手紙が届いた。
差出人の名前はない。
白い便箋はシンプルながら紙の質はすこぶる良く、きっちりと綴じられた四隅には一片の隙もない。
鈍い金色で押された封蝋はアイク・イーヴランド 、かつて俺が思いを寄せたあの人の瞳を想起させるものだった。
ひと呼吸おいてペーパーナイフで丁寧に封を切る。
几帳面に折りたたまれた手紙から少し滲んだネイビーのインクが俺を迎えた。
突然こんな手紙を送ってしまいすみません。
元の時代に帰る前にどうしてもあなたに伝えたい事があったのです。
まずは感謝を。
あなたと過ごした時間はかけがえのないもので、自分自身を成長させてくれる日々でした。
同じ時代で出会えた事が本当に奇跡のようです。
とても楽しかった。
ありがとう。
そしてもう一つは謝罪を。
あなたのことが好きでした。
あなたの強い意志のこもった瞳が、力強い歌声が、作品を生み出す指先が、人と寄り添う優しさが、それを含めたあなたという人が好きでした。
もう返事もできないような状況でこの手紙を押し付けてしまいごめんなさい。
遠く離れてしまうけれど、あなたの活躍と幸せをずっと願っています。
遊間ユーゴ
じわりと視界が歪む。
ねぇ、先輩
知っていましたか?
あなたが生きているより遠い未来では差出人の名前なんて無くても手紙が戻ってくるみたいです。
強く握られた紙がくしゃりと悲鳴を上げる。
濡れた睫毛が、ゆっくりと下を向いた。