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    ゆき📚

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    ゆき📚

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    【ロ兄術】《六十パーセントの沸点》
    推しに会話させるのが好き!雰囲気小説七虎です。
    とある日に高専の休憩室で虎君の無邪気な質問から
    七が無自覚に虎との距離を詰めて動揺させてしまう、みたいな話です。
    二人がキス〇ークだ、えっ〇だ、せっ〇すだと言ってたりします。
    大丈夫、どんなものでもどんとこい!な方よかったら読んでやってください

    ##JJKS
    ##七虎

    六十パーセントの沸点 それは静かな空気をぶち壊すには充分な程に破壊力を持つ言葉だった。
     「ナナミン、キスマークってどうやったらつけれんの?」


     【六十パーセントの沸点】


     事の始まりは数日前に関わった任務について報告も兼ねての諸々を済ました七海建人は帰る前にコーヒーでも、と休憩スペースにて自販機で缶コーヒーを買い、ソファに座ってプルタブに指をかけた瞬間自分を見つけた虎杖悠仁が隣に座って聞いてほしい事があると昨日見たというドラマの感想を勝手に話し始めた事から

     「二話まで見てさおもしれー展開だなって思ったんだけどそっからなんか単調になってきてさ、いや単調っていうか下がり気味っていうか、ちょっと期待してた分がっかりしちゃってさぁ」
     「そうですか、それで誰でもいいので愚痴を言いたくなって丁度よく、ここに居た私に話してきたと」
     「ナナミン、ドラマとか見んの?」
     「特に興味はないですね」
     「そっかぁ」
     そこからふと互いに何を言うでもなく静かな時間が流れた。
     どこに行くでもなく隣に座ったままの虎杖をちらりと見ればまっすぐに前に視線を向けたまま
     七海は缶コーヒーに口をつける。これを飲み切ったら帰ろう。そんな事を思いながら口の中に入れた液体をごくりと飲み込んだ後
     「ナナミン、キスマークってどうやったらつけれんの?」
     「………は?」
     いきなりの問いかけに七海は一瞬何を言われたのか理解ができなかった。正確には言われた言葉を理解するのにタイムラグが発生しその間に無意識に口から「今なんと?」するりとこぼれた。
     「いやさ、」自分の頬を人差し指の爪先でかきながら虎杖は「キスマークだよ、ほら首とかにつける赤い痕」
     「いやそれは知ってますけど」
     「つけた事ある?」
     何無邪気に聞いてきてんだ。
     七海は口に出さなかっただけえらいと自分で褒めた後いや口に出したほうがよかったのでは?と考え直しながら
     「なんで貴方にそんな事聞かれて答えなきゃいけないんですか?」
     「えーちょっとぐらい教えてくれてもいいじゃんかぁ」
     不満げに唇を尖らせる虎杖の姿に「君ね、自分がどういう事を聞いているのかちゃんと理解してるんですか?」
     「はいッキスマークの付け方を知りたいなって思って知ってそうなナナミンに聞いていますッ」
     「元気よく答えれば大丈夫だと思ってるんですか」
     「え~ダメなのぉ?」
     ダメに決まってるだろう、七海はそんな思いごと纏めたため息をふーっと吐き出す。
     「何故そんな事を知りたいと思ったかは知りませんが」
     「ドラマ見てたら出てきたんだ、それで気になって」
     「虎杖君」
     「なに?」
     きょとんとした表情で自分を見る虎杖に七海は一度目を閉じてゆっくりと頭の中で言葉を選んでいく
     「………今の君が、そういう事に興味を持つというのはごく自然な事のひとつです。質問するのもまぁ…気になったならしょうが無いでしょう。ただ誰も彼もに聞くような質問ではありません」
     「うん、さすがに同級生とかに聞くのは気まずいもん」
     「まぁ、そのあたりはわかっていると思って、次にそういった行為に及ぶ事は非常にデリケートな事であって」
     「…それってエッチの事言ってんの?」
     最近の子はこうもあけすけなのだろうかなのだろうか、七海は思わず自分の眉間を指で挟んだ。
     顔を伏せたまま黙ってしまった七海を見て虎杖はハッと何かに気がついたような顔をした後
     「ッ、もしかして、ナナミン、童――」
     「んな訳ないでしょう、ひっぱたきますよ」
     顔を上げて即座に否定した後に何を必死になってるんだろうと七海は思ったが虎杖は別段気にするでもなく「だよなー」と笑顔で受け流し、ソファに深く座りなおすと
     「俺さぁ、たぶん?だけど好きな子できてもそういう事するのって今後無いに等しいと思うんだよね」
     さらりと告げられたその言葉に七海は静かに息を呑んだ。
     今自分の目の前にいる少年の背負っているものの存在を思い出し表情が思わず曇る。
     「でもさぁドラマとか見ててなんとなく自分を投影してみたりして?好きな子とかできてさぁ、手つないだり?キスしちゃったり?んでその先考えたりとか、まぁ俺も一応健全なひとりの男子だし?」
     楽しげに話すそれが、彼にとっては現実的に叶える事が出来ない事なのだと、それを彼自身が理解している…いや、理解しようと納得しようとしている最中なのかもしれない。
     自分だって十代の頃からいわゆる”普通”と分類されるような高校生活とはかけ離れた生活を送ってきた。
     「ナナミン?どうかした?」
     「いえ…」
     自分は果たして彼の気持ちを理解できるのだろうか
     そんな事を考える事自体、己の浅ましさが出ているのではないか
     また黙ってしまった七海に虎杖は首を傾げた後「やっぱこういう話って大っぴらにするもんじゃないよな」そう言ってにこりと笑顔を見せた後「ごめん」
     そう謝って足を延ばしてぶんと上下に振るような仕草をする虎杖の手を七海は気がつくと掴んでいた。
     「なに――?」
     少し面食らった虎杖の顔を見ながら七海は虎杖の手をきゅうっと優しく握りしめてみる指先に感じたざらつきに視線を落とせば所々にできた傷が痕になっていて
     それは今まで彼が闘ってきた故の――
     七海はそこまで考えて奥歯を噛みしめる。
     彼はまだ子供だ、こんな手は子供の手であっていいわけないじゃないか


     自分の手を握ったまま何も言わない七海に虎杖はどうしたんだろうと戸惑いそわそわしてしまう。もしかして自分が言った事が七海を本気で怒らしてしまったのではないだろうか、そんな風に思って謝ろうとした瞬間「虎杖君」
     「はいッ」
     不意に名前を呼ばれ勢いよく返事をすれば七海の口元がふっと緩むのがわかりそれに気づいた虎杖はホッとした。
     「まずは正しい知識をきちんと学ぶことです」
     「正しい知識?」
     何の事だろうと虎杖は首を傾げた後、さっきの会話の続きかと気がついて傾げた首を元に戻すと七海の顔をじっと見た。
     「そして相手を尊重し大事にするという事を絶対に忘れてはいけません」
     「相手を尊重する」
     大事な事を覚える様に繰り返す虎杖に七海は片手に持っていた缶コーヒーをテーブルの上に置くともう片方――虎杖の手を握ったままの手の角度を変えると親指で相手の手の甲をするりとさすった。
     「セックスはいわばお互いの共同作業です」
     七海の言葉に虎杖はなんか言い方が大人だなッと自分の頬が熱くなるのがわかった。
     「一方的な行いは自慰と変わりません、最低な行為ですよ」
     「な、なんかナナミンはすごく相手の事大事にするんだね…?」
     「しますよ、だって」七海は空いている手をすっと伸ばして虎杖の頬を包むように手のひらを当てた後するりと滑らすように耳たぶを指先でやんわりと挟んで
     「互いに互いを高めていくのは実に気持ちがいい」
     「……ぅ、ワァァァァー!!!!」
     顔を真っ赤にして大声で叫び立ち上がった虎杖に七海もさすがに驚いてぱちぱちとまばたきをした後しまったと心の中で呟いた。
     「いたど、」
     「ご、ごめんッいきなり大声出しちゃって、お、俺耳弱くってさ、急に、触られて…び、びっくりしちゃった」
     しどろもどろになりながら顔の熱が引かないままに慌てふためく虎杖に七海も静かに焦っていた。
     「すいません、知らなかったとはいえ」
     「へっ、い、いや全然ッ全然平気なんだけど、なんか、その、その」
     口をぱくぱくとさせて何か言いたげに視線を彷徨わせる虎杖の様子に七海は落ち着くまで待っていると
     「……ナナミンってやっぱ大人なんだね、ドキドキしちゃった」
     そう言って恥じらうように視線を合わせず床に落とす虎杖にガラス窓から差し込んだ陽の光が照らす、赤い頬が余計に強調され七海は自分の身に降ってきた衝動に缶コーヒーを掴むとぐいっと一気に飲み込んだ。
     「ナナミン?」
     苦い液体が一気に舌を通過し喉から食道へと通っていく感覚に集中する。
     「すいません虎杖君、私この後予定が入っているのをすっかり忘れていました」
     「え?あ、あぁそうなんだ」
     「えぇそうです。という事で申し訳ありませんがこれで」
     「引き留めちゃってごめんね」
     「いえ、忘れていた私が悪いんですから」
     そう言って空になったコーヒー缶をゴミ箱に捨てると七海は「それじゃあ」
     「うん、あッナナミンあのさ」
     「はい」
     「その、ありがとう。真面目に答えてくれて、嬉しかった」
     にこりとまだ照れが見える笑みでそう伝えてきた虎杖に七海の心臓がきゅっと締め付けられる。
     返す言葉が見つからず結局小さく頭を下げてその場を去った七海の脳内に虎杖の言葉が反芻される。
     『真面目に答えてくれて』
     そんな風に言えるあの子の純真さにあてられた、いやそれは言い訳だ。あの子は何も悪くない。守るべき存在に一瞬でもよこしまな感情を見せてしまった。あてたのは自分のほうだ。
     ベタな嘘を口にしたのはいつぶりだろう、人の気配の無い廊下で七海は立ち止まり自分の手のひらを見る。
     指先に残る感触に七海は、己を戒めるようにぎゅっと指先を握りこむ。感じた指先の温度に赤く染まった頬の色合いを思い出して七海はしばらく廊下に立ち尽くした。

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