入り組んだ路地の一角にある古いバー。これは僕の所有物で、この地方のセーフハウスも兼任している。
テーブルについているマスターはもちろん僕の見知った人間で。たまたまアメリカにいた時の部下にバーテンダーの経験がある者がいて、そいつをイギリスまで引っ張ってきたってわけだ。
待ち人を待つ間にサーブされたカクテルはまあまあな数になっており、カウンターにはグラスがいくつか飲んだままになって置いてある。
僕ももうだいぶ出来上がっていて。とろりと思考が蕩ける感覚に身を委ね、飲みかけのロングカクテルグラスを片手で持ち上げ、ゆらゆらとただ揺らしていた。
「隣いいかしら」
そんな心地よさに割って入る氷のような、場違いな上流英語が耳に響く。
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