目が合って、数秒。胸倉に掴みかかる勢いで詰め寄られ、そのまま引きずられるように連れ込まれたラブホテルの一室で。後ろ手で扉の鍵をかけてからの一方通行はしおらしかった。道中の勢いはどこへやら、まさに借りてきた猫というような具合で大人しく、キスひとつも上手にねだることもできず、黙って見つめてくるばかり。とはいえ見つめた先の上条は正常に思春期を迎えている男子高校生なので、好きな人に熱っぽく見つめられればそれだけで十分興奮してしまうわけで。
つまり、非常に盛り上がったのである。
早急に部屋に踏み入ったときとは真逆に、ベッドの上でぼんやりと微睡む一方通行は、白い体を白いシーツの上に投げ出したまま起き上がらない。普段なら上条よりも先に起き上がり帰り支度を始めるはずなのにおかしいな、と上条が顔を覗き込むと、一方通行がそれはそれは穏やかな顔をして瞼を閉じていたので、慌てて肩を叩き体を揺すりながら声をかける。
「あの、一方通行さーん……?」
「……ねむ」
「ちょーっと待ったぁ!まだ寝るな!そろそろ、その、時間!」
「……あー……なンだっけ、延長?とか宿泊?ってヤツ、切替できねェの」
「え、た、ぶん、できる、けど」
「ン……じゃあ、それ、しとけ……MC、上着のポケット……」
「え、あの一方通行さん……?あっ、こら!おーい、くっそもう寝てる!?」
仕方なくフロントに電話すると「なんで最初から宿泊にしないんですか?」と嫌味を言われたものの、宿泊自体は問題ないらしく、手続きはすんなり行うことができた。既にすう、すう、と規則正しいリズムで寝息が聞こえる一方通行の元へ戻り布団をかけ直す。いつも張り詰めた表情ばかり見ているせいか、穏やかな寝顔は普段より若く、むしろ幼い子どものようにさえ見えた。右手でそっと頬に触れると一瞬だけ眉を顰め深く息を吐く。ぐっすり眠っているようだ。疲労が祟ったのか、よほど信頼されているのか。喜んでいいのかわからないが、信頼することもされることも、悪いことではないと上条は思う。
いつまでも寝顔を見ていたいが、さすがに時間は有限だし、と時計を見やる。更新されたチェックアウトの時刻まで半日近く残されていた。
「……え、ってことは、このままお泊まり……ですか?」
初めてのお泊まりデートは既に始まっていたのだった。