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    xm_izm

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    昨日夜中にひとりで大興奮してた、父水で💧の記憶仕舞っちゃってる👁️のお話
    後で消します

    #父水

    大切に仕舞おう
    もう誰にも取られないように

    大切に仕舞おう
    もう二度と両の手から溢れないように

    大切に仕舞おう
    ーーーーーそして、取り出したのならば




    己だけで、愛でよう






    「鬼太郎、親父さん、朝だぞ」

    水木家の朝は、この一言から始まる。
    あの呪われた村から帰還後、一時は危篤状態となり入院して検査に追われていた水木も、今ではすっかり社会人として毎日あくせく働いていた。

    そんな立派な勤め人である水木の朝は早い。
    早朝とも言える時間に目覚ましを鳴らし、目が覚めたらなるべくすぐに起き上がり、布団を畳み、洗面所へ向かい軽く身だしなみを整える。
    その後台所へ向かい、昨日の残りの米と汁物、あとは何か卵や和え物などを用意もすれば本日の朝餉の出来上がりだった。
    母が鬼籍に入り、ほぼ男の一人暮らしとなっている朝などこんなものである。
    おかずがあるだけ上等だろう。

    ーーーーまあ一人暮らしといっても、人間一人に妖怪が二人暮らしだが


    そんな風につらつら考えていたらもういい時間となった。


    「鬼太郎、親父さん、朝だぞ」
    先ほどまで自分が寝ていた、寝室として使用している一部屋に声をかける。
    一度目で起きたことはほぼないので、声をかけながら掛け布団を剥がし更に声量を上げてもう一度。

    「ほら、起きてくれ!あともう少ししたら、俺は出るからな!
    朝餉はいつも通り居間の机の上にあるから、好きに食べろよ!」
    「、、、、ぃ、、、ぉはようござ、、」

    そんなことをしていれば、眠たげながらも返答がきた。
    水木の愛し子がやっとここで起床する。

    ただしもう一つ、手のひらに乗るほどの大きさの布団。
    その中で眠っているはずのもう一人の方からは、まだ声は返ってこない。

    これもいつも通りの朝の風景なので、一旦鬼太郎を布団から出し顔を洗わせようと朝に自分が通ったままの道順で眠気からふらふらと揺れる体を誘導する。

    「親父さんも!早く起きろよ。息子に笑われちまうぞ!」
    「、、、、、あぁ、、、」

    再度大きめの声で部屋に一喝すれば、やっと声が返ってくる。
    いつもの高い声からは想像もつかないほどの低い声だった。
    水木としてはいつも通りの流れなので、惰性で流しつつ起きたと認識し一旦放置する。
    そうすれば、鬼太郎が幾分すっきりとした顔で廊下の向こう側から戻ってきた。

    「おはようございます、お義父さん」
    「おはよう、鬼太郎。親父さん連れて朝飯を食べておいで。今日は卵を焼いたからな」
    「はい」

    賢い子供は一度部屋に入り、目玉をひょいと回収すると居間へ向かっていった。
    話しながら布団を畳み押し入れに全て入れれば、朝ももういい時間となってきていた。
    急いで着替え、再度鏡を見ながら髪を整えたところで出社の時間である。


    少し慌ただしく、しかしいつも通り玄関へと歩きながら居間に一度顔を出す。
    息子はちゃぶ台に向かいながら、朝餉を食べていた。

    「すまない、昨日の余り物ばかりになっちまって」
    「いえ、美味しいです。卵も甘くて僕は好きです」
    「ありがとな」

    なんでもない朝の会話だが、水木にとっては何よりも尊いものだった。


    自分は記憶を無くしている。
    無くしていると言っても、たった一週間にも満たない期間のものだった。
    話を聞けば自分はとある村へ赴き、そこで起きた災害に巻き込まれて大怪我をし、山中に倒れているところを救助隊に発見されたとのことだった。
    この辺りも、水木にとっては朧げで村へ向かう夜行に乗ったことは覚えているのだかその後はぼんやりとしていた。
    入院中に、同僚や救助してくれた隊員から聞いたことである。
    その時の記憶は断片的で、てんで当てにならない。


    救助された水木の中に残っていたのはまるで虫食いにあったかのような、穴だらけの記憶だった。


    誰かの首に斧が振り下ろされるのを見た。
    ーーーーー誰の?

    誰かが自分にパーラーの話をしている。
    ーーーーー連れていって欲しいと言ったのは誰だ?

    酷く凄惨な、有り得ない事象を見た。
    ーーーーーどんな?

    信じていたと言われたのに目を逸らした。
    ーーーーー誰から?

    誰かと必ずだぞと、約束をした
    ーーーーーなにを?




    解消されない疑問が浮かんでは沈んでいく。
    自分が居る場所も分からず、酷く錯乱し泣きながら断片的に疑問ばかり話し喚く男に看護師たちは酷く怯えたであろう。
    田舎の山奥の村で起きた凄惨な災害と、その唯一の生き残りである男の容姿も怯えに拍車をかけるものだった。
    銀幕スタァのような顔に浮かぶのは混乱と喪失と悲哀に満ちた表情ばかりで、止まらない涙と身体中の傷、白く抜けた毛髪は余計に現実味をなくさせた。

    ーーーーーあの村で、おかしくなってしまったのだろう。可哀想にねえ。




    時薬とはよく言ったもので、一時は錯乱し一日中泣き明かしていた水木も時間と共に落ち着いていった。
    もちろん内心は全くと言っていいほど穏やかではなかったが、皆が求める普通になる、その様にしなければ今までも生きていけなかのだから表面を取り繕うのは水木の得意とするところだ。


    そうして世間一般の"""普通"""として寝起きし、良き患者として生活していれば、すぐに退院、職場復帰も問題なしとトントン拍子に話は進んだ。
    そして、一ヶ月弱の入院の後めでたく自宅へと戻ったのだった。

    戻ったその日、人魂に誘われ向かった廃寺。
    そこで抱き上げた、赤子。

    一瞬見えた、桜吹雪と長身の着流しの男。





    もぐもぐと頬を動かしながら朝餉を食べる、養い子を見る。
    桜吹雪の中、こちらを見た筈の男は顔も色も何一つ見ることができなかった。

    初めは、拾った赤子の世話で目も回るほどだった為、失われて虫食いだらけの記憶のことなど考えずにすんでいた。
    しかし、父親を名乗る目玉が同居する運びとなり鬼太郎もある程度大きくなったときに、ふと視界に男が映るようになったのだった。




    最初に見たのは、あの雨の日と同じ桜吹雪。
    二度目は、誰かを抱き上げながら向かい合う自分に対して何かを話す男の姿。


    それらは、朝起きて陽光を感じながらも布団から起き上がるのが億劫だと考えながらぼんやりと横になっていた朝の一瞬であったり、ふと仕事中誰かに呼ばれた気がして顔を上げた瞬間であったり。


    夜、目玉が用意した酒をたらふく飲みながら眠気に耐えて瞼を擦ったその一瞬の暗闇の中であったりと、一貫性がなかった。


    描写も様々で、水木に分かることは同じ着流しの男の幻覚を見続けているといったことのみである。

    赤子を抱き上げた、あの瞬間から、ずっと。


    しかし、この男こそ自分にとって代えがたく一等大切であった筈のものなのだという確信が何故かあった。
    同時に、思い出せない記憶と瞬きすれば消えてしまう男の顔に酷く焦がれ、そのせいで混乱した脳みそは所在不明に湧き上がる罪悪感を溢れさせ、涙として体の外に排出してしまうといった有様だった。
    気を抜けばどこでも泣いてしまうというのは非常に厄介だったが、水木にはどうすることもでず辟易してはまた幻覚に焦がれた。



    忘れてしまった忘れられない、記憶にない想い人。

    ずっと変わらず瞼に焼き付いていたその幻覚の内容が、ここ最近少しづつ変化していっているのも、水木を悩ませている一つである。



    ーーーーあんな、口吸いや、、、、ましてや目合いの景色なんてあったか?


    口を吸われて息も絶え絶えになりながら開いた目に唯一映った夜に光る赤い瞳孔
    どう見ても自分が仰向けに床へ押し倒された状態で、上から覆い被さっている体格の良い男の肩越しに見る天井の木目


    これらは最近になって追加されたものであった。

    少なくとも赤子を育てている間には無く、酒盛りやアイスキャンデーを食べたりといった普通の何気ない田舎の村での描写が多かった筈である。


    (一体なんなんだ、、?欲求不満なんだろうか)
    記憶にない顔も分からない男に押し倒され、閨を共にしている幻覚を見続けているなどと誰かに言った日には、即日病院の世話になることだろう。



    だが、水木は辟易とながらこれっぽっちも恐怖は無かった。
    ーーーーむしろ最近は幻覚を心待ちにしている節すらある。

    なぜならば記憶を落としてしまった己は恋煩うことも自力ではままならず、想い人は幻覚の中でしか会えないのだから。
    完全に他力本願な逢瀬だった。


    ここでふと、水木の中に疑問が生まれる。


    記憶を落とした?、、、無くしたではなく?


    生じた疑問は垂らした一滴の墨汁の様に、広がっていった。
    何故落としたと感じたのかとんと分からなかったが、何故かしっくりときたこの表現に更に混乱した。

    落とした、無くしたのではない




    ならば、その落とした筈の記憶は、いまどこに?





    「ーーーー水木よ」
    「、っ!!ああ、なんだ?」
    思考の海に沈んでいた水木の耳に、甲高い声が届いた。
    大仰に肩を跳ねさせ返答した水木に重ねて声がかかる。


    「そろそろ、時間なのではないか?もちろんおぬしが今日は休みであると言うのであれば、ゆるりとしておれば良いのじゃが」
    慌てて時間を見れば、なるほど確かに出勤の時間が迫っていた。
    慌てて立ち上がり、二人に向かって声をかける。


    「じゃあいってくる。今日は少し早めに帰れると思う。」
    「ーーはい。いってらっしゃい、お義父さん」
    「うむ、気をつけてゆくのじゃぞ」
    きちんと咀嚼を終わらせてから、返答する息子とちゃぶ台の上に居る目玉が揃って声を返す。


    慌ただしく玄関から出た水木の頭には、先ほど生じた疑問はもう一切残っていなかった。

    いつもと変わらない、水木家の朝の風景である。







    だからこそ、後ろからそっとかけられた妖の囁きに気づくことができなかった。


    低く、低く、妖が唄う。

    「ーーーーーー安心せい。今夜辺り、また戻してやるからな」





    仕舞ってしまおう。
    大切なものは、仕舞ってしまおう。


    己だけに向けられた、国よりも己が大切だと叫んだ全霊の愛を己のものとして何が悪いのだろうか。
    ましてや成仏させた狂骨が消える間際落とした記憶を拾い集めて、箱に閉まって。
    そうして隠して、誰が己を責めると言うのだろうか。


    仕舞ってしまおう。
    己だけが触れるように、見られるように。

    仕舞ってしまおう。
    仕舞ってしまおう。




    もう二度と、誰にも、取られないように。




    そうして思案する目玉の影は、朝の陽光に照らされてはっきりと室内に映っていた。


    それは、目の前に座る子供をそのまま成長させた姿に



    とても、よく似ていた。





    嗤う妖が何を腹に仕舞っているのかは、妖のみが知ることである。
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