雲深不知処。格子の外から見える景色はというと、空は太陽の光を遮断するかのような分厚い雲に覆われ、地面はしとしとと木々を伝った水滴で濡れていた。ここは山の中ということもあり、天気は変わりやすいがそれとは関係なくこの時期になるとこの辺りは一日中雨が降る。時期が過ぎれば代わりに暑さがどっとやってくる訳だが、ここはかつて生まれ育った故郷と比べるとひんやりしている。そんなまた違った湿った空気にぶるりと肩を震わせ、近くにあった上着を一枚羽織った魏無羨は縁側を行ったり来たり、座ったり立ったりしながら忙しなく動いていた。
「……暇だなぁ。」
柱に体を預けながら、今にもズルズルと横たわりそうな姿勢をゆっくり正す。昔の魏無羨ならば縁側で寝て叱られることも怖くはなかったが、藍忘機の夫となった今はどうしてもそれができない。もちろん、だからといって雲深不知処の家規を全て守れるわけではない。しかし夫の不在時でもなるべく守れるものは守りたいと考えていたのだ。
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