ふー、と細く息を吐けば白いリボンのように像を結んだ紫煙が夜のぬるい風にたなびいていく。
手元にはぼんやりと先端が赤い10ミリの煙草。
福田は時間帯も手伝ってひとっこひとりいない練習場のフェンスにもたれかかって瞬く星も少ない東京の空を眺めていた。またフィルターに口付けをして、小さく息を吸い込む。肺を満たす煙。
「ーーーオッチャン」
不意に呼びかける声がした。声の方面を見やれば、まだ遠い小さな人影。特徴的なモジャモジャ頭。
その影に福田は驚いた様子もなく、駆け寄ってくるそれを静かに待っていた。
「わりぃ、待ったか?」
「いんや。あ、ちょっと待て」
走ってきたのだろう、少し上がった息に切れ切れの言葉。消灯時間なんてとっくに過ぎたはずの夜中、いるはずの無い人物、葦人は少しはにかんでそう聞いた。
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