うるわしのメリニうるわしのメリニ
カブルーには故郷がない。
もうその場所は存在しない。
ミルシリルが養育してくれた場所は、カブルーにとって箱庭であって故郷ではなかった。
生家だった場所は母と自分を殺そうとした。逃げた先で母と子ふたり優しく過ごしていた街は滅び、エルフの箱庭を抜け出してカブルーはメリニにいる。
「ウタヤは」
ベッドでカブルーの腕に収まりながら、ミスルンはゆっくりと問いかけた。
「どんな街だった」
「豊かな街でしたよ。訳ありの母子が働いて生計をたてられるくらいでしたし。豊かさはダンジョンのもたらした恩恵のおかげでしたが……それが、ああなったわけなので心中は複雑ですね」
帰れるのなら帰りたい。そう思う気持ちは確かにあった。冒険者になどならず、母と慎ましく暮らし、どこかの街で働いて、暮らして。
1914