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    ##シナリオ素材

    歌姫は海底に踊るのかシナリオメモあなたたちはいつも通り朝目覚める。
    今日は2人で買い出しに行く日だ。ゆっくり体を起こしていつも通りキスをして、朝の支度にうつる。
    薄ら曇った空が湿った風を運んできていた。

    朝のニュース
    「謎の都市水没事件について続報です。被害はどんどん広がりを見せており、先日〇〇市が水没していたことが判明しました。
    専門家が事象について調べていますがまだ詳しいことはわかっておらず……」

    ・都市水没事件
    1週間ほど前から起きている事件。
    神奈川の海沿いの街から始まり、隣接する都市をたどって街が足首〜膝くらいまでの水位で沈んでしまうという事象で交通や地盤に被害が出ている。
    被害の出ている町は一本道のようになっており徐々に東京へと近づいてきているようだ。今日報道されたのはあなたたちの住んでいる2つ隣の街だ。

    ネットニュース
    『人魚の目撃』
    件の水没事件、最初の被害となった街ではまことしやかに人魚の目撃談が報告されている。
    「海辺で魚の下半身を持つ美しい女を見た」「人間とは思えない美しい白銀の髪の少女が海から出てきた」など、報告数は多く信憑性が審議されている。
    また、そこは昔から人魚にゆかりのある街として知られており、町おこしのためのデマなのでは、という声も多くあがっている。

    あなた達は街へと繰り出す。
    目的の買い物を済ませ、帰路につこうとした時だった。

    「待ってそこの人!」
    黒いフードを被った少女がよたよたと走りながら声をかける。
    「お願い、匿って!追われてるの!」

    あなた達から了承を得るとすぐ近所の家屋の塀の中へと隠れてしまう。
    すると間もなく曲がり角から黒いスーツの男性が数人走って現れ、キョロキョロと辺りを見渡しながらあなた達へ声をかける。
    「すみません、この辺りで黒いフードで裸足の女の子を見かけませんでしたか?これくらいの背丈で……」
    先程の少女を探しているのだと思うだろう。

    「……行った?」
    「ありがとう、ずっと追われて困ってるのよ」

    「ああ、私ったら……顔も見せずにごめんなさい」
    フードをとればそこに現れたのは非常に美しい、白銀の髪だった。白いまつ毛に飾り付けられた瞳はピンク、水色、様々な色を反射してオーロラ色に煌めいている。
    「私、ミシェルっていうの。よろしくね」


    「……そうだわ、私、人を探しているの、情報がなくて困っていて……」
    「初恋の人を、探しているの」

    「あのね、黒い髪で、頬を染めて笑うとすごく可愛くて……」
    「名前がわからないの、でも声も姿見はっきり覚えているわ」
    「……私、この街に詳しくなくて。何か調べ物が出来そうだったり、移動が出来そうな場所を案内してくれないかしら」
    「お礼は……そうね、これなら」
    彼女はそう言って薄い楕円形のものを差し出す。
    パールのように光沢を帯び、オーロラ色に偏光する何かだ。非常に美しい……なにかの鱗のようだ、と思うだろう。
    「もういらないから」
    「価値があるか分からないけど……さっき追ってきた人たちは、これと私の瞳を見て血相を変えてたから。いい物なんじゃないかしら」

    →断る
    「……そう、そうよね」
    彼女が暗く沈んだ顔をする。と、同時にざわ、と空気が騒ぐ。
    それと同時にパシャリ、と水音が響く。
    ふと足元を見るとじわり、とコンクリートが湿っている。
    水の発生源を視線で辿る。そこには彼女の裸足の足がある。
    あなた達が何かを言おうとした、それよりも一瞬早くそれは溢れた。
    ざぱり、と大きな音を立てて、彼女を中心に猛烈な勢いで水が周囲を埋め尽くしていく。
    落ち着く頃には、靴底に染みこそしないものの、うっすらと周囲の地面――坂道などで高さの変わらないかぎりは、どこまでも――には水が張っていた。
    ふと今朝のニュースを思い出す。
    『都市の水没』。もしかして、彼女がその原因なのだろうか?
    SANc 1/1d3

    「……私、どうしたらいいのかしら……」
    「水?あら、そういえば……でも、これってそんなに不思議なことなの?海だっていつも水で満ちているのに」
    「そうなの……私にはわからないわ」


    ・図書館
    『人魚姫』
    有名な童話だ。人間の男に恋をした人魚の姫は、海の魔法使いから声を引き換えに人間になる薬をもらう。
    歩きなれない足をひきずりながら懸命に男に気づいてもらおうとするが、最後には恋に破れ自ら海へ飛び込み、泡になってしまうという物語。

    『海の歌姫』木戸蘭丸 作/恵比寿乃愛 絵
    作者の実体験を本にしたという名目のファンタジー小説だと言われている。
    作者はある時海辺で世にも美しい人魚に出会う。
    彼女と恋に落ちた作者は必ず彼女を迎えに来ると言い、彼女も人間になってここで待っていると約束を交わした。
    しかし、約束の日彼女は最後まで現れなかった。
    彼女のための靴を持て余し、作者は夜空を一人で眺めるしかなかった。
    夢のような恋だった。
    最後にそうしめくくられた物語には、世にも美しい白銀の髪の少女の絵が添えられていた。

    ・木戸蘭丸について
    海洋生物の保護をしている由緒ある家柄に生まれた次男。
    家督を長男が継いだ後小説家として活動していたが、『海の歌姫』を書いた後、精神を病み執筆をやめたと言われている。
    木戸家については調べればオフィスを構える本邸の住所も電話番号もすぐに出てくるだろう。住所は、件のはじめの水没被害にあった街である。

    ・恵比寿乃愛について
    調べてもあまり情報が出てこないことから無名の画家であることがわかるだろう。ふだんは自伝的テーマを中心に絵本に絵を描いているようだ。
    細々と更新されている自身のブログには電話番号とメールアドレスが乗っている。

    ・恵比寿乃愛のブログ
    基本は非商用に描いた絵の公開に使われているようだ。
    優しい色合いに幻想的な雰囲気の絵が多い。
    人魚について検索をすると、一件の記事がヒットする。

    20××.〇.△
    木戸様の依頼より抜粋
    『人魚』
    そこには本の最後に描かれていた人魚の少女の顔が明確に描かれている。
    その顔は非常に美しく、特徴的な瞳の色も髪の色も一致しているが今一緒にいる彼女とは違った。
    その後ブログにはこう続いている。
    「古来より人魚の恋は叶わないものだと描かれています。現実でもきっと、恋は難しいものです。
    おばあさまの代より受け継いだ美しい絵の彼女たちの恋心がどうか、海の泡となって消えていませんように」


    ・木戸邸
    電話をする、インターホンを押すなどして人魚の話をしたい、と言えばすぐに取り次いでもらえる
    「……お待たせしました。当主の木戸知也です。人魚の話……をしたいそうですね?」
    「いえ、まずはあなた達の話を聞かせていただきたい」
    「……このようなことを言うと、何を言っているのかと……思われるかもしれませんが。私たちの一家は人魚に呪われているのです」
    「弟……蘭丸というペンネームで本を書いていましたが。弟もその呪いに殺されたのです」
    「人魚との接触記録は先祖のころからありました。そこから海洋生物の保護の家業につながったのでしょうね」
    「……最近現れたという人魚の話。私は信じています。……きっと、よくないことが起きている。今この街を含め、各地が沈んでいるのは……人魚の呪いに違いないのです」
    「私は人魚を捕まえて始末しなければならない。木戸の家に生まれた男として、けじめをつけなければ」

    「弟の部屋でしたら、ご自由に」

    ・木戸蘭丸の部屋
    あまり整理のされていない、生活感のある部屋だ。埃もつもっていない。到底故人の部屋だとは思えないほど管理されている。

    ・机
    あまり馴染みのない大きな器具が大半を占めている。ほかには様々な種類の皮やクッション材、トンカチなどが置いてある。
    知識→靴を作る材料や道具だとわかる

    ・本棚
    日記
    「〇月×日
    彼女は本当に人間になった!嬉しい、これで俺たちは一緒にいられるんだ。しかし俺の作った靴は少しサイズを間違ってしまったらしい。恥ずかしそうに靴が窮屈だと言う彼女の顔は幸せそうだった。

    〇月×日
    彼女はしきりに足の痛みを訴える。何度も靴を作り直したけれど、靴が合っていないのが理由ではないようだ。
    もっと柔らかいクッション材を入れた靴を作ろう。少しでも彼女の苦痛が和らぐように。

    〇月×日
    彼女を車いすに乗せてデートに行った。彼女の故郷と同じ色、ネモフィラの花畑に大喜びだった。陸にも美しい青があることを教えられて嬉しい。
    彼女は俺と一緒にどこまでも陸を見たいと言った。嬉しい、彼女の足が問題亡くなれば、世界旅行に行きたい。

    〇月×日
    彼女の足は一向に良くならない。声もだんだん枯れてきたように思う。以前ほど自由に歌えなくなったと彼女は悲しんだ。
    俺にはなにができる?

    〇月×日
    彼女はまだ人間になりきれていなかった。海の魔女が意地悪なのは童話だけではなかったらしい。
    彼女の一番の願いを叶えれば、彼女は人間になれると言う。
    彼女は俺がいれば他には何もいらないと言った。ならば、なぜ。

    〇月×日
    見るからに彼女は衰弱していた。俺には、なにが。

    〇月×日
    人魚姫。泡になって消える哀れな少女。どうして、彼女は人魚だったんだろう。
    俺は、彼女にキスの一つも、できなかった






    彼女を証明するものは、もう何もない
    そんなのあんまりだ」

    ・ベッド
    ベッドの下から箱が出てくる。何か楕円形のものをはめれば開くように鍵がほどこされているようだ。

    ・箱
    中には何枚かの写真と紙片が入っている。
    本に描かれていた美しい少女と青年がデートをしている際に撮ったのであろう写真だ。どれも非常に幸せそうで、二人の距離感に初々しさをも感じる。
    紙片にはとある女性の名前と電話番号、メモが記されていた。
    恵比寿愛子 人魚と恋をした画家 真偽確認、要相談
    アイデア→電話番号は恵比寿乃愛と同じものだ

    『……はい、恵比寿です。絵のご依頼でしょうか』
    『……それでしたら。今から言う住所へ彼女を連れて行ってあげてください。鍵なら……彼女が、持っていると思います』
    『私から語っていいような、簡単な……思いの話じゃ、ありませんから』

    そこにあったのは小さな可愛らしい小屋だった。少し山を登った先にあるここでは、街を侵した波の音も静かに、穏やかに聞こえる。

    中に入ると、独特なにおいが鼻孔をかすめた。絵具だ。絵具と、古い紙の匂い、油の匂いがまざって久しぶりに開け放たれたドアからあふれ出てくる。
    アトリエ、だった。

    イーゼルにかけられた布を取り払う。
    埃が舞って、その絵が露わになる。美しいオーロラ色の髪の少女……ミシェルが見事に描かれていた。その、隣にも。

    「ああ……!」

    ミシェルが絵に駆け寄る。その隣に描かれていたのは、黒い髪が美しく、笑顔の可愛らしい少女だった。

    絵の右下には100年前の日付、そしてE.Aとイニシャルが入っている。

    「そう、そうよ……彼女なの、私、この子に、ずっと恋をしていたのよ……」
    「もう、こんなに前のことだったのね。人に流れる時の短さのこと、すっかり……忘れていたわ」
    「……素敵な笑顔、やっぱり、大好き」

    愛おしそうにキャンバスの中の少女の頬をなでる。透明な雫が瞳に溢れてキラリと輝く。
    ぽたり、絵画にその雫は落ちた。黒い髪の少女の目元に落ちて、じわりと彼女の瞳も濡れる。二人がまるで再会に涙しあっているようだった。

    「愛してるわ、私の初恋の人」

    美しい人魚姫は最愛の人に口づけを落とす。
    この瞬間が、きっと誰よりも、幸せそうに見えた。

    ざぱり、もはや聞きなれた音が遠くから聞こえる。あなた達はふと窓の外を見るだろう。眼下に広がる街、その地面に広がった水面が揺らいでいる。
    つぎの瞬間。
    ざざざ!と音をたてて一斉に水が流れ出した。
    海に帰るように、水はみるみるうちに街から姿を消していく。
    あっという間に街は元通りになってしまった。
    驚いたように、土地の高い場所にある仮設避難所から人々が姿を現しているのが見える。

    ぱしゃ。

    小屋の中からも水の音がした。目線を戻せば、オーロラ色の髪をなびかせた彼女を中心に、水がキラキラと舞い上がっている。

    裸足の彼女の足を祝福するように、その美しい恋を祈るように、優しい水が彼女を包む。

    「私、この恋と一緒に生きていくわ。あなた達の、あの子の世界で。……そういう、約束なの!」

    きらり。
    ひときわ輝いて水がはじけた。思わずあなた達も目を閉じる。

    「ねえ、見て!」

    「私、もう、足だって痛くないわ」

    ……こうしてあなた達と人魚姫の物語はハッピーエンドで締めくくられる。
    後に、絶世の美少女が恋を歌って歌姫デビューをするのは、また別の話。

    エンド
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