊躇していた。卑屈でもひねくれでもなんでもなく、自分はこうなって当然なんだとでも言うように、可能性から手を引いてしまう。行ける道があるのに引き返そうとする。
     そうじゃないって。世の中の理不尽のせいで、お前が自分を否定する必要は無いって、教えてやらなくちゃいけない。上から目線と思われてもいい。教えてやりたい。
     お前は間違えたって言うけど、それがなんだよ。もういいだろう。お前は十分がんばったんだから。俺がいいって言ってるんだから。
     拳を握り、目を閉じた。時計の秒針の音、クーラーの音、外を走る車の音が聞こえてくる。細く長く息を吐くと、少しずつ頭の中がクールダウンされていく。代わりに、熱さは胸の辺りに移動してきたみたいだ。握った手を胸の上に置き、ゆっくりと目を開ける。
     自分だって被害者なのに、やり方を間違えたと自分を責めているあいつを、大地を放っておくなんてこと、していられない。今一番自分に出来ることがここにあるのに、今一番寄り添わなきゃいけない、今一番俺を求めてる人がいるのに。
     すぐそばにいる、また巡り合えた、傷ついた親友を放っておくなんて、ありえない。
     そして。
    「あぁ……」
     そして、俺自身の傷に向き合って癒していくことも、大地とならできるのか……もしできるなら、大地としかできない。



    2章

    「電話?母さんから?」
     羽田に返された後、あのまま実家には帰りにくくて、少し別の場所に泊まった時のことだ。あの時母が大地に電話をしていたということを、俺は大地から話を聞いて初めて知った。
    「あぁ……その時はそう、他の所に泊まったんだ。確かに連絡しなかったけど、長く帰らなかったわけじゃない」
     母のことだ。自分でも普段から心配しすぎだという自覚はあるんだろう。だから、電話したことを俺には言わなかったのか。
    「……そっか。まぁ、無事ではあるだろうと思った。その後何も連絡無かったし」
    「それで、その時からずっと……?」
     後悔してるのか?
    「もう終わったと思って……」
     それで連絡してこなかったのか。
    「誠二、なんも言ってなかったし。信頼とか、俺がなくしたんだなって」
    「そんなこと……」
     上手く答えられない。そんなことない、とはすぐには言い切れなかった。
    「だから、ほんと元気そうで嬉しかった」
    「……」
    「会えたのも、嬉しかったよ」
     以前の大地よりずっと弱々しい微笑みが悲しかった。



    「やることある?」
     キッチンで夕飯を用意する母さんに声をかける。
    「休んでていいのよ、お母さんやるから」
     ……聞き方を間違えた。
    「なに作るの?」
     母の答えた料理はよく知っているものだが、俺の頭では作り方の工程や効率化をパッとイメージできない。
    「いいね。何からするの?」
    「ん~……ほんとにいいのに」
    「ううん、あー……見たいから」
    「そう?」
     家事に手を出さないことにしたとはいえ、料理を一緒にやるならいいだろう。母の日に兄さんとカレーを作って母さんに泣かれたのだって、もう昔の話だ。家の中でいつまでも子どもでいようとする者が、職場で偉そうに社会を語れるはずもない。


    (中略)


    「その時計、今も付けてるんだね」
     屋根のある飲食スペースで向かい合って弁当をつついていると、大地がそう言った。
    「あぁ。これは休日用にした」
    「仕事じゃ違うやつ付けてんの?」
    「親父が就職祝いにって、新しいのを。重くて付けてられない」
    「そうなんだ」
     普段付けているから、休みの日でも手首に無いと違和感がある。出先でずっとスマホをいじっているタイプでもない。だから時間を見るなら腕時計が便利だ。なんなら大地も俺の腕時計でよく時間を見ていた。
     親父は、高価なものに見合うような人物になるためとか、トラブルを経験して勉強するためだとか言って俺に時計を買う。親父に連れていかれたのは、公務員に人気があるらしいブランドの店舗。重くて高価な時計……いかにもといった感じだ。口には出さないが、他人から見たら嫌味じゃないかと自分でも思うことがあった。でも大地は以前、大学進学時に買ったこの時計の話をしたとき、心なしか微笑んでいた。その反応は自然で爽やかで、負の感情も俗っぽい揶揄も一切含んでいなかった。
     今もそうだ。わざとらしくなく、ただ俺への好意が伝わってくる。
    「鮭、美味いぞ」
     箸で割って大地の白米の上に乗せる。
     秋の風が都会の緑を揺らし、芝生の上を走る子供の声と涼しさを運んでくる。

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    PROGRESS【ルムナン】Eエンド後に再会して色々ある話です。
    なんとか1章分書けたので一部公開します。(2022-07-15 privatter公開)
    2章も途中まで書けたので一部追記します。(2022-09-28 追記)
    Eエンド後小説 進捗一部公開1章
    (前略)
     スマホのロックを外して開いたのは、職場の同期とのLINEグループの下、大学の登山サークルやゼミのトーク履歴に埋もれ、さらに下の方に追いやられた馴染みのある名前。以前より落ち着いた印象のアイコン画像。
     小林大地。
     久しぶりに気が向いて、ついタップした。あの旅行の初日の日付に、早朝の短いラリーがある。「起きた!」と無事に起床できたことの報告に、親指を立てたスタンプで返している。待ち合わせの駅に何分に着くという報告が最後。合流してそのまま。あれ以来メッセージが送られることはなかった。
     ふと、楽しくないなと素直に思う。
     あんなことがあった割には、不思議と元気にやっていけているけれど、俺の毎日は明らかに味気無くなった。あの後面接にも通って、無事に国家公務員として就職した。ただ、今抱えているこの味気無さは、就職したからとか、所謂社会人、大人になったからじゃなくて、大地がいないからだと気付いている。同僚ともうまくやれていると思うけれど、大地ほど馬の合う友人は得ていない。
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