怪盗と騎士について────
『せりや、どこだ?』
幼子は道に迷っていた。
共に歩いていた友人とはいつの間にか逸れてしまい、小さい身体は大人達の波に呑まれていった。
『そんなところで如何したんです、お嬢さん?』
道の端に蹲って泣きそうな顔を隠していた幼子に、一人の青年が話しかけた。
幼子が声に驚いたように顔を上げると、青年はふわりと優しく笑ってみせた。
『…私は男だから、お嬢さんではないぞ』
『おや、失敬。俺のお客様は老若男女みな“お嬢さん”と呼んでいるんだ』
『お客様?』
『ああ。俺はマジシャンの見習いなんだ』
『マジシャン…?じゃあ、マジックができるのか!?』
『勿論。例えばこんなふうに、俺の持っている赤い花を…こう!』
そう言って青年がパチリと指を鳴らせば、赤だった花の色は黄に変わった。
『…!すごい、どうやったんだ!?』
『それは教えられないな。タネが明かされてしまっては楽しみがなくなってしまうだろう?』
黄色の花を幼子に渡せば、マジックで必要なのは純粋な好奇心だけだ、と青年は言った。
しかしこてんと首を傾げる幼子には、その言葉の意味は伝わらなかった様子。
『まあ、お嬢さんも大きくなったらこの意味がわかるよ』
『…じゃあ、私が君の言葉の意味を理解した頃、また君のマジックを見せてくれるか?』
『ああ、勿論。約束だ』
嬉しそうに言う幼子に、青年も嬉しそうに笑えば頷いた。
二人は神様にもバレないようにコソコソと喋って、小指を絡めた。