ぱろ タン、タン、タン、タン。
左右違いのスニーカーと潮風で傷んだ木材が音を立てる。
「おれ、こんなことしたの初めてだよ」
「俺もだ」
友達、学校、家族、将来、全部から逃げてきて、初めて触れるものばかりだ。こうして、べたつく潮風に吹かれながら海辺の線路を歩くなんて、先生の前じゃ絶対できない。いつ電車が来るか分からないでしょう!って怒られる。ここは見晴らしが良いからいつ電車が来たって十分線路から降りる時間はあるし、おれがそうしたいと選択すれば轢かれたっていいのに。
「うわっ、と」
突然強くなった風に煽られてふらついてしまった。しばらくまともな食事をしていないし、ここまで散々歩いたからだろうか。
あ、転ける―と思った瞬間、右手をグンッと引っ張られた。
「もう終わりにするか?」
「…やだ」
そのままおれを助け起こした剣城は「そうか、」と淡白に呟いて、また前を向いてしまった。
まだ、終わりにしたくない。おれ達には選択の自由があるから、剣城が終わりにしたければそうするけど、おれはまだこうやって剣城と居たかった。それに、「やだ」って言ったとき、剣城は一瞬安心したみたいに目を細めていたから、きっと剣城もおれと同じだよね。
そんなことを考えながら剣城を眺めていたら、もうこんな時間なのって驚いたけど、海に沈んでいく夕日が眩しく光って、剣城を照らした。
照らされてる側の皮膚がまばゆく光る。もともと肌が白いから、透き通ったようできれいだ。紺の毛先が明るい青色に光る。潮風に服がはためいて、痩せ気味だけど整った身体が見え隠れする。山で転げ落ちたとき―ふたりとも靴はそこで片方無くした―に付いた泥や傷も、かっこいい。神様がいればこんな姿をしていたらいいな、となんとなく思った。
「映画みたい」
「何がだ」
「剣城が。かっこいいよ、すごく」
「そうかよ」
恥ずかしいのか、どうでもいいのか、こっちを振り返ることなく歩いていく。と思ったら。
「なぁ、天馬」
いきなり、剣城はこっちを振り返った。苦しそうに、何か言いたそうに。でも剣城は何も言わなくて、言えなかったのかな、「なんでもない」と前を向いてしまった。
何が言いたかったのかな。「こんなことして何になる」「今からでも帰らないか」「お前はほんとにこれでいいのか」全部今更だ。剣城もそんなこと分かってるはず。
でも、もし、おれなら。「剣城は今、しあわせ?」って、聞きたい。この自由で残酷で楽しい旅のせいで、おれとのお揃いが無くなってないか、知りたい。
そんなことないよね。剣城。
「剣城!今日の寝る場所、どうするの?」
足を速めて、おれは剣城に追いついた。