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    たぶん男性向け以外はこちらに。予定は未定。

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    上一/大学生パロ?/よく喋るモブ女子注意

    金曜、22時、大学から近い繁華街の半個室居酒屋。学生たちの喧騒が最高潮に達する頃、上条が合流した卓もそれなりの盛り上がりを見せていた。悪友との飲み会だと思って到着した店のテーブルには、すでに空になったグラスがいくつかと、気持ちばかりの料理が残された大皿。男数名と、同じ数の女子それぞれが対面するように着席していて、上条の席を空けて待っていたのだ。実際に見るのは初めてだったがよく知っている構図を前にして、悪友である土御門のニヤケ面を引っ張りながら上条が囁く。

    「なあ、おい土御門! これってもしかしなくても完全に」
    「そう! まさに合コンだにゃー」
    「そうだよなあそうだよなあ!? お前、久しぶりに飲もうって言ってたじゃん! 合コンなんて一言も聞いてないんですけど!」
    「女の子が来ないとも言ってないんだぜい。でもまあ、いいだろ上やん? どうせ彼女いないんだし、今日くらい遊んで行けって」
    「いやまあ、彼女はいない、っていうかでも俺、その、好きな人がーー」
    「え〜♡そうなんだぁ♡その話聞きた〜い♡」

    会話を遮ったのは上条の席の対面に座っていた女子だった。白いブラウスが間接照明の淡い光に照らされて少し眩しい。上条が到着する前から出来上がっていたようで、にこにこ愛嬌を振り撒きながら、割とセンシティブな話題にも容赦なく踏み込んでくる。隣の席の女子も似たようなもので、楽しげに話しかけてくるその顔には明らかに「興味本位」と書かれていた。

    「なになに? 何の話〜?」
    「聞こえちゃったんだけど、上条くん、好きなひといるんだって〜♡かわい〜♡」
    「え、あっ、はい……」
    「なんで敬語なの〜?同い年じゃん♡緊張しなくていいよ〜♡」
    「ええ……? いや、はは……」
    「あは、上条くん声ちっちゃ〜い♡全然聞こえないしそっち行っちゃおーかな♡」

    その場の野郎達は酔っ払った女子たちのハイテンションな恋バナモードに完全に気圧されていた。女子たちのうちのひとりが席替えしよ!と宣言したのをきっかけに、上条は押しかけてきた女子たちに両脇をがっちり固められ逃げ道を塞がれている。気付くと注文していないはずのウーロンハイが目の前に置かれ、飲めや話せやと無言で催促されていた。何だこれ、状況の変化に全くついていけない。せめて間に立ってくれないか、と土御門に助けを求めようとちらりと視線を送ったが、余った男たちと一緒に奥のソファ席へ押し込まれた彼の目はサングラスの奥で泣いていた。あまりに寂しげに肩を落とす姿に、口から出かかった言葉は行き場をなくしてしまった。

    「ねーえ、上条くんが好きな人ってどんな人〜?」
    「どんな……って、言われても、説明はちょっと、難しい、です、けど……」

    散々泳いで泳ぎ疲れた目を伏せると、結露で濡れたウーロンハイと、自分の手のひらだけが目に映る。気まずい感覚が張り付いて、顔を上げるのを躊躇ってしまった。どうしたものかと思案を巡らせるが、とは言っても退路は既に絶たれていて、ここから無傷で帰宅できる気もしない。ええいままよ、ここまで来て、どちらにしても素面では帰れない。目の前のグラスに口をつけて、ウーロンハイと一緒に抱えていた居た堪れなさを一気に流し込む。グラスの半分ほど飲み干して、アルコールのせいという大義名分も得た。もう、どうにでもなれ、だ。

    「見た感じどんな系〜?」
    「えと、見た目はけっこう綺麗系、というか、かっこいい……?」
    「え〜いいじゃん♡同じ大学の人?学部は?」
    「それが、よく知らなくて……知り合ったきっかけも、偶然……?みたいな感じだったし」
    「すごいね〜♡運命じゃん♡その人のこと、どこが好きなん?」
    「どこ、だろう……文句もすごい言うけどいつも頑張ってて、俺じゃ敵わないところ、いっぱいあって、すごい尊敬、してて……」
    「それさ〜、上条くん既にその人のことめっちゃ好きじゃん♡早く告白しちゃえ〜?♡」
    「いやでも、ほんと、絶対俺の片思いで、全然意識とかされてない、から……俺なんか全然、釣り合うとも思えないのに……俺ばっかり、こんな……」

    情けない。誰が聞いてもそう思うはずだ。だって、改めて言葉にすると否が応でも現実を直視させられる。
    素性さえ碌に知らない相手に、片想いとは。そんなの恋の始まりですらなく、恋に恋する憧れのような、名前もつかない程度の何かではないか。義務教育中の女の子が言うなら夢見がちで可愛らしくも見えるだろうが、大学生の男が同じことを言っても痛々しさが強調されるだけだと、当事者である自分でもそう思う。自信なさげに「俺なんて」とネガティブなことまで言い出すのも、情けなさに拍車をかけていて最悪だ。
    押し黙ったタイミングで、半個室の扉の向こうが騒がしいことに気が付いた。ひとりふたりのものではない、ざわめきの合間に店員のものであろう、「お客様」「困ります」の声。明らかに近付いて来る喧騒に、もしかしてタチの悪い客が暴れでもしているんだろうか、などと考え始めたちょうどその時、勢いよく半個室の引き戸が開いた。

    「……チッ、手間かけさせやがって」
    「はあっ、はぁっ、お、お客様ぁ……っ、困りますよぉ……!」
    「あ、くせら、? お前なん、でぇっ!?」

    言葉を続けるよりも先に息が詰まる。部屋の入り口を振り返った上条の胸ぐらを、一歩踏み込んだ一方通行が掴んで引き上げたからだ。一方通行の肩越しに、半泣きの店員が胸を撫で下ろして帰っていくのが見えた。開け放たれた扉の向こうの様子を伺うに、どうやら入店してからこの部屋に辿り着くまでの全ての席の扉を開けてきたのだろう。合流前に土御門から送られてきたメッセージには、「店の一番奥の部屋」と書かれていたような気がするが、もはや記憶は朧げなので何も言うまい。

    「あ、の……一方通行、さん?」

    掴みかかってきた一方通行は何も言わず、上条の瞳をまっすぐ見つめていた。間接的に照らされた薄暗い店内で、見下ろす一方通行の表情はよくわからなかった。覗き込むように首を傾げると、一方通行の細い腕がもう一度強い力で引き上げる。頭が揺れ、衝撃に思わず目を閉じるが、すぐに目を開けることになったのは、きつく一文字に結んだ唇に熱くて柔らかいものが触れたからだ。
    噛み付くようなキスだった。作法がわからずまごつく間に、酸欠になって開いた唇を割って一方通行の舌が入り込んできたのには驚いた。他人の舌って、こんなに熱くてぬるぬるとして、こんなに気持ちいいものなのかと初めて知った。思わず引っ込められた上条の舌が、許さないと言いたげな一方通行が吸い上げて絡め取られ、さすがに悲鳴混じりの吐息が漏れる。それを聞いた一方通行が鼻で笑うのがわかって、息苦しさと恥ずかしさも相まって頭が真っ白になる。押し返そうと舌が触れ合うだけでぞくぞくした。ぷちゅ、と音を立てて離れた唇は、息を吸い終わる前に角度を変えて追いかけてくる。経験値の少ない上条にとって、まさしく暴力的なキスだった。
    苦し紛れに一方通行の肩を押すと、ようやく唇が解放された。ぼやけた視界の中、一方通行の表情は相変わらずわからなかったが、薄明かりのもとでてらてらと光る一方通行の唇が妙に艶めかしかった。肩で息を整える上条に、いわゆるファーストキスがあっさり奪われたことに気付く余裕はなかった。

    「帰ンぞ」
    「は……、はいッ!!」

    投げつけるように告げて先に踵を返す一方通行と、運動部の男子学生さながらキレのある返事をして上条が続けて部屋を後にする。極めて気まずい沈黙が流れる部屋で、真っ先に空気を割ったのは、一番最初に上条に話かけてきた白いブラウスの女子の、「上条くん、片想いって言ってたけど絶対両想いじゃん〜♡」その一言だった。
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