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    でぃる

    @d_i_l_l_

    オペラオムニアの世界で過ごすアーロンさんを書きたい小説置き場です。アップした順に読むのが良いと思います。ジェクアー要素ありはワンクッション。

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    でぃる

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    (2022/09/20)
    ジェクさんとブラ様の二人飲みをテーマに書きました。

    秘密会議アーロンが不在の夜のことである。夕食後、ブラスカとジェクトは部屋で酒を飲み交わしていた。
    「二人で飲むの、なんだか珍しい気がするね」
    「確かに、いつもは三人のことが多いかんな」
    ジェクトの部屋は彼らしく衣服などが乱雑に置かれており、殺風景なアーロンの部屋と同じ間取りなのにどこか違うように感じる。とはいえ、ブラスカの部屋も同じ間取りだが、そちらはそちらで本が大量に平積みされており、結局のところ三者バラバラの様相を呈していた。
    「アーロンはいつ戻ってくるんだっけ?」
    「明後日、じゃなかったっけか?まぁ素材が集まんなかったら延長もあるとか言ってたかも」
    自分たちの次の出撃の予定を考えつつ、ブラスカは当たり前のようにこの世界で予定を立てるという未来ありきの生活をしていることに気づいた。
    「すっかりこの世界が日常になってしまった」
    「確かにな。『シン』と一緒にガキどもに倒されて俺の命は終わったと思ってたのに、今も長く続いてんだもんな」
    旅の途中だろうが死んだ人間だろうが、この世界に呼ばれたものは同じように肉体を持ち、同じ時間を過ごしている。それがとても不思議で、だけどそばにいたかった人たちばかりだからこそ、皆その奇跡を噛み締めているのだと、ブラスカは感じていた。
    「わたしなんて、究極召喚を使ってそのまま君に体ごと引き裂かれたところから、いきなりこの世界だからねぇ」
    自分が持ちうる記憶をなんの気無しに話せば、ジェクトがバツが悪そうな顔をしながら俯いた。
    「あの時は…その…なんだ、俺は…」
    どう謝ったらいいのかわからないのだろう、仕方がなかったとはいえその手で自分を物理的に引き裂いた男は、あまりにも困った様子でグラスを握っている。
    「あはは、君のせいじゃないよ。究極召喚ってのは、そういうものなんだ」
    命と引き換えに究極召喚を使い、『シン』を倒す。発動の際どのような苦しみが訪れるかなど、ブラスカにはとっくに覚悟の上のものだった。
    ブラスカがそう言いながら笑いかければ、ジェクトが情けなくその男らしい濃い眉を下げ、仰々しいため息をついた。
    「ほんとよぉ、おめぇはスピラで誰よりも頭は切れたけど性悪召喚士だったぜ…」
    「褒め言葉として受け取っておこうかな」
    ジェクトもブリッツの頂点に立っていただけに、咄嗟の判断力と理解力には目を見張るものがあったのだ。そんな相手に認められているのは、悪い気はしない。
    だが、ブラスカが今話し合いたいのはそんなことではないのだった。
    「別にジェクト、君に嫌味を言いたいわけではなくてね」
    話したいのは、自分の記憶と周りの変化についててある。7歳だった小さな娘は立派で美しい女性として成長し、話の中でだけ知っていたジェクトの泣き虫の息子もまたこの世界では頼れるエースだ。そして、ベベルで可愛がっていた10歳年下の青年は、今や自分と同い年の渋い男となっていた。
    「気が付いたら10年後の、しかも異世界だったってことさ」
    「そりゃびっくりするよな…まぁでもおめぇはすげ〜適応してると思うけどよ」
    適応せざるを得なかったと言った方が正しい。むしろこの世界に連れてこられた人間は皆、この世界でできることを早々に見つけ、自分達の世界に戻るために努力をしているのだとブラスカは思う。
    「死ぬ間際は、異界に行くと思ってんだけどね。まだまだ、ゆっくりさせてもらえないようだ」
    「異界か…俺ァ未だにピンとこねぇんだよな。ザナルカンドにはそんなもんなかったからよ」
    「スピラの人間は異界で再会できると思ってるからこそ、死を恐れないところがあったから」
    「そこが納得出来ねぇんだよ。簡単に命を捨てさせるための、詭弁なんじゃねぇかなって」
    「おや、ジェクトにしては鋭いことを言うじゃないか」
    「俺様はいつでも鋭いっつーの」
    そう言ってジェクトは唇を尖らせた。図体ばかりはでかい癖にときに見せる子供のような態度は、あの旅の頃から寸分も変わらない。
    「まぁね…実際にこの目で異界を見ていないから断言はできないが…」
    ユウナから聞いた限り、グアドサラムの異界では自分と妻が一緒に現れたそうだ。それは、自分たちの異界での姿を表しているのだとブラスカは思っている。
    「妻には、会いたいよ」
    今も待たせているのだろうか、と思うと早く向かいたい気持ちにもなる。だが急いたところで早まるものでもないし、何よりこっちはこっちで娘がいるのだ。
    そんな夫としてと親としてのもどかしさに愛すべき家族との絆を感じ、微笑みながらそう断言したのだが、目の前の男は困ったような顔をするばかりだった。
    「おめぇんとこは、そうだな…」
    「君だって既婚者じゃないか、会いたくないのかい?」
    あの旅の途中、特に前半は事あるごとにザナルカンドへ帰り家族に会いたいと漏らしていた男のことを思い出す。
    「まぁそうなんだけどよ…なんつーか、合わせる顔がねぇっつーか」
    だがジェクトはあの頃の郷愁など全く感じさせない顔で、がりがりと頭を掻いた。これは相当に参っている時の、ジェクトの癖だとブラスカは知っている。
    「…君が、旅の果てにザナルカンドよりも、スピラを選んだことかい?」
    ジェクトは黙っていたが、それは肯定を意味していた。
    「わたしから言えることは、君のあの時の決断にはすごく感謝してるってことだけだ」
    果たして自分達の旅の結末が、正解だったのか、間違いだったのかはわからない。ブラスカとしては、結果として子供たちが成し遂げたことの礎を作り上げたという意味では正解だったと信じている。
    だけど、それでは割り切れない人が沢山いることもまた、よく分かっていた。
    綺麗事を並べたところで失った人は取り戻せないのだ。だからこそ、自分はジェクトに感謝していることだけは、誰にも邪魔されない真実だと断言したかった。
    「それに…あの時たとえ引き返していたとして、ザナルカンドに帰れたと思うかい?」
    「…わかんねぇ。探せば、あったのかもしれねぇ…でもよ、俺は…あの時、死んでも良いと思ったんだ」
    一口酒を含んでは、ジェクトはぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。アーロンがいる時とはまた違うジェクトの態度は、似たような立場の同い年の男にだけ見せる弱気なものだった。
    「お前らのためなら、命なんていくらでもくれてやれるって思った」
    ブラスカはジェクトが苦しそうに零すその言葉が嬉しかった。たった数ヶ月の旅の末、自分達のためにそう思ってくれたことが本当に嬉しかったのだ。
    「それに、ここで諦めちまったら、それこそ家族に合わせる顔がねぇとも、思ってた」
    ジェクトらしいプライドの高さを感じた。ジェクトのプライドは、それを裏付ける努力を持って、本物の実力へと昇華されているからこそ、ブラスカは好ましいと思ってきた。
    「だからティーダは今の君を認めて受け入れてくれてるんじゃないか」
    「そうだ、あいつは強い。前向きで真っ直ぐに育ってくれた…アーロンのおかげでもあると思ってるぜ」
    ブラスカはアーロンとティーダが一緒にいるところを思い出した。血は繋がってなくとも、そこには間違いなく家族の情があった。
    「でもよ、女房は違うんだ。俺が居なくなっただけで、死んじまうような女なんだよ…だから、見捨てたようなもんだろ…」
    その絞り出すような言葉に、ジェクトが家族を大切にしていたことを痛いほど感じた。しかしジェクトのせいではないのだ。海底の『シン』に自ら触れたとはいえ、それがなんなのか知らないジェクトは、ただ巻き込まれただけだった。
    「だがジェクト、全ては結果論だ」
    そもそも、自身がいなくなって妻が死ぬ、ということをジェクトが知っていたわけがない。ジェクトは妻と息子を残すことに対して覚悟したとはいえ、それが原因で死んでしまうとはこれっぽっちも考えていなかったのだ。
    だから、結果的にはそうなってしまったかもしれないが、妻の死はジェクトが仕組んだことでは決してないのである。
    「それに、仮に君がわたしたちの旅から抜けて、一人でザナルカンドを見つけ帰れたとしよう」
    ビサイドで究極召喚の秘密を明かした際、反対したジェクトと袂を分つかどうか口論になったことがあった。あのまま、本当に別れてしまったとしたら。
    アーロンが究極召喚となり、自分も何も知らないまま英雄気取りで死んでいたに違いない。
    「それで君は納得したかい?」
    「しねぇ…」
    「だろう?だから君は、あの時君が出来ることを精一杯やっただけじゃないか」
    そう微笑みかければ、ジェクトはふっと息を吐いて、弱ったような顔で笑った。この男のこういう顔は貴重で、自分とそれからアーロンにしか見せないのだろうと思った。
    「…ハハ、なっさけねぇな。あれだけ未練の話をして、派手にやり合ったってのに」
    度数の高い酒を喉を焼くように煽る。目元が少し赤くなっていたのは、酔いのせいなのかそれだけではないのか。もちろんそれをブラスカは聞くつもりもない。
    「君とその奥さんについては、あの時解決してなかっただけさ」
    「…そうだな、個人的な問題だと、思ってたんだと思う」
    家庭環境のことは、他人が口出しできないテリトリーのものであるのは確かだった。ましてやジェクトは、そういった問題を一人で解決しようとするタイプの男に間違いない。
    「それに…まぁここまで言っといてなんだが、心のどっかで異界なんざねぇと思ってんだろうな、俺は」
    「ない方が、良いってことかい?」
    「そうかもしんねぇ、この世界が終わったら全部終わりの方が、スッキリ出来るかもな」
    ジェクトは少しホッとした顔でそう言い終わってから、ブラスカを気遣うように付け足した。
    「まぁおめぇが、おめぇのカミさんと再会できるなら、それに越したこたぁねぇと思ってるぜ」
    「ありがとう」
    ブラスカはその優しさに、ただ笑顔で答える。
    「それに、この世界で終わりってのも…やっぱ寂しいよな」
    ブラスカのグラスが空になったタイミングで、ジェクトが無言で瓶を傾けてきた。
    「続きがあるなら、そっちの方が絶対楽しいってのはわかってる」
    元の世界で役目を終えたはずの自分達が、いまだに新しい記憶を紡いでいることの不思議さにはもう慣れた。慣れたからこそ、喪失を恐れ始めてしまうのは、生きていたいと望む人間故の欲だろう。
    だからこそ、この世界の在り方は少し残酷だとも、ブラスカは思っていた。だけど大事な人たちと、共に居られる喜びは何事にも変え難い。
    「それによ…もっと一緒に居たいって…思っちまうよな」
    目の前の男が息子と、それから共に旅をした相棒を思ってそれを言っているのだと思うと、ブラスカは満足げな気分になった。
    「それで良いんじゃないかい?」
    注がれた酒をありがたく飲み干してブラスカは言った。
    「異界がなかったらなかったで、この世界でわたしは成長した娘に会えたし、君も息子と旅が出来た」
    それはこの世界で起きた何よりの奇跡だろう。
    「それに、また三人で一緒に酒も飲めた」
    そして、禁酒を解いたジェクトと、それから同い年になったアーロンと、三人で穏やかに酒が飲み交わせるのもまた、ブラスカにとって想像だにしなかった未来だった。
    「それで満足だし、もし異界があるのなら…君は奥さんのところに帰らなきゃいいだけだ」
    そう言って微笑んでやれば、それはなんだかんだ優しい男のジェクトは思いつかなかった選択肢なのか、驚いたような顔をして、そして長いため息を吐いてから言った。
    「…ほんとおめぇって、そういうとこドライだよな」
    「大事なものだけ、手に入ればいいからね」
    「大事なものだけ、か…」
    「だから、アーロンを大事にして欲しいんだ」
    そうブラスカが言うと、ジェクトは盛大に酒を噴き出した。
    「な、おめぇ、いきなりなんだってんだ」
    「だって君やティーダと一緒に居ると幸せそうだ」
    「そうかねぇ…?そうだと良いんだけど、あんま自信ねぇわ」
    ジェクトの反応に、ブラスカは内心おや、と思った。自信たっぷりに肯定するとばかりに思っていたからだ。
    「そりゃまぁわがまま言いまくってるし、いつ愛想尽かされてもおかしくはないけど」
    「うう…」
    「はは、存分に反省しなさい」
    責めてやれば、ますます肩を丸めるあたりが、アーロンに対してどれだけ本気で大切にしているかを物語っているようだった。
    「君は一緒に居たいんだろう?」
    「そりゃな…やっぱあいつが相棒として一番しっくりくるわ」
    ジェクトはきっぱりと頷いた。ブラスカはただ、それが嬉しかった。
    「うん、わたしも君たちが末長く仲良くしてくれたら、嬉しい」
    そう言ってから、いつのまにか話題が歳下の仲間のことばかりになっていた旅の終盤のことを思い出した。あの頃から、自分達は何も変わっていない。
    「二人で飲んでるのに、ついアーロンの話になってしまうね」
    「あの旅の時もそうだったな。最後の方なんか、特によ」
    「なんだかんだ、わたしたちはアーロンが好きだから」
    真っ直ぐでお人好しの年下の青年が。今は見た目ばっかり大人になってしまったけれど、情の厚さはあの頃となんら変わりはしない。
    「ああ、そうだな」
    二人でしみじみ頷いて、改めて不在の男が恋しくなった。
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