「降る、落ちる、枯れる」 最高裁判所は藤堂椿に死刑判決を下した。身を切る様な冷たい冬の日だった。
喫煙室で稲荷田狐は何本目かのメビウスに火をつけた。火をつけたはいいが煙を吸い込む事はせず、ただ無駄に紫煙が立ち上る様を虚ろな目で見ていた。
ここ数日で煙草を吸う量が目に見えて増えていた。喫煙が目的というよりも、手元に何かが欲しかった。それがたまたま禁煙に失敗した煙草だっただけの話で、立ち上り、どこからか入り込んでくる冬の風に揺れ、形を変える煙を目で追わないといけないような気さえしている。口に咥える事もなく、呆然と灰皿に何本もの灰を落としていた。
ギィっと喫煙室のドアが開く。冷たくて新鮮な空気が肌を刺した。
「稲荷田さんも休憩か?」
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