再会目の前に暗い川が流れている。
空はどんよりと曇り、空気は体にまとわりつくように重く赤みを帯びている。
そんな景色を前に身動きが取れずにいると、いつのまにか隣に誰かが立っていた。
ぼんやりとした影で顔もはっきりとしない。
ただ、なぜか懐かしい。
誰か知りたくて、顔が見たくて、声が聞きたくて……その影に手を伸ばしたところで目が覚めた。
物心がついた頃から何度も定期的に見る夢だ。
幼い頃は怖い夢を見たと母親に泣きついたものだが、繰り返し見るうちに慣れてしまった。
それに今は怖いというよりどこか寂しさを覚える。
あれは、一体誰なんだろう。
夢を見るたびに湧く疑問は今日も晴れない。
そんな決して良い目覚めとは言えない朝だったが、まずは目の前の現実だ。
夢の余韻を引き剥がし、学校へ行く身支度を始めた。
いつもどおりの授業にいつもどおりの部活。
適度に高校での日常をこなし帰路につく。
近道である公園を通り抜けようとした時、ベンチに座る一人の少年に目が吸い寄せられた。
たぶん俺と同じ高校生だろうその彼は見慣れない制服を着ている。
この近くの学校ではないし、他校との試合で会った覚えもない。
知らないやつだ。
でも。
でも、俺は彼を知っている。
──やっと会えた。
頭の中で自分の声がする。
やっと?と思う間もなく、俺の視線に気付いたのか彼が顔を上げた。
そして、
「やっと、」
と俺を見て溢れるように言いかけて、混乱した表情で口元を手で覆った。
目が合う。
その途端、世界が晴れた。
今まで見ていた世界がまるで薄いベールに覆われていたかのように、いつもの景色が鮮やかに見える。
空気の粒ひとつぶひとつぶが光を帯びているようだ。
「俺、何言って……あ、れ?」
そう言葉を続ける彼の向日葵色の目からツーっと涙が溢れる。
「え……?ええ!?何で、俺……」
慌てて目元を擦る彼に近寄り、その手を掴んだ。
その間にも新たに滲み出てくる涙をそっと拭う。
「やっと、会えた」
座ったままの彼の顔を覗き込みながら心のままに伝える。
初めて会ったはずの見知らぬ彼は、確かにずっと俺が会いたかった人だ。
ずっと……ずっと前から。
気付けば自分の頬にも濡れる感触があった。
いつの間にか流していた涙を、今度は彼がおずおずと拭ってくれる。
そうしてようやくお互いの涙が止まった頃、ベンチから立ち上がった彼が口を開いた。
「俺さ、ずっと何か探してたんだよね」
「うん……うん、俺も」
「まだよくわかんねーけど……俺たち見つけられた、よな?」
そう言って彼がにこりと笑った瞬間、
晴れ渡る青空と爽やかな風が駆け抜ける草原、澄んだ川の水面が脳裏に広がった。
やっと会えた。
どうしても忘れられなかった魂の片割れ。
きっと、もうあの夢は見ない。
END