家族になるんだ! アオ高を卒業してから入学した大学ももうあと半年ちょっとで卒業する。
なにをするにも学生生活最後の……なんて言葉がついて回る、そんな学生最後の夏休み。
といっても八月末に行われるインカレを前に練習三昧な夏休みだ。
大会前丸々休める最後のオフは、お盆でもあるから僕も美里くんも、それぞれの家に帰省……しようとしていた。
しかし、実家からきたメッセージは、まず美里くんの家にいき、仏壇に手を合わせたら、そのままふたりで僕の実家にくるように、ということだった。
実家につくと、
「翔太郎くん、りょうちゃん、おかえりー!」
と、うちの家族の間から当たり前のように咲子さんの声がした。
「さこちゃん、またお邪魔してたのか……」
ちょっと、あきれたような美里くんの呟き。
美里くんの叔母さん、咲子さんは、僕の実家によく遊びにきているらしい。
すっかり亜由美が懐いていて、時には遊びにつれていってもらったりしてるんだとか……。
そんなふたつの家族が混ざって、僕たちも多少のお酒だって飲める年だから、ビールを片手に、わいのわいのとお母さんのつくった餃子なんかをつまむ夕飯時。
「明日はうちと美里さんちのお墓参りにいくから寝坊しないように飲みすぎないでね」
さっきお仏壇には手を合わせてきたけれど、明日はお墓参りを回るらしい。
うちの家族のなかに美里くんと咲子さんがいるのはなんか不思議なようで、でもなんだか当たり前のような光景にもみえる。
「ねぇ、お兄ちゃん、私ね、咲子さんか本当にお姉さんになったらいいなぁーって思うんだけど……」
ぶはっ……!
しかし亜由美の問題発言に、僕は口に含んだばかりのビールを噴き出してしまった。
あ、あゆみ……な、なに言って……?
「お兄ちゃんと、良夜くんってぇ、いつ結婚するの?!」
りょ、りょうやくん?!
ぼ、ぼくだって、良夜くんなんて呼べないのに……。
美里くんはいつのまにか僕のこと翔太郎って呼ぶようになってたけど。
いやいや、それより、問題はそこじゃない。
「あ、あゆみ……?僕と美里くんは……」
と、いいかけて、僕たちの関係を否定したくない気持ちのが強くなった。
「お兄ちゃんとぉ、良夜くんはー?」
「りょうちゃんと、翔太郎くんはー?」
煽るような亜由美と咲子さんの声が重なる……。
「うー……ぼ、ぼくと、りょ、み、みさとくんとは……」
「やめろ」
僕が言い淀んでいると、美里くんが声を荒げた。
「二階、いくぞ」
二階の僕の部屋は高校、大学とほとんど寮にいたのに、そのままにしてくれている。
今日はもう美里くんも泊まるのが前提だったのだろう、お布団が一組、僕のベッドの横にすでに敷かれていた。
その上に、どかっと美里くんが座ったから、なんとなくベッドに腰かける気もしなくて隣に正座した。
「ご、ごめん……」
なんか、気まずい。
美里くんが怒ったのは、僕がはっきり言えなかったからなのだろう。
美里くんとの関係を後ろめたく思っているわけじゃない、と言いたいところだけど、どう考えたって、そう思っているような態度をとってしまった。
「なんで謝る」
「……あ、あのね、僕、この関係を否定するつもりはなくて……、でも、家族になんて言ったらいいか、わからない」
これが正直な気持ちだ。
美里くんと築いてきたこの七年近くの関係を否定したくない。
でも、ふいに聞かれたとき、家族、それも美里くんをずっと育ててくれた咲子さんもいる場で、僕の一存ですべてを話すことには抵抗があった。
「……翔太郎」
膝の上に置いた手に、美里くんの手が重なる。
「俺は、嫌だった」
みさと……くん。
やっぱり、僕たちの関係は隠した方がいいって、思ってるの……?
「あんな、煽られるみたいなやり方で、決めたくなんて……。だって、プロポーズは、ちゃんと……」
うん、僕も、煽られて話すのは……って、美里くん?!
ぷ、ぷろぽーず……?!
「……あ、結局、言っちゃったな」
ふーっ、とため息をついた美里くんの表情が緩む。
「翔太郎、俺と、結婚しろ」
美里くんの、どこまでも真っ直ぐな言葉。
言葉尻だけとったら、命令みたいだけれど、いつだってその言葉は、僕にやさしく響く。
「うん、美里くん、僕と結婚して」
特別な場所じゃなかった。
ただの学生最後の夏休みの実家の僕の部屋。
でも、美里くんの真っ直ぐな気持ちには、素直に答えたいから。
「美里くんのご両親にも、挨拶しにいかなきゃいけないね」
直接会うことはかなわない、美里くんのご両親……。
必ず、幸せにする、ふたりで幸せになると、報告しよう。
結婚って、家族が増えることなんだ。
僕と美里くんが、家族になって。
そしたら咲子さんもあゆみも、お父さんやお母さんも……それから、美里くんの……。
「あゆみに、お兄さんとお姉さんが増えるのか……」
結局、亜由美の望み通りの展開だ。
「ちょっと待て……、俺たちが結婚しても、さこちゃんはお姉さんにはならないぞ……叔母さんだからな」
「あーーーーー、そっか」
僕の叫び声に、家族がなにかとばたばた階段をかけ登ってくる音がする。
きっと、みんな喜んでくれるだろう。
またまだ抵抗があるかもしれない、この関係だけど、僕たちの家族ならきっと、祝福してくれる。
明日、美里くんのご両親も、きっと。