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    watashi_konashi

    @watashi_konashi

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    watashi_konashi

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    傭兵パロの三角関係。本編では出ないであろう裏面を書けるのがパロだよね!誤字脱字許せ!

    ##アジサイちゃん
    ##小説
    ##プロット

    出来損ないの歯車たち「抱かせろ」

    つい一秒前まで自室のドアノブを見ていたはずの俺の視線は、一瞬のうちにひっくり返され、今は銀色に輝くナイフの先端と、その奥にある深いアメジスト色をした瞳を捉えていた。

    「えぇと……?アジサイ。これはお誘い?それとも脅迫?」

    彼の目に殺意が込められていない事を確認した俺は、次に現状の確認を行う。

    「…………。」

    俺の問いかけに一瞬だけ大きな彼の瞳が更に見開かれたと思ったら、「チッ」と舌打ちを一つ残して消えるように彼は去っていった。







    「レンくん。アジサイに誘われたんだって?」

    パソコンから顔を上げたサワさんが、思い出したかのように今朝がたの話を俺に持ち出してくる。

    「誘われたっていうか……多分何かを間違えたんじゃないですかね?」

    俺は黙々と違法AV(もはやスナッフビデオ)の編集と収益確認をしながら、瓶に入った炭酸水を口に持っていく。

    「なるほど……。たしかに、彼の場合はその可能性のほうが高いね」

    一人頷きながら、サワさんは再びパソコンに目を落とす。

    彼……今朝がた俺に華麗な背負い投げを決めこみ、そのまま胸ぐらを掴みお気に入りのナイフを俺に突きつけてきた青年。アジサイ。
    彼はここ、社会から掃き出され、正常でお綺麗な日向の道を守るために捧げられた生贄の集まりである裏社会に来るまでは、「社会」そのものが存在しないようなこの世の果てで、穢れることなくナイフ一本を手に咲き続けていた、奇跡のような花だ。

    もちろん、本当に「花」ではなくあくまでも比喩表現での花ではあるが、ただ彼のその麗しい見た目……、真っ直ぐで真っ黒な髪色、その髪色とは対象的な白くてきめ細やかな肌に深いアメジストの色をした大きな瞳。その瞳を縁取る長い睫毛に、すっと通った小さな鼻と、小さな唇。それを形容するかのように、この社会のボスにつけられた花の名前が、彼にはしっくり似合っていて、つい「花」のようだと思ってしまう。

    小柄な身長と細い体型も相まって女性のように見えるが、正直彼の前では性別など意味をなさない。
    そう、ただ彼は美しく、凛と佇んでいるだけでいいのだ。

    と、こちらがいくら思っても彼は人間だ。社会すら存在しない場所から、一応とは言え「社会」なるものが存在する世界へと拾い上げられた彼は、ただ肉を切るだけではなく「他者とのコミュニケーション」も覚えなくてはならなかった。


    そんなこんなで1年の歳月が過ぎ、基本的な挨拶や食事の仕方、着替えにお風呂にetc……。人間としての形を保つための技と、コミュニケーションを取るのに必要な言語を、なんやかんやとありながらも習得していった彼は、何をどこでどう覚えたのか、今朝のような言動に出たのであろう。

    (抱かせろ、なんて。普通に考えたらセックスをさせろ、だろうけど。あのアジサイが……?)

    銃を持って戦場を駆け回ることしか能のない俺に、暇つぶしとして与えられたビデオ(この言い方もいい加減古いな。今やデータだ。)を眺める。
    こんな裏稼業で流すビデオの中身なんて、本当にろくでもない。表社会にいた頃の俺が見たら、この世から根絶すべしと銃を持って立ち上がるだろう。
    (まぁその果てに、今のような生活が待っているんだろうけど。)
    ただ一応アダルトビデオ、という名目で売り捌いているだけはあって、一応セックスの形はなされている。……まぁ、普通のセックスでは、女優の顔が青緑色に染まることはないのだけれど。

    以前、同じくナイフを手に人を殺すしか能のないアジサイにも、俺と同じ仕事が回ってきたことがある。
    俺は先輩として、ビデオの編集の仕方を教えるべく、横に座り、パソコンで映像を再生した。

    そして5分後、パソコンは見るも無惨に破壊され、真っ青な顔をして部屋の隅で殺気を放っているアジサイを、俺は一週間かけて宥める羽目になった。

    どうしてそんな凶行に出たのか。アジサイは説明をする技術を持ち合わせていなかったので俺の想像にはなるが、おそらくはここに来る前……「この世の果て」で、同じような目に遭ったのだろう。
    そういったことは珍しいことではない。現にここに出ている女優たちだって、クスリや酒で狂わされているだけで、脳みそが破壊されていなければ、アジサイと同じような反応になるだろう。

    そうつまり、アジサイにとっての「セックス」はそのような形であり、一週間は寝込むようなトラウマであり、決して彼が望むようなものではないはずなのだ。

    (となると、アジサイにとっての「抱かせろ」……ねぇ)

    俺は映像を一時停止して、煙草に火をつけた。ちらりとサワさんの方へと目をやると、パチリと目が合う。

    (あぁ……。気になるんだ)

    同じ拠点に住み、同じアジア系であるサワタニことサワさんは、俺とはもう5年の付き合いになる。仕事仲間としても、夜の仲間としても。

    しかし夜に関してはあくまで一時的な、共に相手のいない時のその場しのぎの行為であって、そこに深い感情は無い。はずだった。

    (彼だけ、ね)

    そう、サワさんはあくまでも性処理の姿勢を崩すことなく、行為中に甘い言葉もなければ、昼間に俺達の関係を匂わせることは一切無かった。
    彼を知る者の間では、彼はアロマンティックなのではないかとの噂があるくらい、そういう面は淡白だと知ってから、俺はこの気持には蓋をして、彼と足並みを揃える努力をしてきた。

    (抱いてもらるだけ、有り難い話)

    自分の胸にある手術痕を思い出してはそう慰めてきたが、アジサイがやってきたあの日。アジサイを初めてみた彼の顔を一生忘れることはないだろう。

    まるで中学生が世界的女優に街でばったり出会ってしまったかのような、ベタで幼稚で、こちらが呆れるくらいに染まった真っ赤な顔を。

    それはもう誰が見ても(あ、こいつ落ちたな)と分かるような表情で、サワさんはぎこちなく挨拶をし、その後は数ヶ月くらいまともに顔を合わせてなかったと思う。

    (これで俺が嫌われたくない立場でなければ、思う存分弄って楽しめたのに)

    もちろんアジサイにそんな他人の心の機微など分かるわけもなく、あまり近寄らないサワさんの存在は無視をして、何かを世話を焼いた俺に懐いてきた。

    そうこう時が流れるうちに、サワさんもアジサイが存在していることに慣れてきたのか、表面上は普通に接し、今では仕事の打ち合わせを二人で行うときもあるくらいだ。

    ただ、彼の内心は……どうなっているのかは分からない。
    淡白だと思っていた彼はただのポーカーフェイスで、恋もすれば妬きもする。そんな普通の人間だと気づいたのはいつだっただろうか。
    元に今の視線も、アジサイから投げつけられた言葉に、……その意味が本来の意味とは違っていたとしても、羨ましいという気持ちは存分に込められていた。

    (こんな狭苦しい家の中で、何やってんだが)

    俺は盛大に溜息をつくと、空になった瓶の中に煙草の灰を落とした。





    そう大きくはない街道を、黒塗りの車が颯爽と駆け抜けていく。
    周りは庶民の台所といった風景で、粗末な建物に飲食店や生鮮食品を扱う店が乱雑に並んでいる。
    そんな光景に似つかわしくない車の中は静まり返っていて、ただ一人、男がタブレットに目を落としていた。

    「停めて」

    低く通る声で男が命令すると、運転手はプログラムされたかのように瞬時に車を停める。
    そしてそのボンネット上に、黒い塊がダンッ!!という音と共に降ってきた。

    運転手と助手席、そして命令を出した男の横にいた男たちが一斉に車から飛び出す。
    彼らは迷いなく懐に手を差し込むと、拳銃をその塊に向けたが、その指でトリガーを引く前に意識が遠のいていった。
    彼らの訓練された俊敏な動きよりも遥かに速く黒い塊は彼らの懐に潜り込み、一撃で昏倒させたのだ。

    「做得好!小猫!」

    最後に残った一人の男が、にっこりとした笑顔で後部座席から降りてくる。

    「格闘技、上手くなったじゃない。目がいいのは分かっていたことだけど、ここまでくると私もうかうかしていられないかもね」

    男は尚もにこにこと笑いながら黒い塊……アジサイに近づき、その小さな頭を撫でる。
    するとアジサイの目が鋭く光り、男の手を払い除けた。

    「王皓熙。お前、嘘をついたな」

    アジサイの目は軽く殺気を放ちつつも、どちらかというと不満の色で染まっていた。

    「えぇ?どれのこと?それだけじゃ分からないよ」

    目は口ほどに物を言う。正しくそれを体現しているこの小さな子猫が、レン達アジア系のはみ出しもの……もとい傭兵やマフィアを束ねるボスこと王皓熙の最近のお気に入りだ。


    「アジサイ、ものを尋ねるときは、順序立てて聞かないと」

    まるで小さな子供を諭すようなものの言い方に、アジサイは反抗するように早口で答えた。

    「1ヶ月前、お前の部屋、レンを抱く方法を聞いた」

    いつ、どこで、何を。基本の3つを答えたアジサイに、王皓熙は「上手に出来ました」と満面の笑みで拍手を送り、自身の記憶を巡らせた。

    「あぁ、あれね。実行したの?」

    「した。でも、脅迫と言われた」

    「なにをしたの」

    僕はそんなこと教えてないよ、と一人称をプライベートモードに変えた王皓熙は、この可愛い子猫の話を聞いてあげようと、近場にあった階段に腰を据えた。

    「……抱かせろって、言った。」

    「それだけ?」

    「……その、」

    どう言ったものか考えあぐねたアジサイは、王皓熙に向き直ると、彼の膝の間に割って入り、つうっと顎を細い指で持ち上げた。

    「……抱かせろ」

    可愛らしい顔立ちとは裏腹な心地の良い低い声、少し潤みながらも真剣な光を帯びた宝石のような瞳が、小さくも芯を持って迫ってくる。

    「完美的!僕ならすぐにでもベッドに連れ込んでその顔をぐちゃぐちゃになるまで蕩けさせたいね!」

    王皓熙はアジサイの指に軽く口付けを落とし、彼の髪にもキスをした。

    アジサイはその所作をうっとうしそうに避けながら「お前に言っているんじゃない!」と釘を差した。

    「分かってるよ。でもそれだけ教えた通り完璧な誘い方をして、どうして脅迫だなんて言われるんだい?」

    王皓熙はなにかに気がついたような目で、アジサイの瞳を覗き込んでくる。アジサイは目を逸らし、一息置くと。

    「レンが、前を向いてなかった」

    とポツリと答えた。

    要約するとこうだ。

    今朝、レンがいつものように射撃訓練とランニングを終えシャワーを浴びた後、アジサイはレンに声をかけようとした。
    しかし、レンは自室に入るためにアジサイに背を向けており、アジサイは自室に入られる前に事を決めておきたかったので、とりあえず背負投げをしてこちらを向かせた。

    そして、驚いた顔で自分の下にいるレンが、シャワーを浴びた後もあってか、普段あまり見ない火照った顔をしていたことに動揺をして、つい癖でナイフを向けてしまい、そのまま伝えたいことを伝えてしまった。


    「小猫!君はなんて可愛らしいんだ!!!」


    ことの成り行きを理解した王皓熙は、その時のアジサイの心情を想像して腹を抱えて笑った。
    きっと初めて襲い来る感情に戸惑い、混乱し、みっともない顔をしていたんだろう!

    そんな王皓熙を怪訝な顔で眺めながら、アジサイはわざわざ王皓熙を探し出した目的を果たすために新たな質問をした。

    「で、どうしたら抱けるんだ」

    生理的に溢れてくる涙を拭いながら、王皓熙は呼吸を整え、アジサイに尋ねる。

    「逆に聞きたいんだけど、どうして小猫は小狼を抱きたいんだい?」

    王皓熙の記憶では、アジサイは性行為に多大なる嫌悪感を示していたはずだ。
    そしてその報告も小狼……今渦中の真っ只中にいるレン本人から聞いた話だ。
    レンは元々が表社会の出身であるからか、一般的な常識と知能を兼ね備えているため、彼からの情報を疑う必要はないだろう。

    パソコンを破壊し、寝込むほど性行為を嫌う彼が何故レンを抱きたいのか……。前回はアジサイに口説きの手解きをすることに夢中になっていた王皓熙は、今更ながらにそのことが気になった。
    するとアジサイは、そんなことかと言わんばかりに、軽やかに口を開いた。

    「3ヶ月くらい前、サワタニがレンを抱いているところを見た。レンが泣いていて可愛かったから、オレも泣かせてみたいと思った」

    アジサイはその時のことを思い出したのか、少しばかり頬に色が入ったが、ようやく叶うと思った願いが不発に終わったことを思い出し、すぐに顔色はいつもの人形のような白さに戻った。

    「なんだ、そんなこと」

    もっと深く入り組んだ……、例えば愛とか恋とか、面倒な感情が入り込んだ問題だと思っていた王皓熙は呆気に取られてしまった。

    「それなら、うちにおいでよ。部屋を貸してあげるから、好きに泣かせると良い」

    王皓熙は見た目こそ20代の若き青年だが、その両手に持つ権力は計り知れない。
    知識と常識を兼ね備えたレンならば、我が家に招いた時点で逃げも隠れも拒みも出来ない。
    可愛い可愛い小猫の好きなように出来る。

    そう提案するも、アジサイはしかめっ面をして首を横に振った。

    「あの家で、サワタニが抱いていたあの部屋じゃなきゃ嫌なんだ。」

    アジサイの目にははっきりとした嫉妬の炎が燃えていた。自分に懐いてた狼が、その辺の犬に食べられてしまった事が気に食わないと、彼は言葉は知らずとも、その気持ちが心にあることを自覚していた。

    王皓熙は、そんなアジサイの目を見て少し驚くも、すぐに口角を上げて笑みを深める。


    「いいよ、可愛い小猫。君が望むならそうしたらいい」

    それにしたって、あんなボロ小屋に男3人。どうしてこんな面白いことになるんだろう!

    王皓熙は再び盛大に笑うと、立ち上がりアジサイの手を取って、いまだ転がったままの運転手のみぞおちに蹴りを一発入れた。

    「今日は家においでよ。今度は泣かせ方を教えてあげよう」

    アジサイはこくんと頷くと、自分が気絶させた男を横に蹴り飛ばして、王皓熙の車に乗った。








    「げ。」

    レンくんがスマホを見ながらとんでもなく嫌そうな顔をしている。

    「どうしたの?」

    仕事を切り上げ、そろそろ食事でも……と話していたところでのその顔に、僕は思わず尋ねる。

    「……アジサイのやつ、今日はボスのところにお泊まりだそうですよ」

    どこに行ったかと思ったら!

    そう叫ぶレンくんに、僕自身も思わず嫌な顔をしてしまう。
    レンくんは恐らく、毎回毎回ボスが面白がってアジサイに仕込む知識や言動の犠牲と訂正に追われるからだろう。
    最近では僕自身も訂正をするようになったが、アジサイの中では僕よりもボスのほうが格が上なので、なかなか言う事を信じてくれず途方に暮れることの方がまだ多い。

    でも僕はそれよりも、ボスのアジサイを見る目と、あの距離感がたまらなく嫌いだった。
    自分でも幼稚だとは思うこの恋心にいちいち棘を刺してくるような、見せつけてくるような。
    恐らくはボスに筒抜けなんだろう。彼の瞳に写されると、何もかもが見透かされているような、そんな妄想に侵される。きっと僕だけでなく、他の人もそう。それが彼の人心掌握術なのだ。

    無垢なアジサイは逆にその影響を受けないようで、見ているこっちがハラハラするような態度をとるけれど、それがまたボスのお気に入り度を上げているらしく、こんな風にアジサイを連れ出すことはままあった。

    そう、無垢な彼。あんな純粋な彼を、あの悪魔のようなボスがいつまで放っておくのだろうか。
    アジサイは性行為が嫌いだ。あの事件のとき、僕は出掛けていて詳細は知らなかったけれど、ようやくこの家に慣れてきた彼が部屋から出てこられなくなったことは、僕の心をきつく締め付けた。
    あんな思いはもうさせたくない。僕がアジサイに対して、もちろんそういった欲も抱きながらも、今日に至るまで適切に距離をおいてきたのは、ひとえに彼への愛情だと思う。

    (こんな世界のボスに、果たしてそんな感情があるのだろうか……?)

    いともたやすく彼に触れ、いともたやすく懐柔してみせた、僕より歳下の彼に、僕は間違いなく嫉妬をしているし、警戒をしている。

    したところで……何も出来ないんだけれど。

    そんな自分の感情を顔には出さずに、僕は食事に出かける準備をする。
    ポーカーフェイスはこの世界で生き残る上での基本だ。レンくんは表情の多い方だが、彼には銃という武器がある。僕には何もない。この頭脳と身体だけで生き残るしか無いのだ。
    そんな事を考えていた僕の袖が、くんっと引っ張られた。
    今、この家にいるのは二人しかいない。振り返ると、レンくんが少しうつむき加減で僕の袖を握っていた。

    「どうしたの?」

    当たり障りのない声で尋ねると、レンくんは、あ~いや~と頭を掻きながら言葉を濁しつつ

    「……アジサイもいないことだし、久しぶりに、しません?」

    と赤らめた顔で言ってきた。

    時折この、素直に感情を表に出せる生き方が羨ましく思える。
    きっと表社会で彼に出会っていたら、もっと良い友達になれただろうなと思う。
    でもここはそんな世界ではなくて、僕は自分を殺して生きて行くと決めたわけで。

    「……いいよ。じゃあご飯は適当に買ってこようか。スキンもないしね」

    前にしたのはいつだったか。アジサイに出会ってからというもの、僕は軽く不能になったんじゃないかと思うくらいに性欲が減退していた。恐らくはアジサイに悟られないように押し殺した結果なのだろうけど、その事もあってか、レンくんとは前ほど身体を重ねなくなった。

    (まぁ別に、レンくんでなくても良いんだけど)

    とはいえ、同じ家、同じ職場に属する者のほうがなにかと後腐れもなく、ダラダラと時間を重ねた甲斐もあって、身体の方も随分と馴染んできた。

    (……アジサイ……だったらなぁ)

    なにか話しかけてくるレンくんに適当に返答をしつつ、僕はアジサイの身の心配をする。

    (駄目だ、考えてもしようがない)

    僕はアジサイへの思考を断ち切って、夕食のことを考えることにする。そしてその後のことも。

    (レンくんが、少しM気質で良かった)

    僕は気づかれないように薄く笑う。少しばかり手酷くしても、レンくんは気持ちが良いみたいで、泣いて好がってくる。

    (今日はそれで発散しよう)



    先に進むレンの後ろ姿を見ながら、それでもいつかアジサイを抱く時のために、今日は優しくしたほうが良いかもしれないと、サワタニは再び悩み始めた。


    そんなサワタニのポーカーフェイスの内側を読み取りながら、レンは空を見上げる。

    空は星1つ見えないほどの曇天で、レンは自分の行く先のようだと自嘲気味に笑った。






    翌日、レンは再び押し倒されることになる。前日、サワタニに抱かれた部屋で、何故か花を両手にいっぱい抱えたアジサイに。








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