【ジェリーフィッシュが解ける頃】Ⅷ 「約束です。どんな形でもいいから守ってくださいね」
そう言って笑ったあいつは結局俺を置いていった。
初めからわかっていた結末なのに変わる事無く迎えたその事実に心はひどく冷え込んだ。
みんなそうだと思って
その考えは違うとすぐに否定し
誰を責めればいいと思って
誰を責める事などできない事だと言い聞かす。
「約束ですよ」
どうして俺を置いていく、置いて行かないでくれ
*******
「あれ?リヴァイさん?」
自分の名前を呼ぶ声に顔を横に向ければ見慣れた人物と目が合って「やっぱりリヴァイさんだ」と改めて確認すると笑顔を向けてきた。
「おぉペトラじゃないか」
「どうしたんですか?あ、待ち合わせですか?」
パン屋から離れた場所にある銅像の台座に寄りかかるようにしてぼんやりと立っていたリヴァイに予想をぶつけるペトラにリヴァイはどう答えようかと思ったが「まぁな」と軽い嘘をついてしまった。
内心すまないと謝りながら「お前はどうした?」と聞き返せば
「今からDVDを受け取りに行きます」
「DVD?」
「はい、推しのDVDです!」
そう言ってぐっとガッツポーズをして見せるペトラに「あぁ」と納得の声を出しながら
「そういうのは、通販とかで頼んだりしないのか?」
「頼みましたよ。でもショップ受け取りのも頼んだので」
「違うものなのか?」
「いや同じものです」
「同じ物なのにふたつ買うのか?」
通販と店で?
リヴァイがわからないという表情を見せているとペトラはそういう反応慣れてますよというような慈愛のようなのっぺりとした笑みを見せて
「推しの為であり自分の為です」
「そうか、まぁそれは楽しみだな」
そう答えればペトラはきょとんとしたような表情を見せたので、どうかしたのだろうかとリヴァイは思っていると
「私、リヴァイさんのそういう所好きですよ」
「は?」
「よくわからなくても当人が好きなものなんだっていう事わかって否定しないとこ、人って自分がわかんなかったり理解できない事って否定しがちな人多いんで、でもリヴァイさんはそういうのなくて、そういう価値観というか、うん。なんか素敵だなって」
そう言った後ペトラは不意に恥ずかしくなって「他意は無いので!」と言い切ればリヴァイは思わず吹き出した。
「すいません急に」
「いやありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ」
「ていうか待ち合わせの所に私がいたらお邪魔ですよね」
「いや、大丈夫だ…本当はなさっきまで知り合いと話しててその事で考え事してたんだ」
嘘ついてすまないと小さく謝って地面に視線を落としたその表情がどこか寂しそうで、このままひとりにしたら近づく夜に溶けてそのまま消えてしまうのではないかと一瞬思ってしまう程
「悩み事ですか?」
ぽろりと無意識に出た言葉にペトラはしまったと思って「すいません、プライベートな事」
「いや、なんというか。そうだな」
どう言ったらいいのかうまい言葉が見つからず言葉と視線が逡巡する。
「……なぁペトラ、ちょっと変な事聞いてもいいか」
「?なんでしょう」
「お前にとって嫌な質問かもしれないが、お前のその推しっていうのがある日突然いなくなったらとか、考えた事あるか?」
その質問にペトラは「いなくなる…そうですねぇ」と考えうように目線を空へと向けながらしばし黙って
「まぁ休止宣言された時は正直ショックで、あぁもうこのままこの人達の音楽は聞けないんじゃないかって思ったりもしましたね。でもいつか戻ってくるって言ってたんで」
「その言葉を信じてたのか?」
「えぇ、好きな人が言った言葉ですから」
「本当にそうなるのか確証は無い言葉でも?」
「えぇ、やっぱ好きでしたしその気持ちに変わりは無かったしこんな風になるなら最初から出会わなきゃよかったとか思わなかったですよ。だって出会ったからこそ私の人生はとても美しく楽しく彩ったものになってたんですから」
そう言ってはにかむペトラの言葉にリヴァイはまぶしい気持ちが自分の中に入り込むような感覚になった。
「失うかもしれないと思って二の足踏むような人生は楽しくない。って推しの歌の中でそういう歌詞があるんですけどめっちゃいい曲なんですよ」
「……人生を楽しんでもいいんだろうか」
リヴァイからこぼれるように出た言葉にペトラは静かに息を吸って
「もちろんですよ!だってリヴァイさんの人生はリヴァイさんのものでしょう。楽しく生きなきゃッ私はリヴァイさんにたくさん楽しい事がある人生を歩んでほしいって思いますよ!」
ペトラの言葉に必死な表情に、自然と鼻の奥がツンとするような感覚に悟られたくなくて顔をそむけてしまった。
「あ、すいません。でしゃばった事を」
「いいや、俺こそ急に変な質問をしてすまなかった。せっかくの楽しみを先延ばしにさせてしまったな」
「いいえ、そんな事」
そう言ってふるふると首を振ってみせるペトラに微笑めば、相手も静かな笑みを見せて
「それじゃあ私、行きますね。リヴァイさんも夜は冷えちゃいますからお気をつけて」
「ありがとな、お前も気を付けろよ」
リヴァイの言葉にぺこっと頭を下げて去っていく彼女の背中を見つめながら、不意に自分のほうへと振り向いたのでどうかしたのかと思っていると
「また明日ッ!」
そう言ってぶんぶんと上げた手を振るペトラにリヴァイもぎこちないながらも手を振り返せば満足したように再び背を向けて歩き出したペトラの姿に
「ありがとう」
静かにそう囁いてリヴァイは静かに目を閉じた。
*****
某月某日、午後八時―
エレンは自分の部屋のベッドに横になって何をするでもなく天井をぼんやり見つめていた。
リヴァイの家を訪れた日から今日で五日目―
相手からは何の連絡も無く、自分から電話をかけてみようかと思ったが寸前の所で止めて
感情のままにしてしまった行為と相手の表情を思い出せば正直悶々とした感情が自分の中に渦巻いてエレンはその度に頭をぶんぶんと振って
このまま連絡も何も無かったら
そんな事を考えて行きつけのパン屋へ行こうと思ったが、なんとなくそれもダメなような気がして足は遠のき
「何やってんだろうなぁ…」
こんなに自分の部屋の天井を眺めた日は無いぞと思いながら盛大にため息をついた後枕元に置いていたスマートフォンが着信を知らせる音を鳴らしたので手を伸ばして表示を見れば
「ッ!!」
そこに表示された名前にエレンは飛び起きるように半身を起こして電話を取った。
「も、もしもし」
『もしもしエレンか?』
耳元に聞こえた声に心臓が大きく跳ねるのがわかった。
「ひゃ、はい」
突然の事に緊張してしまい無意識にベッドの上で正座になって
『今電話大丈夫か?』
「大丈夫ですッ全然」
『今どこにいる?』
「家です」
『ひとりか?』
「はい」
『そうか、元気してるか?』
「はい、リヴァイさんは?」
『まぁそれなりに』
「そうですか」
そこまで話して会話が途切れてしまい何か話を続けなくてはとエレンは考えて
「久しぶりですね、いつ電話くれるかなって思ってたんです」
そう言った後、これじゃあまるであの日からずっと続きを楽しみにしてましたと言ってるようなものじゃないかと思い慌てていると
『待っていてくれたのか?』
そう聞かれたのでエレンは素直に「はい」と答えると電話の向こうで静かに息を吸う音が聞こえた。
『今日電話したのは、その、今度の日曜日に一緒に出掛けられないかと思って』
「日曜日、ですか?」
『あぁちょっと時間的に早い時間になってしまうんだが』
「大丈夫ですよ」
『おい、まだ何をするかも言ってないだろう。話を聞いてから』
「貴方と会えるならなんでもいいです」
『………』
エレンの言葉にびっくりしたように息を呑む空気を感じてエレンは恥ずかしい事をまた言ってしまったと顔を赤くした。
「すいません、話を遮ってしまって聞かせてください」
『あ、あぁ…その日曜日の朝方にちょっとドライブに付き合ってもらえたらと思って』
「ドライブ?リヴァイさん車持ってるんですか?」
『いやレンタカーだ。免許は持ってる』
「どこに行くんですか?」
『それは、言わないが朝のかなり早い時間にでかける』
「何時頃ですか?」
『朝の五時だ』
「はやッ」
思わず出た素直は言葉に『だろう』と言って小さく笑う息にエレンも自然と口角が上がる。
「でも、大丈夫ですッ。えっとどっかで待ち合わせとか?」
『お前の家の近くまで迎えに行けたらと思ってるんだが』
「え、そんな」
『お前が迷惑じゃなければ』
「全然!迷惑とか無いです」
『それじゃあ住所教えてくれるか?日曜日の五時にそっちに行けるようにする』
リヴァイの言葉にエレンは電話先で住所を伝えれば向こうはそれをメモしているのかゆっくりと繰り返しながら確認する声を聞いて
『当日近くについたら連絡する』
「わかりました」
『寝坊するなよ』
「気を付けますッ」
そう答えると小さく笑う声の後『それじゃあ』
「あ、あの」
電話を切ってしまいそうな雰囲気だったので思わずそう言って声をかけしまい
『なんだ?』
向こうの問いかけにエレンは何か、何か話題は無いかと探したがすぐには出てこず
『何もないなら切るぞ』
「あ、あの楽しみにしてますッ!」
勢いよくそう言えば向こうはしばし黙った後
『俺もだ、おやすみ』
そう言って切れてしまった電話にエレンは静かにスマートフォンを耳から話すとベッドに倒れ込んで枕を抱きかかえてうぉぉぉぉと唸るように叫びながらごろごろと左右に転がった。
*****
「おはよう」
「おはようございますッ」
真っ赤な軽自動車を背に立っている人物がスーツではない姿にエレンはそういえば私服を見るのは初めてだなと思った。
意外とカジュアルな服着るんだな、なんて思いながら「私服初めて見ました」
「あ?あぁ、そういえばそうか」
言われて相手も気が付いたという風に返して
「お前は毎日私服だもんな」
「変わり映えしませんよね」
「そんな事ねぇよ似合ってる」
そう言って静かに微笑むリヴァイに思わずどきんと心臓が跳ねるのがわかってエレンは無意識に心臓に手を当てた。
「さっそくだがでかけるぞ」
「どこに行くんですか?」
エレンの問いかけにリヴァイは助手席の扉を開けると
「到着するまで内緒だ」
適当に流しているラジオから聞いた事の無いしっとりとした音楽が雑音と絡んで車内に静かに響いている。
出発してからニ十分程、行き先をいくら聞いてもリヴァイは答えてくれずしかしそのおかげで会話が続いていたのだがあまりしつこく聞いても気まずくなってしまうと塩梅を見て黙ったきり互いの会話は自然と無くなってしまった。
窓越しに見える外はまだ暗く、街灯の明かりが目に眩しい。
前を走っている車が赤信号で止まり自分達が乗っている車も静かにその後方へと停止する。前車の左ウィンカーがリズムよく光るのを見ているとふと瞼が重くなってきてエレンはやばいと思いながら姿勢を正すように体をもぞもぞと動かした。
「トイレか?」
「は?違います」
「そうか、でも一応この先にコンビニがあるから寄るぞ」
「何か買うんですか?」
「飲み物とトイレ」
「あとどのくらいです?」
そう聞いた後信号が青に変わり静かに車が前進する。
「こっからだともう三十分かかるかかからないかぐらいか」
「そうですか」
うーん、まだ暗いっていうのもあるけどあまり見慣れない場所だから時間聞いても目的地が予想できないな
エレンがそう思っているとリヴァイが「飽きたか?」
「いえ、今目的地の予想をしてました」
「ほぉ、どうだ。わかったか?」
「全然です」
そう言って盛大にため息をついてみせるエレンにリヴァイは口角を上げる。
「ヒント何かくださいよ」
「そうだな……」
そう言って黙ってしまったリヴァイにエレンはどうしたんだろうと視線を向ける。
真剣なまなざしでハンドルを握り運転している横顔が街灯の光で時折オレンジ色に光って過ぎれば暗さに沈む。
「約束した場所へ行く」
「はい?」
約束?約束ってなんだ?
エレンはリヴァイと何か約束を交わしただろうかと思いながら記憶をひっくり返してみたがどうにも思いつかず
隣で思考をぐるぐると巡らせている様子が手に取るようにわかるエレンにリヴァイは寂し気な笑みを浮かべながら右のウィンカーを光らせた。
*****
「ここですか?目的地」
車を停止しギアをパーキングにしサイドブレーキを入れたリヴァイにエレンが聞けば「あぁ」と短い肯定を返したのでエレンは見える限りの辺りを見渡してみたが
「……どこですか?」
「外に出るぞ」
そう言ってエンジンを切って車から出たリヴァイに追いかけるようにエレンも慌ててシートベルトを外して外に出た。
その瞬間、耳にざぶんという音とかすかな潮の香りがしその方向に顔を向けて
「海?」
「そうだ」
ぱっと自分の体に当たった光の元を追えばリヴァイが懐中電灯を片手に持って離れた場所から自分を照らしており
「目的地は海ですか?」
「あぁ、そうだ」
「約束って」
エレンの問いかけにリヴァイはエレンに近づいてそのまま通り過ぎると数歩進んだ所で止まって振り返り
「こっちだ」
そう言って背中を向けて歩き出したリヴァイにエレンは追いかけるようにその後ろをついて行けばざぶんという音が耳に届く。
潮の香りがだんだんと強くく感じる中コンクリートの堤防が現れリヴァイは自分の肩辺りまである堤防の壁の上に懐中電灯と荷物を乗せると勢いをつけてその上にひょいっと登った。
「お前も来い」
置いた懐中電灯を手に持ち直し足元を照らすリヴァイにエレンも勢いをつけると壁に足をかけ「よっ」とリヴァイの隣へと登った。
その瞬間、より直接的に海の音と香りそして風を感じエレンはすーっと息を吸い込んでみた。
「寒くないか」
「大丈夫です」
荷物を挟んでお互い海に向かって座るとリヴァイはコンビニで買ったペットボトルのホットコーヒーを一本エレンに手渡した。
「ありがとうございます」
「日の出はもう少しだ」
「日の出を見る為にここに来たんですか?」
「そうだ」
「またどうして…それが約束ってやつですか?」
「いや、日の出は単純に俺が見たいと思っただけだ」
なんだそりゃとエレンは内心思いながら点けっぱなしの懐中電灯の明かりだけが光る中でリヴァイの姿を確認する。
まっすぐに海の方向へ顔を向けて何を考えているのか
「ここはな、街灯がまったくない場所で日の出を見るのにちょうどいいと思ったんだ」
「探したんですか?」
「前に友人がこういう場所があるという話をしていたのを思い出してな」
「へぇ」
「つまらないかもしれないが今日一日付き合ってくれ」
「それは全然構いませんけど」
自分の返事に静かに微笑んだように見えたが確信が持てず、心許ない明るさに隣にいるその存在が儚く感じた。
リヴァイは時間を確認すると「あともう少しだ。明かり消すぞ」
そう言って懐中電灯の明かりを消せば朝の時間帯だというのに真っ暗で
ざぶん、ざぶん、という音が耳にしっかりと響いた。
「夜明け前が一番暗いんだ」
そう告げるとエレンの戸惑った声が聞こえリヴァイはもう一度同じ文言を口にした。
「夜明け前が一番暗い、聞いた事あるか?」
「いえ」
「そうか」
会話は終わってしまい静かではないがとても静かな時が流れた。
何も見えず行き来する波音だけの世界にリヴァイは目を閉じればその世界は真っ暗で、ゆっくり開けると変わらない景色に自分だけがそこにいるような気持ちになって背中が震えた。
「エレン」
名前を呼んだが返事が無くリヴァイは隣を見れば真っ暗で何も見えず
「エレン」
「わ、どうしました」
手を伸ばせば当たった感触と声にリヴァイは安心して息をはく
「リヴァイさん?」
「すまない…お前がいないかと思って」
そう言って腕だろう場所に触れていた手を静かに離す。
「ちゃんとここにいますよ」
「あぁ」
そうだなと言おうとしたがうまく声に出せず、リヴァイは唇をぐっと一度噛む。
「リヴァイさん?大丈夫ですか」
「エレン、聞いてほしい事があるんだ」
「なんですか?」
「これは、オレの勝手な願いだがどうか聞いてほしい……俺はお前の隣に居場所が欲しい」
リヴァイはそう言うと静かに息を吸って
「隣にいてくれるだけでいいんだ。ただそれだけでいい、それだけでいいから」
「隣に?」
聞こえた声に「あぁ」と見えないけれどうなずいて
「それ以上は何も望まない、ただお前の隣の居場所が欲しい」
どうかお願いだという思いを込めてぎゅっと目を閉じて返事を待っていると
「……嫌です」
聞こえた言葉に頭から海水がかかったように体から温度が去っていくような感覚
あぁ、結局
こうしてまた自分は置いて行かれる―
そんな風にリヴァイが思っていた時だった。
「傍にいるだけなんてオレは耐えられない」
そんな言葉が聞こえて自分の名前が呼ばれたかと思うと腕に何かがあたりその感触がするりと下がって自分の指をぎゅっと握りしめてきたのでびっくりしてリヴァイは体を震わした。
「この間言った事忘れたんですか?オレ、次に貴方に会う時はそういうつもりがあるんだって気持ちで会いますって言ったの」
「それは―」
「オレ、期待してました。でもがっつく程ガキじゃないし無理強いなんてもってのほかですし、でもオレリヴァイさんにその、触りたい。それは今だけじゃなくてたぶんずっと」
「お前、いざそういう事になったらたぶん萎えるぞ」
「なんでそう言えるんですか」
「だって俺はお前よりひと回り以上年上で男で」
「触れたいという思いに関係無いと思いますけど」
「俺はッお前に拒絶されたら…耐えられない…」
尻すぼみに伝えられた言葉にエレンは握りしめた手を自分の口元に引き寄せて指にキスを落とした。
「ッお前今」
「オレ、貴方が好きですよ」
急に言われた言葉にリヴァイは驚いて固まった。
「オレもリヴァイさんの傍にいたい。でもそれだけじゃなくてオレは貴方に触れたい、それに恋人になりたい。オレを貴方の恋人にしてくださいリヴァイさん」
エレンはそう言って願うようにリヴァイの名前を呼んだが反応が無く
波音がより一層大きく響いた後、それが合図だというように真っ暗だった空間が青白くなっていき
不意にその時は訪れたかのようにエレンの目に相手の姿が浮かび上がるように見えてきて
それはリヴァイも一緒でまるで何かが解けるように真っ暗な世界から見えたエレンの姿に、心臓がきゅっと締め付けられるような感覚に指先を震わした。
「オレはここにいますよ、リヴァイさん」
そう言って微笑むエレンの姿にリヴァイは唇を噛み締めて目から流れる涙を止める事ができず
「いてくれ…エレン、一緒にいたい………好きだ、ずっと」
自分を抱きしめてくれる腕にリヴァイは素直に縋りついて静かに泣き続ける間エレンはずっと背中に手を当てたまま
気持ちが落ち着いた頃リヴァイはエレンの腕の中からするりと抜け出すと「すまない」と小さく謝って
「いえ、貴方が泣き虫なの知ってますから」
少しいじわるく笑って見せながら言ったエレンに「そんなんじゃねぇ」とリヴァイは悪態をつきながら鼻をすすり、水平線から姿を現し始めた太陽の光に目を向けた。
「すごい、空がこんなに朱くなって」
そう言って眩しそうに目を細めながら「久しぶりに海を見たような気がします」
静かに言ったエレンの言葉にリヴァイは「そうか」と懐かしむように目を細めて海を見つめると
「随分と時間がかかったが約束守ったぞ」
「今、なんか言いました?」
エレンの問いかけにリヴァイは顔を見て静かに微笑むとゆっくり首を振って
「何も」
「そうですか…あ、所で約束ってなんなんですか?いい加減教えてください」
そう言って自分にずいっと迫るエレンにリヴァイはふ、と息をこぼした後片手で額を押さえるようにして静かに笑って
「そうだな……夢の話だよ」
お前にとってはそんな話、だけどそれいい。
「あの日、ずっと遠い、昔の話だ」
そう言って朝日を見つめる瞳は太陽の輝きを優しく受け止め、還すように美しく彩りを見せていた―
.......End