Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    あかふじ

    別垢に載せたものとか

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🍳 🍣 🍗 🍮
    POIPOI 17

    あかふじ

    ☆quiet follow

    エアブー感謝祭での展示品です。
    外伝時空大幻です。やっと終わりましたがなんだこれ。

    https://air-boo.jp/339585/

    ##GR

    弻馬温の逆襲 最近雨ばかりだな。大作は男の後をついて行きながら、窓の外を眺めた。窓にぶつかった雨粒が窓ガラスにたくさんの筋を残して煌めいている。晩夏の夜の空気はじっとりと湿って、雨に濡れた肌をさらに冷やしていく。
    「寒いだろう。部屋には暖房を入れてあるから、もう少し辛抱してくれ」
    「あ、はい。ありがとうございます」
     男に連れられて歩いているこの場所は、国際警察機構の施設ではない。ロボを封印されてしまった大作は自ら国際警察機構を離れ、今はBF団の幻夜の下にいた。心細さから無意識に左手の手首に手を触れるが、そこには日焼けの跡が残るばかりでもう何もない。
    「君の部屋はここだ」
     大作がよそ見をしている間に目の前を歩く白い背広――幻夜が立ち止まった。壁に付いているボタンが押されると、プシュッと音を立ててドアが横に開いた。流れ出た暖気が体を包み、大作は思わずほっと息をつく。
    「入らないのかい」
     促されるままに部屋の中に足を踏み入れた。窓際にはシングルベッド、その脇には電話と花瓶が置かれた焦茶のサイドテーブル。反対の壁には冷蔵庫とクローゼット、テーブルと姿見が備え付けてある。客間と言うにはいささか殺風景なそこは、少し広いビジネスホテルのような様相であった。
    「不服かな」
    「いいえ」
     返事をしながらベッド脇のカーテンを捲る。大きな窓で海の向こうにわずかな夜景は望めるものの、もとより人里離れた場所にある上、鉄格子によって縦の太い斜線が入ってしまっている。天気が悪いのも相まって、まるで牢獄のようだと大作は思った。
    「特別に夜景が見える部屋にしたんだよ。なにせ、長官だからね」
     長官。その響きで大作の寂寞とした気持ちは消えた。長官ともなれば誰も自分を蔑ろに出来ない。ロボを操縦できるなら、みんなに仕返しもできる。そう考えると思わず笑みがこぼれた。
    「食事は二階の食堂で取ってくれたまえ。君なら顔パスで通れるはずだ」
     幻夜は大作の胸元から青薔薇を抜き取ると、サイドテーブルの花瓶に差し込んだ。
    「今日はゆっくり休んで、明日に備えてくれ。何かあったらそこの電話から連絡ができる」
     荷物は明日までに届けさせる、そう言って微笑むと幻夜は部屋を出ていった。
     
     翌日昼前、幻夜は大作の部屋を訪れた。少し遅い朝食を済ませたばかりのようで、大作は歯磨きをしていた。
    「荷物はちゃんと届いたようだね」
     部屋の隅に置かれている少量の段ボール箱をちらと見て、ところでと本題に入った。
    「君が持ち出してくれた銀鈴ロボだが、あれの操縦方法はどうなっているのかな」
     銀鈴ロボは人間で言う額の部分に操縦者が乗り込むスペースがある。だがそこにはレバーもボタンもリモコンも、操縦の際に動かせるようなものはなに一つ付いていなかった。
    「チャイナドレス認識システムですよ」
    「チャイナドレス?」
     幻夜は思わず聞き返した。単語と単語の意味はわかるが、その二つが合わさったときどのような効果を持つのか想像できなかった。
    「それは、操縦者のチャイナドレスで認識する、ということか」
    「そうですよ。言ったままじゃないですか」
     大作はそう言って笑うと歯ブラシを片付けてから段ボール箱の方に歩いていき、箱の中から袋を取り出した。
    「ほら、こんな感じの」
     大作が袋から出したのは、エージェント銀鈴が着ている白い女性もののチャイナドレスだった。スカートの端とスリット部分には金の糸で装飾が施され、胸元には白に映える赤い薔薇の刺繍があしらわれていた。
    「これは銀鈴さんが着てたものですけど、操縦者がこれと全く同じ素材、同じ模様のもので作ったものを着ていれば問題なく動くはずです」
    「あぁ、動作を認識して動いているのか」
     もとより乗るつもりはなかったとはいえ、大作を勧誘したことは幸いであったと幻夜は思った。大の大人がミニスカチャイナドレスを着て女型のロボットを操縦する姿は直視に耐えるものではない。
    「君には約束通りロボを操縦してもらう。できるね」
    「任せてください。ロボのいない国際警察機構なんて、たいしたことありませんよ!」
     
     結果、大作は負けた。撹乱目的で銀鈴ロボをの服を脱がせようとしたところ、本来の操縦者であり銀鈴ロボの元祖とも言える銀鈴の逆鱗に触れたのだ。そのうえ銀鈴ロボも奪い返されてしまった。
    「さっさと攻撃しておけば良かったんだ」
     コエンシャクに抱えられて運ばれながら、大作はぼやけた頭で幻夜の声を聞いていた。服と髪に染み込んだ海水で、体も頭も冷えていく。意識のはっきりしない頭と重だるい体、そして扱いのぞんざいさが敗北を痛感させた。銀鈴ロボまで使って負けてしまったら、僕の居場所は一体どこにあるんだろう。どんなことを考えていると徐々に視界が暗くなっていった。
    「大作、起きてるか」
     冷たくなった頬に手が触れ、大作は現実に引き戻された。冷えた体には頬に触れる手の温かみが心地良い。いつの間にか部屋まで運ばれていたようで、幻夜に抱えられて浴室にいた。コエンシャクはもういなかった。
    「起きられるか?」
     威勢よく返事をしたかったが、喉からは出たのは震えた情けない声だった。だが声は届いていたようで、幻夜は大作を壁にもたれさせた。
    「シャツのボタンは開けておいたから、あとは自分で脱ぎなさい。風邪は引くなよ」
     蛇口をひねる音がして、バスタブにお湯が注がれる。その音をぼうっと聞きながら、大作は緩慢な動きで衣類を脱ぎ始めた。幻夜はそれ以上労ることもなく、いつの間にか姿を消していた。
     
     その一方で、自室に戻った幻夜は大作がさほど国際警察機構に痛手を与えられなかったことに頭を抱えていた。銀鈴ロボどころか大作にまで連中(ほぼ銀鈴一人)は容赦なく攻撃を浴びせてきた。大作には操縦者かつ人質の役割もあったのだが、計画は失敗に終わってしまった。となると、操縦者としての活躍をしてもらうほかない。
     ロボの操縦機がない大作はただの子どもだが、ただの素人ではない。そしてロボの操縦機と大作が揃った時こそ、形勢を揺るがす大きな力となる。ジャイアントロボは奴らの力の要で、それを操縦できる唯一の操縦者である大作こそ、手元に置いておかねばならぬはずだった。連中が大作を手放すつもりなら、こちらがジャイアントロボも奪ってしまえばよいのだ。
     幻夜はワイングラスを片手に手元の資料を眺めた。
    「JINTETSUか、変わった名前だ」
     国際警察機構を抜けたばかりではなく、銀鈴ロボまで盗み出した大作に行き場はない。だが彼が蜻蛉返りして戻ってしまう可能性もゼロではない。そうならないために魅力的な条件を提示して連れてきたのだが、やはりジャイアントロボに変わる何かが必要だと幻夜は考えていた。そのために用意したわけではないが、適正な搭乗者がいない今、JINTETSUは大作の目の前に吊るしておく餌にうってつけであった。
    「ただの戦闘員を乗せるよりはマシか」
     ため息をついて、ワインを口に含んだところで電話が鳴った。大作からだった。
    「げんやさん、部屋に来てください。ぜったいですよ」
     そういうと、返事も待たず電話は切れた。語気の割には陽気な声であることが引っかかったが、無下にするわけにもいかず幻夜は重い腰を上げた。
     部屋の前に着いてボタンを押すと、ドアが開いた。基地内とはいえ鍵をかけないのは少し不用心だなと思いながら、幻夜は部屋に足を踏み入れた。暖房はつけていないようで、部屋の中は少し肌寒く薄暗い。
    「大作」
     声をかけるが返事はない。人を呼びつけておいてなんなんだと踵を返そうとしたとき、ベッドの陰からにゅっと頭が出てきた。
    「ぼくをだましたんですか」
     開口一番、大作はそう尋ねた。というより、ほぼ確信しているかのような語気だった。
    「なんのことだ」
    「とぼけないでくらさい!」
     黒い影がばっと立ち上がると、カーテンの隙間から差し込む夕日がその輪郭を照らした。そしてフラフラとした足どりで幻夜へと近づいてくる。どうも呂律が回っていないようで、様子がおかしい。
    「ロボットせんようスペシャルちょーかんなんて、うそじゃないれすか」
    「なんの話だ、ちゃんと銀鈴ロボを操縦できただろう」
     なにも後ろめたいことはないはずなのに、大作が近づいてくるのに合わせて幻夜は思わず後ずさった。
    「ぎんれーロボがいなくなったら、ぼくはおはらいばこですか」
    「なにを言って」
     言い終わる前に大作は距離を詰め、一気に跳躍した。幻夜は慌てて受け身を取るが、床に背中を強かに打ちつけ、一瞬息ができなくなる。大作はその倒れこんだ体に覆い被さり、馬乗りになった。どかそうともがいているが、十二歳の子供相手とはいえこの体勢は幻夜に分が悪すぎた。
    「ぼくらって、ちゃんとやれるんだ」
     襟元を掴まれ顔を近づけられるのと同時に、強いアルコールの臭いが幻夜の鼻をついた。
    「やっぱり、お前酒を飲んだな!」
     誰からもらったんだ、そう聞く前に押し付けられた唇で声を遮られた。驚きの声すらも大作の口の中に吸い込まれる。ただ口の中や唇を舐められるだけの、キスのような何か。火照った舌が口の周りを舐めまわし、涎だらけになる。ワインの香りといろんなものが混じったひどい臭いがした。
    「何をする」
     顔を掴んで無理やり引き剥がすが、なかなかしつこく全身の力で絡みついてくる。目的のわからない暴力に襲われ、幻夜の全身から冷たい汗が吹き出す。
    「よせ、大作」
     なにを勘違いしたのか知らないが、とにかく宥めて誤解を解かねばならないと幻夜は思った。しかしアルコールで暴走した大作にはまるで話が通じず、手もつけられない。
    「げんやさん、あせかいてる。なんかもんだいでもあるんですか」
     大作が笑う。だがその手は止まらない。揉みあっているうちに服が乱れて、幻夜の胸元が顕になる。
    「わかった、あついんだ」
     大作が上機嫌に笑う一方で、幻夜の顔はどんどん青ざめていく。
    「こんどは、ぼくがぬがせてあげまーす」
     ただでさえ変な噂を立てられているのに、これ以上何かあってはまずい。そう考えた瞬間、大作の手が服の間に差し込まれようとしていたことに幻夜は気づいた。
     
     火事場の馬鹿力とはまさにこのことだろう。幻夜は侵入しようとしていた大作の両腕を掴み、勢いよくベッドに投げ飛ばした。あの体勢でどうやってやったのかは本人にもわからなかった。
     大作はというと、投げ飛ばされた衝撃でベッドからずり落ち、そのまま床で眠ってしまった。
    「連中は子供にどういう教育をしてるんだ」
     冷や汗なのか涙なのか、涎なのか。顔中をびっしょりと濡らされた幻夜は、息を喘がせながら逃げ出すように大作の部屋を出た。途中、女性団員にその姿を見られまたあらぬ噂を立てられたのであった。
     
     その後、JINTETSUに乗った大作はパワーアップした銀鈴ロボに大敗を喫し、無事国際警察機構に連れ戻された。幻夜だけがJINTETSUを失ったことと、あの日の夜のことを思い出し、喪失感に苦しんでいたのであった。
     
     了
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works