どうしたものか…
数日前から頭を悩ませている事象に、リビングで頭を抱えながらとうとうひとりごちた。
ことの発端は数日前、同居人であるプレゼントデイ・プロブレム・竹内・ロバート。自分がロバートと呼ぶラットマンの青年から、いたって真面目に。それはもう真剣に思いのたけをぶつけられだが、彼の口から紡がれたのは日ごろの鬱憤や愚痴などではなく好意だったことが悩みの原因である。
「アンタが好きだ。俺と生きてほしい。」
この世に生を受けて○○年、さすがに目が合ったりすれ違うだけでときめくような若輩ではない。だからこそ彼からの純粋でまっすぐな言葉には目を見張った。兄弟ほど近くもなく、かといって友達程遠くもない、遠縁の親戚のような感覚で彼を同居人として迎えてそれなりに楽しく生活していたのだが、あろうことか彼の気持ちはこの家の外の人物ではなく自分の方に向かっていたのは想定外だった。
その時は彼と同じだけの熱量で、彼に捧げられるものなど持ち合わせていなかったため断ろうと思ったのだが、ロバートの怖がるような顔を見てつい考えさせてくれと言ってしまった。どちらにせよ早く答えを出さなくてはいけない。彼は心待ちにしてこちらに視線を送る機会が多くなっているのだから。返事をどうするか考え込んでいると、渦中の人物がリビングに顔を出した。
「なぁ、買い出しはいいのか?もう夕方になるけど」
「え?…あっ忘れてた!ありがとうロバート、すぐ行ってくるよ」
「…なぁ俺も行くよ。今日は買うもの多いって言ってたし、荷物持ちが居たって困らないだろ」
「あー…、うん、じゃあ、頼まれてくれる?」
「!ああ、もちろん」
正直買い物の間に答えを出す時間を稼ぐつもりだったが、そうはいかないようだ。かなり歯切れが悪くなったにもかかわらず彼はずいぶんと嬉しそうに返事をしてくれた。良心が痛む…。
もう9月だというのにまだまだ暑い夕方は少し草の匂いがして、いつもなら落ち着くのに今日はそわそわとしてしまう。ちらと隣を歩く彼を見ると、いつもエラーでできたという顔の模様のような部分は真っ黒で、飲み込まれそうだといつも思う。ふわふわとした頭のまま、いつも通っている近道の住宅街に入ったところでロバートが足を止めた。
「?どうしたの」
「――――っ」
「え」
急に腕を引っ張られてこけるかと思いきや、ロバートの腕の中に抱き留められたことで事なきを得た。しかしいきなり抱きしめられる理由が分からない。何があったのか一瞬のことで理解ができず、まさか返事が遅くなりすぎて怒らせたかと思いあわてて言葉を発しようとすると
ガシャン
後方で何かが割れる音がした。
音のした方向を向くと、先ほどまで自分が立っていたところに鉢と植えられていたであろう植物が無残な姿で崩れている。直撃したら間違いなく無事では済まなかった。青ざめるとはこのことかもしれない。ロバートはこれを予見して手を引いてくれたのだろうと気づき、先ほどとは違う感情であわてて彼の顔を見ると神妙なまなざしで植木鉢の残骸をみつめたあとこちらを見る。目が合った瞬間に引いた耳の奥で血の気が戻る音がした。
「やっぱりか…、怪我は無いか?」
「あ、えっと、ありがとう、無事だよ」
「よかった」
顔が近い、抱き留めた腕は思ったよりも力が強いようで細身ながらやはり彼も男なのだと再認識させられた。戻った血の気は循環してすっかり体温も戻ったが、これは、むしろ。
「何となく落ちる気がして、止まって正解だったな…。!?どうした!?」
「なんでもない…大丈夫…」
「大丈夫じゃないだろ!座り込むなんて、どこか怪我でも」
「いや…本当に、そうじゃなくて…!」
顔を中心に熱がこもり、あまりの情けなさに思わず顔を俯けたままその場に座り込む。頭上からロバートの焦った心配そうな声が降り注ぐが、自分はまだ若輩だと気付いてしまったいま、正直いまそれどころではない。案外自分も衝動で動いてるんだなと思う。彼が何者か知りながらうちに迎えた時点でまぁ今更ではあるのだが。
さて、愛しい同居人にどうやってこの赤ら顔を弁明しながら顔を上げようか。
数時間前まで悩んでいた答えはとっくに出たが、今度は新たな問題に再度頭を悩まされることになったのだった。