ふと目が覚めて、重い瞼を持ち上げる。
カーテンの隙間からはまだ朝日が差し込む様子はない。
まだ起きる時間じゃないな、と掛け布団を引き上げたところで、いつもの感触と違っていることに気づいた。
眠気が纏わりつく頭でぼんやりと考え、数秒かけて、昨日は庶民の舞踏会のあと、エドモンドの部屋に泊まったことを思い出した。
そして次に、隣で眠っていたはずのベッドの主がいないことに気づく。目を擦りながら起き上がると、部屋の隅で卓上の小さな明かりを頼りに身支度をしているエドモンドがこちらに気がついた。
「すまない、起こしてしまったか?」
いつもの騎士の服装に身を包み、髪を括っていたエドモンドがベッドに近づいてくる。
「いや。……まだずいぶん早いけど、もう出るのか?」
「ああ。君はまだ眠っていて構わない。メイドに君のことは頼んであるから、ゆっくり起きて朝食を摂っていってくれ。同席できなくてすまない」
「サンキュー。騎士団って忙しいんだな。昨日は無理させちゃったかな?」
「き、昨日のことは私が言い出したんだからいいんだ……、ゴホン、それに、私はそんなにやわな鍛え方はしていない!」
部屋は暗くて相手の表情もよく見えないくらいなのだが、エドモンドが頬を染めて視線を彷徨わせる様まで、気配だけでエイトにははっきりと見て取れたような気がした。
そりゃそうだ、と笑うと、エドモンドがふっと肩の力を抜いた。
「君は慣れないことで気を張って疲れただろう。起こさないようにそっと出ていくつもりだったのだが……」
「そんな寂しいこと言うなって、いってらっしゃいくらい言わせろよ。俺が副団長殿に言うのも変だけど、気をつけてな」
「……、ああ、ありがとう」
ニコリと笑いかけて部屋を出るまで見送ろうと思ったものの、忘れかけていた眠気がどっと押し寄せてきた。思わず大きな欠伸が出る。
「ふぁ……、エドモンドの言う通り、自分で思ってるより疲れたかも……まだ眠いわ」
ぼすんとベッドに倒れこんで枕に頭を預けると、ふわりとエドモンドの匂いがした。
エドモンドが捲れた掛け布団を掛け直してくれる。子供みたいだと思ったが、慣れない手で世話を焼いてくれるのが妙に心地よくて、エイトはそのまま目を閉じる。
「まだ夜明けには時間がある。おやすみ」
目を閉じた途端に眠りに落ちていく刹那、穏やかな声と、唇に温かい感触。
(気持ちいい……)
すぐにエイトは静かに寝息を立て始める。その顔を僅かの間見つめていたエドモンドがそっと扉を閉める音は聞こえなかった。