ビロードに墜落(牛アタ) 何故目が覚めたのかはわからない。
かつて沈まぬ太陽と謳われたこの国は、だからというわけではないが、夜の闇さえ淡い灰紫にけぶるようだ。頑健ながら優美な造りの窓も今は薄闇に浸り、そこに頬杖をつく男は、くわえた紙巻からほそい煙を流していた。
群を率いる、主を奉ずる、いずれにも過不足ない働きを見せる男。あるいは、期待以上の働きで周りの全てを振り回す男。客観的に評価を下すなら、そんなところだろう。他人事のように、下に置くには危険すぎるとアタルは思った。
全てはとうに手遅れである。彼は己を守るために惜しみなくその身を投じ、一度は還らぬ者とされた身だ。
じわり、と心臓の裏側が疼いた。
シーツの上から眺める、思いがけずしずかな横顔。つい数時間前、互いの精魂を振り絞るように情を交わした名残は、ほつれ乱れた髪にしか見られない。
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