ステージの中央に立っている自分の姿、というものがどうにも想像できなかった。一方通行のところへ押しかけたあの日だって、何もない自分にできることは何かを教えてもらうために必死だったくせに、本質的な手応えはまるで掴めなかった。パフォーマンスの向上よりも自分の自信のなさを打ち消したくて、藁にもすがるような思いで死にものぐるいで練習に打ち込んだ日々だった。
それが、どうだ。ステージに立った瞬間、それまでの悩みが全て霧散してしまった。
音楽が鳴ったら歌って踊る。それがとても楽しくて、無我夢中で、気付いたときには十数分の持ち時間はあっという間に過ぎていたのだった。
同じ気持ちだったのだろう、終始笑顔で飛び跳ねていたインデックスが先にステージから捌けていくのを、数メートル後ろで見守るようについて歩く上条が客席を振り返る。たったそれだけで、客席は再び熱狂の歓声に包まれた。声だけじゃない、会場の空気がびりびりと震えるのを肌で感じながら、上条は自分が何もわかっていなかったのだなと思った。
舞台に降り注ぐ照明の光がこんなに熱いこと。
眩しい光の中にいるはずなのに、客席の人々が振ってくれるサイリウムのオレンジ色の光のほうが輝いて見えること。
何も知らなかった。何も知らない自分のことを、期待して応援してくれる人がこんなにたくさんいたことも、知らなかった。
許されるなら、このステージにずっと立っていたいと思った。期待してくれる人がいるなら応えたいと、そう願って始めた活動のはずなのに、たとえ誰にも期待されなくてもこの場所に立ち続けていたいと自分自身が願ってしまう。
マイクの電源はすでに切られていたので、今の自分が出せる全てを使う気持ちで声を張り上げた。叫んだ感謝の言葉が観客に届いたか上条にはわからなかったが、いまだ止まない歓声の全てを両耳でしっかりと聞いていた。
時間を押して辿り着いた舞台袖、待ち構えるスタッフの奥で壁にもたれかかる一方通行と真っ先に目が合った。
いつもなら目が合えばすぐ立ち去ってしまう一方通行が、じっと動かず目を逸らさないでいてくれるのは、おそらく自分を待っているのだろう。ステージが終わったときから、いや、もしかしたらステージの最中からずっと。
お疲れさま、よかったよ、と労ってくれる言葉に笑顔で応えながら、狭い通路をもがきながら進む。そうしてようやく一方通行の前まで辿り着けた上条に、一方通行は無言でペットボトルを差し出した。正直言ってかなりありがたい。思いきり傾けて喉を鳴らせば、中身のほとんどを飲み干してしまっていた。
「初めてのステージにしては上出来だったンじゃねェの」
「……あは、そう、かな? 教えてもらったリフはできたけど、途中訳わかんなくなってたかも、」
「そンなのはいいだろ」
興奮しきりで早口になる上条の言葉を一方通行が容赦なく遮る。水分補給で体の火照りはいくらかましになったが、アドレナリンが駆け巡る感覚はすぐには引いてはくれない。一方通行の次の言葉を待つために口を噤み、じっと顔を見る。上条を真っ直ぐ見つめる一方通行の目は、ギラつくアイドルの瞳をしていた。
「で? ステージからの眺めの感想は?」
「……そりゃもう、最ッ高!!」