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    ゆき📚

    ひっそりと文字書きしてる

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    ゆき📚

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    【sngk】【ジェリーフィッシュが解ける頃】Ⅱ
    続きました。現パロです。
    現世では感情豊かに生きていて欲しいという作者の願望がにじみ出ているのでキャラが崩れてる感あります。
    あとエレリと言っていながら今回はほぼハンジ&リヴァイがメインのような感じになってます。
    相変わらず諸々雑な感じですが
    大丈夫、どんなものでもどんとこい!な方よかったら読んでやってください

    ##sngk
    ##エレリ
    #現パロ
    parodyingTheReality

    【ジェリーフィッシュが解ける頃】Ⅱ 「えぇッ!?エレンに会ったの?」
     某月某日、とある大手企業会社の一室にてリヴァイは大声を出した相手に睨むような視線を向けながら耳を塞ぐ仕草をしてみせた。
     「うるせぇぞハンジ、ボリューム落とせ」
     「ごめんごめん」
     ハンジと呼ばれた女性は快活な笑みを見せながらそう言うと座っている椅子の背もたれにぐっと寄りかかるようにして普段使っている作業机からノートとペンを取り出した。
     「同じ地域にいたんだね。すごいじゃん」
     「あぁ」
     「元気そうだった?どこで見たの?」
     「エルドとペトラがやってるパン屋の前で雨宿りしてた」
     「そうなの?え?え?話しかけた?彼リヴァイの事―」
     「覚えてなかった」
     ハンジが言い切る前にリヴァイはそう言うともう一度「覚えていなかった」
     そう言って腿の上に乗せていた手をぎゅっと握りこんだ。
     「…そっか」
     しん―とした室内で悔しさにも似た気持ちだけが浮かんで沈む。
     「こればっかりはなんとも言えない。皆が皆”前世”の記憶を持ってるわけじゃないんだから」
     「あぁ、わかってる」

     前世―それはリヴァイ達が共通して持つ記憶の呼称である。
     今の時代とはまったく違う。その時代では街は高い壁に囲まれその壁の向こうには人間よりもはるかに大きな生き物で人間を喰う通称巨人が存在し、リヴァイ達は壁の中で生活する人々の為、そんな巨人と命を懸けて戦っていた。

     「まぁ私も前世の事は最初はやたらリアルな夢だなぁって感じだったからさ、もしもの話だけど記憶を夢として認識して見ている可能性もあるかもしれない。でもそれはあくまでも相手にとっては夢であって記憶じゃない」
     「俺は別にあいつに思い出して欲しいとか思っちゃいない」
     「………嘘つき」
     ハンジのじとっとした視線にリヴァイは目を合わせる事が出来ず黙ったまま
     「エレンとは言葉を交わしたの?」
     「少し」
     「どんな事?相手はどんな感じだった?ていうか今彼いくつなの?」
     「そんな事聞いてどうするんだ」
     「純粋な興味だよ。あとこうやって君がここに来たって事は少なからず私に相談したかったって事だろ?エルヴィンにはもう話したの?」
     「まだだ。あいつは今手伝いで入ってるプロジェクトが佳境に入っててそれが落ち着いたら話そうと思ってる」
     「たまにはここに顔出すように言ってよ。忙しいのはわかるけどここ来たら休めるよって」
     「ここは休憩室じゃねぇ」
     「あんたがそれを言うか」
     ハンジはそう言うとけらけらとひと笑いした後
     「で?エレンはこっちではいくつぐらいだった?子供?大人?」
     「たぶん、見た目は学生っぽかったがなんとも」
     「へぇ~また会いたい?」
     ハンジの問いかけにリヴァイは静かに目を閉じてすぅっと開くと
     「そりゃあな、でも」
     「でも?」
     「あいつの幸せが一番だ。そこに俺が必要無ければそれだけだ」
     まっすぐに床を見つめたままそう言い放ったリヴァイにハンジはペンで頭を掻きながら
     素直じゃないねぇまったくと心の中で呟いたのだった。
     
     *****

     ドアベルの音で向けられる視線を最初は素直に受け止める事ができなかった。
     「あっリヴァイさんッいらっしゃいませ」
     入ってきたリヴァイを見てレジで座っていたペトラは立ち上がって挨拶をした。
     「よぉ」
     「今日のお仕事は終わりですか?」
     「あぁ」
     答えながら店内を見れば他の客はおらずゆっくり見て回れるなとリヴァイはトレイとトングをそれぞれ手に持つ。
     「お疲れ様です。クロワッサンまだありますよ」
     「そうか、塩パンは?」
     「あ~ごめんなさい今日は売り切れです」
     「そうか、次の楽しみにしよう。この時間はほとんど売れてるな」
     「すいません、なるべく余らないようにって考えてるので」
     「もちろんだ。俺ももうちょっと早めにこれりゃいいんだが仕事終わりはどうしてもこのくらいになっちまう」
     「よく来てくれてありがたいです。今日もいっぱい買ってうちの店に貢献してください!」
     ペトラは冗談のつもりで言ったがリヴァイには通じず真面目に「もちろんだ」と返してきたので少し慌ててしまった。
     「あの、無理しない程度にというか好きなものだけ好きに買って頂いて」
     「?あぁ、いつもそうだが」
     急に慌てたように言ってきたペトラにリヴァイは首を傾げながらそう返した後パンへ視線を向けなおしてトングをカチカチと動かした。
     
     
     二年前―
     取引先から会社へ戻る道すがらリヴァイは同じく所用を済ませ会社へと戻ろうとしていたハンジと偶然街中で出会いそのまま二人で歩いている時にエルドとペトラを見かけた。
     最初に見つけたのはリヴァイで、彼はそのまま二人のもとへ駆け寄りすぐに声を掛けたが
     「すいませんどちらさまですか?」
     自分に対して他人を見るような視線を向け戸惑う様子の二人に当時のリヴァイはひどく動揺してしまい、ハンジがすかさず間に入り
     「ごめんね!彼の知り合いにすっごく似てる人がいてさ。私もびっくりしちゃった。いやぁホントにごめんッ」
     咄嗟の言い訳をハンジは述べながらひたすら平謝りして、その日はそのままハンジに腕を引っ張られるようにリヴァイは会社に戻るとハンジの仕事場へ投げ込まれるように入れられた。
     「皆が皆、記憶があるとは限らないって前に話しただろう。リヴァイ」
     ハンジの言葉にリヴァイはしばらく黙っていたがやがて絞り出すように
     「あいつらだったら覚えてるって思ったんだ」
     「願望を持つのは自由だよ。でも押し付けは―」
     「俺にとってあいつらの存在は大事だった。大きな存在だったッあいつらだって…そう、思ってくれていたと…記憶を持たないのは―」
     言いながらリヴァイは自分が随分と独りよがりな事を言っている事を自覚してそんな自分に対して自己嫌悪で気分が悪くなって顔を手のひらで覆うようにして拭うと静かに息を吐いた。
     「すまない、こんなの俺らしくないな」
     「前世と現世は違うものだよ。それが今の君だよリヴァイ。君はもう兵長じゃないし彼らは君同様命を懸けて戦う兵じゃない」
     「わかってる」
     「つもりでいるだけだ。リヴァイ」
     「ちゃんと!わかってる!」
     「医者のいう事は素直に聞けッこのクソガキ!」
     「ッてめぇはただの産業医だろ!」
     「なんだと!産業医舐めるなよッいざとなったら職権乱用で休職にしたっていいんだぞッ」
     胸倉を掴む勢いで二人はそこからぎゃーぎゃーと言い合いをした。実際はハンジがリヴァイの中にある鬱憤を含めた暗い感情を吐き出させようとした陽動で
     お互い散々言い合いをして疲れ切って、ハンジは床に膝をついてリヴァイは備え付けられている簡易ベッドに座ってそれぞれ黙り込んで休んでいた時
     「悪かった」
     ぼそりと聞こえたリヴァイの声にハンジは膝をついたまま顔を横に向けベッドのほうを見た。座ったまま自分の指先を握りこむように絡めて額に当てて俯いているリヴァイの姿を見てハンジはゆっくりと立ち上がるとよろよろと彼の隣に行き少し間を開けて座ればシーツのこすれる小さな音が聞こえた。
     「仲間を思う気持ちは昔っから強かったのは知ってる。だからこそ嫌われ役のような事だってしてきてた事も、そんな事なかなかできない。あんたはすごいよ」
     「見返りが欲しいんじゃないんだ。これは自分勝手な衝動だ」
     「人間なんて皆わがままで身勝手だよ」
     「そんなテンプレみたいな言い訳今更いらねぇ」
     「あはは。まぁさ、前世と比べれば今私達が生きているこの時代は充分なほどに自由だよ。それ以上何かを望むっていうなら相手を思いやらなければそれはただの暴力だ。この世界でそれはご法度だ」
     「…暴力で解決できねぇとは俺の不得手とする所だな」
     彼なりのジョークだとすぐに気づいたハンジはくすっと笑ってあげるとリヴァイの背中をポンと優しく叩くようにしてそのまま手を当てながら
     「寂しかったね、兵長」
     静かになった室内でスーツのズボンに一粒の雫が落ちた。
     

     「お買い上げありがとうございます」
     人好かれする笑顔で購入したパンを入れた紙袋を渡してくれるペトラを見ながら、リヴァイは思い出していた過去の続きをぼんやりと頭の中で流していた。
     結局、ハンジが言ったようにあの頃のリヴァイは前世の記憶に対して自身の事は腑に落ちていたがそれが“他人”となるとうまく折り合いがつけられずそのあたりの精神面の不安定さを安定させる為にハンジの元へ何度か通って簡易的なカウンセリングを受ける事になった。
     カウンセリングと言ってもハンジと決まった時間に話をしたりするだけで、そんなルーティンを過ごして一年が経った頃たまたま入ったパン屋でエルドとペトラに再会したリヴァイは改めて二人に謝罪をしたのだった。
     一年ぶりに出会った二人はあの時の出来事は忘れていなかったがやはり前世の事は何も覚えていない様子で、されど謝るリヴァイに対してどうかそんなに気にしないで欲しいと許し、受け入れてくれた。
     「ありがとうな」
     「いいえ、こちらこそ」
     にこっと笑顔を見せてそう答えたペトラにリヴァイもうっすらと笑みを浮かべていると奥の厨房から自分を呼ぶ声が聞こえたので顔を向ける。
     「リヴァイさん」
     「おぉエルド、元気にしてるか」
     「おかげさまで。いつもありがとうございます」
     「お前の作るパンは食べ飽きない」
     「そう言ってもらえるとブランジェとして嬉しい事はないです」
     エルドはそう言うとレジへとやってきてリヴァイに「これ」と長方形の小包を差し出した。
     「なんだ?」
     「余った生地が出たらおやつ代わりに作ったりするんです。中身はグリッシーニと言ってちょっと硬めの棒状のパンなんですけどよかったら食べてみませんか?」
     「ほぉ…いただくよ。いくらだ?」
     「サービスです。リヴァイさん良く買いに来てくれるんで特別です」
     そう言ってウィンクをして見せるエルドにリヴァイはあの頃だったらこんな表情見れなかったかもなと思いながら胸に広がりそうな寂しさを静かに撫でて差し出された小包をありがたく受け取った。
     「ありがとうな、大事に食べるよ」
     「まかないみたいなもんなんで口に合うかどうかわかりませんけど」
     「いや、お前の作るもんはなんでも美味しいよ…」
     リヴァイはそう言うと二人に短く挨拶を済まし店を出て行った。
     扉が閉まり、ドアベルの音が空気に馴染んで消えた頃―
     「リヴァイさんなんだか寂しそうな顔してたなぁ」
     「たまにするよな。俺達にそっくりって言ってた人達の事思い出すのかもしれないな」
     「私とお兄ちゃんにそっくりな人かぁ、どんな人だったんだろうね」
     「気になるからって余計な首つっこむなよ。きっと、大切な人だったんだ」
     
    *****
     
     「今一番会いたい人って誰かいる?」
     数回目のカウンセリングの時、不意にそう聞かれリヴァイは昼食として食べていたおにぎりを咀嚼しながらとある人物を思い浮かべた。
     顔に出ていたらしく「いるんだね。まぁ予想はつくけど」とハンジは言うとコンビニで買ってきた紙パック入りコーヒーをストローから勢いよく吸い込む。
     「わかってんなら聞くな」
     「あくまで予想だよ。正解は君が持ってる。答えてくれる?」
     「ヤダ」
     「あっそ、まぁ言わなくてもいいんだけどさ。いい事思いついたんだ」
     「いい事?」
     言いながら怪訝そうな視線を向けるリヴァイに「そんな顔しないの」とハンジは言いながら手に持っている紙パックを意味も無く揺らした。
     「シュレディンガーの猫って知ってるかい?」
     「シュレディンガーの猫…箱に猫入れたまま開けなきゃ生きてるってやつか?」
     「すげーざっくりだけどまぁそんな感じのやつ」
     「それがどうした?」
     「やってみないか?」
     「……おまえ…お前にそんな嗜好があったなんて」
     ハンジは最初リヴァイが顔を青くさせながら何を言ってるんだ?とわからなかったがしばらくして自分が本当に猫を箱に閉じ込めてしまおうとしているのかもしれないと相手のリヴァイが思っているのだと理解して慌てて「違うッ違うから!」と必死に否定した。
     「そんなかわいそうな事するか!生き物は大切に!」
     「そうか」
     心底安心したように胸を撫で下ろすリヴァイに「だいたい私がそんな事すると思っているのかッ」とハンジが言えば
     「なくはねぇかもしれないと一瞬思っちまった」
     「ひでぇな。するわけねぇだろ」
     ハンジはそう言い放つと話の本筋を戻した。
     「君の気持ちを安定させる為の軽い作業?っていうか、SNSやってみない?」
     「SNS?」
     「そう、SNSっていうのはスマホやパソコンを通して不特定多数が見れる媒体だろう?君が発信したものをもしかしたら君が会いたいと願う人が見ているかもしれない」
     「……それで?そいつを探そうって言うのか?」
     「違う違う。言ったろ?あくまで君の気持ちを安定させる為だって、投稿する際に考えるんだ。これは俺からあいつへ向けてのメッセージだって、そうやって何かしら発信する。君の思い人がいつか目にするかもしれないし、しないかもしれない」
     「なるほど、それでシュレディンガーの猫の話か」
     ハンジの言葉にそう返しながらもリヴァイは不信さを隠さずハンジも自身で提案しながらも乗り気には見えないリヴァイに苦笑した。
     「やりたくないなら断ってくれて全然構わない。あくまで提案のひとつってだけだから」
     そう言って残りのコーヒーを飲み切ろうとストローを咥えて飲んでいると
     「そうか…」
     どこを見るでもなく視線を流していたリヴァイはぼそりと呟いて
     三日後ハンジはリヴァイからミンスタを始めた。という報告を受けたのだった。
     
    *****
     
     雨の日から五日後の某日午後二十時三十分
     いつもよりも仕事の終わりが遅くなってしまったリヴァイはスマホで時間を確認した後、夕飯は何にしようかとぼんやり考えていた。
     今日はもう適当に作って早めに寝るか
     そんな風に思いながらふとスマホの画面にあるアプリボタンを押しミンスタを立ち上げる。
     始める際にリヴァイは自分の中で誰もフォローはしないと決めていた。また自分へのフォローは申請制に設定して、来たとしても断るようにしていた。
     不特定多数が見るものでありながらその大多数の中にいるかもしれない人物ただひとりを想い写真を投稿する。
     ハンジの提案から約一年、リヴァイはそれを一日も欠かさずやってきた。 
     傍から見れば不毛とも言えるだろうその行為は、されどいつの間にかリヴァイの支えの様にもなってきており、投稿した写真につく他人が見たという反応を示す星形のタップボタンがついているとほんの少しだけリヴァイの心はざわついた。
     もしかしたらあいつがつけてくれたのかもしれない。
     今やそう思えるだけでもいいのだと考え始めていた矢先、想い人と思わぬ形で出会った。
     リヴァイは自分の投稿した写真のとある一枚を眺めながら
     「欲が出ちまったな」
     ぼそりと呟いてアプリを閉じるとスマホをスーツの内ポケットにしまって歩き出そうとした時だった。
     「見つけたッ!」
     よく響く声が耳に届き、なんだ?と思って振り向いてみれば
     「ッ!」
     「やっと、見つけた」
     息切れの合間にそう言って自分の腕を掴んできた人物を確認してリヴァイは驚きで一瞬固まった。
     「な、んで」
     そこにはあの雨の日に出会った男―エレン・イェーガーの姿があった。
     なんでエレンがここに―
     自分を見つめる大きな瞳を見返す事しかできずリヴァイはただただ驚きの中黙っていると
     「探してたんです。ずっと」
     探してた?まさか、記憶が
     リヴァイはそう思って相手の名を呼ぼうとした寸前
     「あんたでしょ?Lって」
     「…………は?」
     「ミンスタの、投稿者Lって貴方の事でしょう?」
     そう問われしばし間を開けて質問の意味を理解したリヴァイは、別の意味で驚き「あぁッ!?」と思わずな声を上げた。
     「お、おま、見てたのか?」
     「はい、この間上げてたクロワッサンの写真で確信したんです」
     「…シュ、シュレディンガー、の猫が」
     「はい?」
     何言ってるんだ?と首を傾げるエレンを見ながらリヴァイは混乱しそうになる、いやもうなり始めている脳内と気持ちを一旦落ち着けようと「ちょっと待ってくれ」と相手の面前にタイムを申し出るように手のひらを見せると顔を伏せて、深く呼吸を何度か繰り返した。
     幾分気持ちが落ち着いたような気がし心の中でよしッと気合を入れるとゆっくりと顔を上げて改めて相手を見れば
     「—————ッ」

     あぁ、エレン
     間違いなくお前だ。
     リヴァイは心の中で呟きながら懐かしさのような愛おしさも感じながら目の前にいるエレンの姿を見ていれば
     
     「あの良かったら名前教えてくれませんか?オレはエレンって言います」
     自分に対して純粋にそう聞いてきたエレンの言葉はうっすらとリヴァイに影を落として
     「……手を離してくれないか。地味に痛いんだが」
     リヴァイがそう言うとエレンはずっと腕を掴んだままの状態だったとそこで気づいて「すいません」と慌てた様子で腕から手を離した。
     「痛かったですよね。すいません、見つけた瞬間咄嗟に掴んじゃって」
     「大丈夫だ」
     そう答えながら猪突猛進な所は若いあの頃と同じだなとリヴァイは思いふっと小さく息をこぼした。
     「あの」
     「なんだ?」
     「名前、聞かせてもらっても?」
     改めてエレンからそう聞かれリヴァイは一度口を開きかけたがその口を閉じて
     「ヤダ」
     「………はい?」
     「悪いが教えるつもりは無い、知りたきゃてめぇでどうにかしろ」
     「はぁッ!?」
     リヴァイはそう言うとエレンに背中を向け、いち社会人とは思えぬ走りでエレンから逃げた。
     「ッ!?ちょ、待って―」
     そんなリヴァイの行動に驚いたエレンだったがすぐに自分もそこから走って後を追いかけた。
     
     
     スタートダッシュが良かった分リヴァイは身を隠すように路地に入るとスマホを取り出して電話を掛けた。
     コールが何度か鳴った後
     『ハーイ、リヴァイどうしたぁ?』
     「ハンジか、すまない今いいか」
     『いいけど、何?今どこにいんの?』
     「仕事帰りにエレンに会った」
     『あら、二度目の遭遇』
     「向こうから声を掛けられたんだ。あいつは俺のミンスタを見てた」
     『へぇ~!?まじッ!?すごいじゃーん』
     電話の向こうで興奮するハンジの声にリヴァイはスマホを耳から遠ざける。
     騒ぎが収まった頃合を見計らって耳をくっつけると
     『で?エレンとの再会と自分のSNSを知ってたという事を知らせる為にわざわざ電話してきたの?』
     「逃げた」
     『なに?』
     「エレンから逃げちまった」
     『なんでだよッ!?』
     キーンと耳の奥が響く感覚にリヴァイは「うっせーな」と叫び返した。
     『何してんの?せっかく記憶が無くても相手があんたのミンスタ見て知ってて出会えたってのに』
     「だからだよ。なんか、あれだよ…テンパったんだよ」
     『人類最強の男が何言ってんだよ』
     「昔の話だろう。今は一般社会人として真面目に働くただの人間だ」
     『こんな時だけそんな風に言っちゃって』
     呆れたというようにため息を出したハンジにリヴァイは額を覆うように手のひらを当てる。
     「一気にいろんな感情が出てきたんだよ。ずっと更新してきてもしかしたらという思いもあったが、思うだけで満たされている部分があったんだ。同じ街にいるってわかっただけでよかったと思ったのも本音だ。でも少しだけ欲を出したのも自分だ。でもな、でもだ。淡い、淡いものだったんだよ。そんな淡いものがいきなり現実という重みを乗せて目の前に突き出されて、でもあいつは何も覚えてなくて、あいつ俺に言ったんだ。名前を教えてくれって、それ聞いたらなんか、なんかわかんねぇけど素直に教えたくなくて」
     『すげー喋るな。それだけテンパってるのわかるわ。ウケる』
     「真面目に聞けよ!」
     『聞いてるよ。何?エレンに名前教えなかったの?』
     「そうだ」
     『どうすんのよ』
     「どうするって」
     『もしかしたらまた会うかもしれないよ。もう可能性は0じゃない。三度目の正直って事もあるかも。その時は教えるの?』
     「……いや、教えねぇ」
     『その意地の張り方はどういう意味が?』
     「そのまんまだ。癪なんだよ。なんかあれだよ。一周まわってこうなったらぎりぎりまであいつに名前教えたくなくなってきた!こうなったら意地でもエレンに名前教えたくねぇな!」
     『なんじゃ、そ「じゃあ、こっちも意地になって聞き出しますよ」
     ハンジの声に被るように聞こえた声にリヴァイは背中がぞわりとする感覚にゆっくりと眼球だけ動かして見てみれば
     「―ッぉ」
     うす暗い路地でも自分をじっと見つめる視線の強さがわかってリヴァイは静かに「また、掛けなおす」と言うと耳に当てていたスマホを離して通話を切った。
     「足早いんすね、でもオレも結構自身あるんです。かくれんぼも久しぶりにやりました。楽しいもんですね」
     そう言って再び腕を掴んできたエレンにリヴァイはその手を見た後エレンの顔を見る。
     「せっかくなんで、二人でゆっくり話したいんですけど」
     どこか遠くで車のクラクションが鳴るのが無意識に耳の中に入り込んできて人々がまだまだ活動して街が眠っていないのだと、今の状況に無意味な情報を脳内で更新しながらリヴァイはぐっと顎を引いた。
     「…条件がある。俺の名前を探るのは止めろ」
     「教えてくれるんですか?」
     「いいや、何も使わず自分の力でたどり着け」
     それぐらい、わがままを言ったってかまやしないだろう。とリヴァイは誰に言うでもなく言い訳を心の中で呟いて
     「夕飯食ってねぇなら奢ってやろう。そこで話をしようじゃないか」
     リヴァイの提案にエレンはしばらく黙ったまま何かを考えている様子だったが、
     「その提案受けましょう。ただし店に到着するまで腕は掴んだままでいます」
     「随分と信用がねぇな」
     「前歴がありますから」
     「しかたねぇな」
     リヴァイは諦めたようにそう呟いて、自分を掴んで離さない手を往時を懐かしむような視線でしばらく眺めたのだった。
     
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