愛は嫌悪と等しく、血よりも濃い血の雨が降る。そんな極東の国が宣った慣用句を思い出した。別に、空は雲一つないし、月だって満ちていない。それなのに、仰向けに寝そべる私の頭上にはポツポツと垂れる雫があったのだ。
「ガラ、何故そんなことをする」
声を掛ければ、私に翳を落とす人物が苦しそうに呻きながら、軽く噛み千切ったであろう口許を開いた。
「分からない、満月の夜でもないのに。込み上げてくる欲求が抑えられなくて」
「どうしようもないから、自傷をして正気でいようと?」
「……そんなところだ」
すまないハイド、と続けるガラはまだ流血を続けていた。私が怪我したら擦り傷のような些細なものでも過剰に心配してくるというのに、本人は自分に頓着がないと来たものだ。そんな、ガラの中での優先順位が気に食わなかった。だが、特段私が指摘しなくとも長命の者同士だから分かるのだ。ガラが自分を愛せるときは、ガラが他人を愛せる時なのだと。
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