Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    でぃる

    @d_i_l_l_

    オペラオムニアの世界で過ごすアーロンさんを書きたい小説置き場です。アップした順に読むのが良いと思います。ジェクアー要素ありはワンクッション。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🌱 🌿 🌾 🍸
    POIPOI 39

    でぃる

    ☆quiet follow

    (2022/06/18)
    煙管を吸うアーロンさんをテーマに、ブラスカ様の視点で書きました。

    煙管かつての仲間が揃う野営の夜だった。
    出現する魔物は弱いエリアのため、食事が済んだ今は天幕の前に広げた焚き火の前で各々自由に過ごしている。
    月が輝く満天の星空はまるでスピラのようで、ありもしない旅の続きを錯覚させるからでブラスカはこの世界の存在に感謝した。
    最愛の娘であるユウナはティーダと焚き火の横で談笑していた。ティーダは魔法を使わずに火を起こしたいのか、拾ってきた板状の木に枝を押し付けて回しては首を傾げている。
    その様子にあれこれ偉そうに口を出すのがその実父ジェクトであり、対する息子は喧嘩腰でいつもの騒がしさが森の静寂を打ち消していた。
    ワッカとルールーも片隅で相変わらず軽い言い合いをしており、キマリの表情は掴めなかったが少なくともパインはうんざりした顔でそれを聞き流している。
    そして、かつての自身のガードである男は少し離れた暗がりで、手頃なサイズな岩の上に足を組んで座っていた。
    アーロンはいつも隅の方で全員を見渡すようにしていることが多い。それが二度目の旅の定位置なのだと、ブラスカは考えていた。
    それからきっと、煙草の煙を気にしているのだろう。風下にいるせいで吐き出す煙は誰の方にも流れずに闇夜に溶けていく。
    ブラスカはそこでアーロンが手にしているものが、酷く懐かしいものであることに気付いた。
    短い草を踏み分けてアーロンの側に寄れば、夜でも外さないサングラス越しに鳶色の瞳がこちらを見上げてきた。いつも眉間に皺が寄りがちなその表情は穏やかで、とてもリラックスしているように見えた。
    「おや、アーロン珍しいね?」
    「ああ、これか?手持ちの煙草が切れたんだ。荷物の奥底から一式出てきてな、ブラスカには懐かしいだろう?」
    アーロンが切れた煙草の代わりに掲げたのはスピラでは広く使われている煙管だった。
    二度目の旅が始まる直前、ルカで購入した物らしい。一般的な物で、高位な僧が持つような華美な装飾も施されていない。アーロンらしい機能性だけを重視した細長いデザインのそれは、木と鈍く光る真鍮で出来ているようであった。
    もっとも、その煙管とはユウナたちと旅をした数ヶ月の付き合いだったらしく、傷付いたライターとは比べ物にならないほどに新しいものに見える。
    細長い煙管の中程を親指と人差し指で摘み、親指の付け根軽くで支えるような吸い方は、今のアーロンにやけに似合っていた。
    「そっちも似合っているよ」
    「味は悪くないんだが、手入れが面倒でな。紙巻煙草が手に入るのならこっちを使うのは極力控えたい」
    そう言って眉を下げる表情が焚き火に照らされて、思わずブラスカは目が離せなかった。
    「なんと言ったらいいのだろうね…ああ、アーロン、すごくセクシーな感じがするんだ」
    少なくとも、紙巻煙草とは違う退廃的な優雅さが漂っていた。気怠さと憂いが混ざった独特の色気は、10年経ったアーロンが醸し出す雰囲気の特徴の一つのような気がした。
    だけどこの男はそれに気付いていないのだろう。その無防備な姿勢こそが色気の正体なのかもしれないと、幼い頃からアーロンをよく知るからこそブラスカは思った。
    「は?何を言ってるんだブラスカ…」
    「夢のザナルカンドでは、モテたかい?」
    「いきなりどうした?残念だが、色恋沙汰にかまけている暇など無かったさ」
    では、君の纒う憂いの正体は一体なんなんだい?といっそ聞いてしまおうと思ったが、問いかけるのがどこか恐ろしい気もした。
    ただ孤独の中でティーダを育てただけで、10年前の真面目で素直な堅物青年から今の姿を手に入れることが出来るとは、なんとなくブラスカには思えなかったのだ。
    ぼんやりと煙管を咥えながら、見つめる先は煌々と焚かれた炎。そこには彼が命を失っても守り続けた子供と、その父親がいた。
    その視線は、どこか切なそうで、だけどとても愛しそうに見えるのはブラスカの錯覚だろうか。
    そんな親子はいつの間にか、どこから拾ってきたのか板と棒を手に、どちらが先に火を起こせるかの競争を始めていた。
    「おいアーロン!俺様の応援をしやがれ!」
    突然、こちらを向いてジェクトが声を上げる。二人してそちらを見れば、棒切れを持ったままずかずかとこちらへ歩いてきた。
    「アーロン煙管吸ってんの?へぇ、な~んかエロいじゃん」
    「あんたまで、何を言うんだ…」
    釣られて寄ってきた息子もアーロンを見下ろしながら笑った。
    「懐かしいな~!スピラでアーロン吸ってたよなそれ?」
    「ああ。リンに頼めば刻み煙草は気軽に手に入ったからな」
    そんな会話をしながら、ゆっくりとアーロンは煙を吐き出した。
    「なぁなぁ、それちょっと吸わせて?」
    「ジェクトが持つと博徒みたいになりそうだねぇ」
    ブラスカはルカやベベルなどの大都市の地下でひっそりと行われている賭博場を思い出さずにはいられなかった。
    ジェクトが手を伸ばし、無遠慮にアーロンから煙管を取り上げる。アーロンも慣れたもので、気にする様子もないところがこの二人の関係性を強く物語るような気がした。
    「へっ、カッケーじゃん!どう?どう?」
    気障に煙管を構えたジェクトが得意げに問いかけてくる。明らかに柄の悪い男にしか見えなかったが、元々の持ち主もお上品とはとてもではないが言えなかった。
    ブラスカは自分のガードたちが愉快だと、改めて思ってとても気分が良かった。
    「おいオヤジ、何まったりしてんだよ!逃げんのかよ!?勝負の続き忘れんなよな!」
    アーロンの隣に座り込み、煙管を吸い込もうとしていたジェクトを指差してティーダが捲し立てる。
    「ああ!?俺様が逃げるわけがねぇだろ!」
    すっくりと立ち上がったジェクトが、張り合うように声を荒げた。
    「全く子供だなお前らは…」
    そのやりとりにアーロンは額を押さえながら呟く。ジェクトから煙管を奪い返すと、大きく吸い込んでから煙を吐き出した。
    「魔法にばっか頼ってちゃ、サバイバルにならねぇんだよ!ってか、そう言ってスピラにきたばっかの俺に火おこしさせまくってたのおめぇじゃん!」
    「ああ、あんたが全く役に立たなかったからな。いつでも捨てていけるように、せめて最低限の野営の技は叩き込んでやろうと思ったんだ。野垂れ死なれても、後味が悪い」
    「ひっでぇな~」
    そんなやり取りをしてから、ジェクトはアーロンに立つように促した。
    「ほら、こっち来いよ。元僧兵サン、お手本の火起こし見せてちょーだい?」
    「全く、仕方が無い奴だな…」
    緩く煙が立ち上り続ける煙管を、側に置かれていたケースに備え付けられたスタンドに置いてアーロンはジェクトに連れ出されて行った。
    その様子をブラスカはじっくりと眺める。炎の赤い光に照らされる中、ジェクトを始め子供たちに囲まれているアーロンを見るのはすごく好きだった。
    死にゆく自分を必死に止めようと真っ青な顔をしたあの青年はもういないのだと思えるから。
    アーロンには、幸せになって欲しかった。悲しい別れを覚悟する必要のない世界で、ただ笑って欲しかったのだ。
    この瞬間ブラスカは、かつて願ったことが叶ったと思った。
    大事な家族と、仲間と、笑いが絶えない旅をすることができている。死へと向かう旅は終わりを告げて、本当の明日へと向かうための旅を共に生きていけるのだ、と。
    ゆっくりと微笑んでいると、娘が手を振りブラスカを呼んだ。小さく頷き、焚き火の方に向かいながらふと振り返る。
    すぐ隣でぽつんと取り残された煙管から立ち昇る煙とともに空を見上げれば、今宵は満月だった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏👏👏👏🇱🇴🇻🇪💘💖💖💴💴💴
    Let's send reactions!
    Replies from the creator