『フューチャー・イヴ』これをしたら、もう絶対に助からないということを覚悟したうえで、ボクはセルマックスに突撃を仕掛けた。強い衝撃とともに、意識がぶつんと途切れた。
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どうしてかは分からないけれど、次にボクが見た景色は、いつもと変わらない様子のレッドリボン軍基地だった。
「はっ……!?」
ボクはさっきまでの勢いで出そうになった大声を堪える。ボクが見ていたのは悪い夢か何かだったのかもしれない。人造人間が夢を見るのかは知らないけど。とにかく何がどうなっているのか確かめないと、とボクは基地に入った。
「あれ……?またガンマさんだ」
「さっきもここ通ったよな?Dr.ヘドと3人で」
「しかも急に服がボロボロだし」
そんな内緒話を、兵士たちがしている。ちらりと、皆が持っているスマホが見えた。そこに表示されている日付は、あの日の2か月前だった。嘘だろ……?ボクは、過去にタイムスリップしてしまったらしい。どうしよう!見た目では平静を保ちつつ焦っていると、ついに話しかけられてしまった。
「ガンマさん、すごくボロボロですけどさっきの一瞬で何があったんですか?」
「え!?あ……ああ!さっき転んだんだ!」
「へー……。気を付けてくださいね」
「お、おー!」
何とかごまかせた。でも、今の状態で1号や博士、ましてやこの時間のボクと鉢合わせたらまずすぎる。ボクは急いで、基地から逃げ出した。しかしそれが運の尽きだった。どん!!と何かにぶつかってしまう。
「……2号?」
ボクとそっくりな顔、おそろいの黄色い服に赤いマント。間違いなく1号だった。
「見回りの任務はどうした。お前の担当は反対側のエリアだろう?」
(よかった……。じゃあ当分は二人きりだ)
ボクはほっと胸を撫で下ろす。しかし、1号は不審そうにボクを見た。
「何かあったのか?」
「何もないよ!大丈夫!!」
1号に余計な心配をかけたくないから、ボクは元気よくそう言った。でもそれが逆効果だったようで、ますます怪しまれてしまう。
「……本当に大丈夫か?服も汚れているぞ」
「それはさっき転んじゃったからで……」
「転んだだけで片目が故障する訳ないだろう」
「……え?」
よく見てみろ、と1号が指さしたのは、ボクの右目だった。基地の窓ガラスを鏡代わりにして覗き込む。
「う……!?」
ボクの右目にあたる部分に瞳が表示されていない。もう片方も、ノイズが走っており今にも消えてしまいそうだ。
「それに、日時の設定が2か月もずれているぞ。どんな転び方をしたらそうなるんだ」
「えーと……、それは……」
ボクは言葉に詰まる。1号は不審そうにボクを見つめる。それに耐えられなくなって、ボクは本当のことを話すことにした。
「その、信じてもらえないかもしれないんだけど……。ボク、未来から来たかもしれないんだ」
「……?何を言っている」
「ここがあの日の2か月前だとして、2か月後には……」
ボクは、1号に未来の話をした。良くないことだとは思ったけど、そう遠くないうちにボクは1号を独りにしてしまうと思ったら、我慢できなかった。
2か月後に、レッドリボン軍の基地が襲撃を受けて、セルマックスが起動され、暴走すること。やって来る悟飯やピッコロたちが本当はいい人だってことはまだ言っちゃいけない気がした。それと……
「ボクはその日、完全に壊れる」
「な……!!」
ボクがそう言った瞬間、1号がボクの両肩をつかんだ。
「なぜそれを早く言わなかった!?」
「……っ!」
1号の瞳が揺れている。今、ボクは1号を悲しませてしまっているんだ。
「お前が無事なままセルマックスを止めることはできないのか……?」
「それはボクにもわからない。戦いの途中で壊れちゃったから、最終的にどうなったかまでは……」
「そうか……」
「でも、絶対1号と博士ならなんとかできるよ!」
「ああ……」
1号はボクを抱きしめる。そのぬくもりが心地よくて、ボクは目を閉じる。
(このままずっとこうしていたいな)
1号の腕に抱かれながら、また意識が遠のいていく。これで本当にお別れだね、1号。
「じゃあ、元気でね。1号」
「当たり前だろう。お前の分まで、使命は全うする」
「どんな時でもお堅いなぁ、1号は」
それが、ボクと1号の最期の会話になった。
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未来から来たという、もう1人の2号の体が光の粒子に変わっていき、消えてしまった。
しばらく立ち尽くしていると、さっきまで聞いていた声が遠くから聞こえた。未来ではなく今の2号だ。
「1号ー!!猫!猫ちゃんいた!!」
「だめだ。返してこい」
「飼うんじゃないよ、見てほしいだけー。一緒に来て!」
「こら、引っ張るな」
……やはりあれは私の不具合だったのだろうか。しかし……。
自分の手を見る。そこにはまだ、もう一人の2号のぬくもりが残っていた。
2号が今、私のそばにいるのに、なぜかいないような気持ちになる。
「1号?」
「!……いや、何でもない」
2号が、心配そうに私を見ていた。私はすぐに返事をする。
「何?もしかして猫ちゃんに逃げられそうで不安?大丈夫だって!1号は優しいから」
そうはしゃぎながら言うと、2号は私に抱きついてきた。
それを受け止めながら、このぬくもりは本物だと自分に言い聞かせた。