文武両道、品行方正、おまけに容姿端麗の才色兼備。絵に描いたような優等生で全校生徒のみならず教師陣にも絶大な人気と信用を得ていながら、自身の人気を鼻にかける素振りすら見せずに穏やかな微笑みを浮かべる、我が校自慢の生徒会長は。
放課後の生徒会室でまったく違う顔を見せることを、俺だけが知っている。
「はー涼し……ほんと、この季節だけは生徒会入って良かったって思うんだよなあ」
「普段やりたくもねェ仕事を嫌な顔ひとつしねェで引き受けてやってンだ、これくらい当然の権利だろォが」
「いや、うん、お前に言われちゃあ俺なんかは何も言えなくなると言いますか……」
完全無欠な生徒会長、一方通行。いい子ちゃんの外面を捨て去り、生徒会室に俺しかいないのをいいことに、不遜な態度を隠しもせず言い放つ。言い方はともかく、普段の一方通行が抱えている業務量を側で見ている俺としてもほぼ同意見なので、誤魔化すように相槌を打つしかない。曖昧な返事しかできない俺には目もくれず、一方通行は書類にペンを走らせ続けている。その小気味よい音を聞きながら、そっと一方通行の横顔を盗み見た。
今時の学校ならどの教室にもエアコンは完備しているが、エアコンと扇風機が両方備えられているのは校内で唯一、生徒会室だけである。とはいえここにある扇風機はどこかの空いた部室から調達してきた年代モノで、外で鳴きわめく蝉たちも驚いて逃げ出すほどの羽音を立て続けているオーパーツなのだが。
じりじりと照りつける夏の日差しがようやく傾く頃。西からの日差しは蒸し暑さが残っているだろうグラウンドに、校舎の中に容赦なく突き刺さる。もちろんこの、ふたりきりの生徒会室も例外ではない。
「悪い、ブラインド下ろしていいか?西日がきつくて」
「どォぞご勝手に」
立ち上がったこちらを見ずにひらひらと揺らすその手を、一方通行の細くて白い手首ごと咄嗟に掴んできつく握っていた。わざわざ声をかけるのに無理がある拙い建前だと自覚しているのに、何も知らない振りをされるのが悔しかったからだ。
「言いてェことがあンならさっさと言えよ」
側で見下ろす俺の右手を振り払おうともせず、一方通行は目線だけ上げて睨みつける。傾いた陽の光が直線的に差し込む窓を背にして座る、一方通行の瞳のほうがギラギラ光って眩しかった。その鋭い眼光に覚えがある気がするのは、こうして生徒会室で過ごす時間が長くなったからだろうか。ーーそれだけじゃない気もするけれど、今重要なのはそこではないので割愛しておこう。
「うん、やっぱ俺、こっちのお前もすげー好き」
噛み締めるように呟いて、左手を一方通行の頬に添える。一方通行は拒まない。黙って俺の手のひらに頬を寄せ、すり、とわずかに頬擦りをする。許しが出たのをしっかり目視で確認してからキスをした。歓喜に震える右手を誤魔化すようにそっと離し、恋人繋ぎになるよう改めて握り直す。一方通行は拒まずに、俺の手をゆっくり握り返す。
触れ合うばかりの唇が息を吸うために離れた隙間に「変なヤツ」と呟く一方通行が愛しくて、そうかも、と笑いながらもう一度キスをした。あんなにうるさかった扇風機の羽音が、いつからだろう、気にならなくなっていた。