夢から覚めても「……くん、智衣くん。おはよう、起きた?」
「ん……」
「今日、予定あるって言ってたから……ごめんね?まだ眠かった?」
ああそうだ、と柔らかな声を聞きながらぬくもりから起き上がる。
と、
「っ、」
「……なんすか、変な声だして」
「え、いやあ……腕、しびれちゃって……」
横を見れば、ベッドから起き上がりかけたまま秀一が固まっていた。
枕の上に置かれた左手が力無く伸ばされている。
その光景に、ついさっきまで自分がその腕の中で寝ていたことを理解させられてしまった。
「馬鹿なんですか!?そんなになる前に退かせばいーじゃねぇですか!」
「うーん、でも智衣くん、気持ちよさそうにぐっすり寝てたから……」
それにね、と秀一が言葉を続ける。
「幸せだなぁって」
「……は?」
「僕の隣で、その、安心?したみたいな顔で智衣くんが寝てて……」
「そ、そんな顔して寝てねぇんで!」
「え〜?寝てるときの顔なんて自分じゃわからないんじゃ…」
「してねぇって言ったらしてねぇんで!」
……寝ている間に無防備な心の内を覗かれたみたいで居心地が悪い。
「う〜ん、じゃあまあそれは僕の勘違いかもしれないけど……」
「へぇ」
「いつも頑張ってる智衣くんが、安心して休める場所になれてたらいいなぁ、とはいつも思ってるよ」
「……へぇ」
にこにこと恥ずかしげもなくそんなことを言われて、何を返せばいいのかわからない。
ので、
「ひゃあ!や、やめてよ、智衣くん〜」
まだしびれてるであろう左手をピン、と指で弾いてやった。
探偵と助手からプライベートでもパートナーになった今でも、時々されるストレートな愛情表現に上手く答えることができない。
口籠る俺を秀一が急かすことはないが、それはそれで大人ぶられてるようで腹が立つ。
……自分がガキだと思い知らされるみたいで。
「寝てる時に人の顔ジロジロ見ねーでくだせぇ」
「ごめんごめん、つい……」
「……そういうあんたはずいぶん幸せそうな顔して寝てやがりましたけどね」
「え?」
「昨夜あんたの方が先に寝ちまったでしょうが」
「あ、そう?だっけ?」
「……あんたの間抜けヅラなんて見飽きてるんで、俺もすぐ寝ましたけど」
そんな体面を守るための俺の嘘も気にかけず、幸せそうだったんだ……と嬉しそうに秀一が呟く。
「あんたの頭が幸せなのは前からでしょーよ」
「あ、ひどいよ、智衣くん〜」
「へぇへぇ、ほら、起きますよ」
身支度をして秀一の部屋を後にする。
近々ある行事の準備で休日だと言うのに今日も学校だ。
いってらっしゃいと見送る秀一に、昼過ぎには事務所に行くから処理途中の書類には手を付けないように言い含める。
この間の二の舞はごめんだ。
秀一の部屋から学校に向かうのが少しくすぐったくて、いつもより早足で歩く。
また今度隣で目を覚ました時には言えるだろうか。
……考えただけで恥ずかしくて、あいつみたいに言える気がしない。
俺だって幸せですよ、なんて。
END