万引き少年の一生この話を書くまでのあらすじ
げ…現実逃避してた!!!!
コンビニに立ち並ぶ真四角な色とりどりの小さなチョコ。幼い頃からずっと食べてみたいと思っていたソレが、俺の世界の始まりだった。
万引き少年の一生
―――万引き #とは
客を装いつつ、その店にある商品を金も払わず持ち出す“犯罪行為”。時に店を閉店にまで追い詰めるそれは、悪質な犯罪である一方、小学生や中学、高校生などの若者の間では“度胸試し”なんて言葉を使い、いじめられっ子に強要させやすい窃盗罪でもある。軽犯罪じゃないのかって?店を潰すほどの犯罪行為なのに軽犯罪とかほざいてるひと居るなら一回法律見直した方が良いよ。
クソみたいな話をしてやろう。僕の実体験だ。僕は昔、それはそれは有名な窃盗犯だった。盗めるモノはどんなものでも盗んできたし、本人の元へと返してきた。いわゆる勧善懲悪な窃盗犯ってわけ。
そんな僕が一番欲しかったのは、コンビニのレジ前によく置いてあった、小さなチロルチョコだった。たくさんの味があるそれが、欲しくて欲しくてたまらなかった。けれど僕は勧善懲悪な窃盗犯。店の中に入れば防犯カメラが発動し、僕は警察よりも別の人間たちに追われることになってしまう。それは、ちょっとお断り願いたい案件だった。
僕には人より優れた才能がある。そう言って僕をこんな闇深いところまで連れてきたとある男に見つかるわけにはいかない。
「交番まで、あと少し。僕頑張った。すごく頑張った。もうほんとに今年一頑張った」
「へぇ…?例えば?」
「警察に梵天のアジトの情報を流したり、わざと密告したり、鉄ちゃんのパンツと修ちゃんのパンツを取り替えたり…!」
「やっぱりお前のせいか」
「ウッソなんでいンの!!!?」
もうやだ!助けてよ!!ずるずると黒塗りの高級車へ僕の首根っこを掴んで引きずり、無碍もなく車の中へと放り込まれれば、僕が抜け出したくて仕方がない闇の住人の中でも最も偉い幹部のみんながにっこり笑って放り込まれた僕を見ている。
途端にカラカラになった喉を上下させ、上質な車内の床に頭をこすりつけながら、ごめんなさい、と言葉を吐いた。
「ハース。俺、次抜けだした時は何を寄越せって言ったか覚えてる?」
「ごめんなさい」
「名前。ハースの本当の名前、教えてよ」
「ご、めんなさいッ…!」
「ハース」
お前、今回で何度目の逃走か分かってんだろ?そう冷えた声色で言ったマイ君の声に弾かれるように顔を上げれば、俺の横ッ面を蹴り飛ばした。
「まだ許してねぇだろ」
「ご、めん…なさい…」
ずるずると蹴り飛ばされて痛む身体を、土下座の体制に戻して彼に頭を下げる。マジでここまですることないと思う。お前ら来るもの拒まず去る者追わずって感じだったじゃん!!なんで俺だけそんな嫌なことすンの!!やだ!もう帰りたい!!
「マイキー。そんなイジメてやるなって…」
「三ツ谷は優しすぎんだよ」
「怖い思いしてる相手に本名は晒しにくいだろ?なぁ、ハース」
「そっすね」
「頭」
「ごめんなさい」
なんっで!!!!今お前自分の言った事わかってんのか!?恐怖政治働いてんの分かってんのか!?なんて脳内で暴言()ぶちまけていたらリュウ君から顔上げろって言ってくれたのでさっさと上げた。ありがとう!君はどんな時でも良心を捨てないから好きだよ!いっそ警察に捕まって無期懲役を一緒に判決してもらいたいくらいには!他!?他はもう死刑で良いよ!!怖い!帰りたい!!チロルチョコ食べたい!!!!
「ハース。来い」
「ウイッス……」
「マイキーとの約束は、覚えてんだろ?」
「…まぁ、ハイ。でも納得いってねぇんで、抜け出しました」
「今日はなんで外に出たんだ?」
あっれ!?人の話聞いてた!?なんかあからさまに話変わったんだけど!気のせい!?
「ハース」
「チロルチョコが、食べたかったんです(嘘だけど)」
俺の原点。それを知っているのはこの車内の中ではリュウ君とマイ君だけなので、2人は眉間にシワを寄せながら、買ってやるって言っただろって言って来たけれど、違うんだよ…。
「誰にも気づかれずに盗めるか、そんなスリリングな感情と一緒に店に入るのが良いんだよ」
「じゃぁ、アジトにコンビニでも造ってやろうか?」
「違うんだよなぁ…」
そう言うのじゃなくてさぁ、と声を上げた瞬間、ぱすっ、という間抜けな音と、俺が車内で転げる音が一緒だった。
「なんっで!!くっそいっでぇぇぇええ!!!!!」
「名前が言えないなら、今度こそ、お前の脚を捥ぐ」
「ーーーー!!!おやめください旦那様!おやめくださッ!!あ、ガッ…、あぁぁっぁあぁぁあ!!!」
ボギンッ!と高らかに、うつ伏せで呻く僕を無視して、脚を掴み上げたマイ君は、僕の顔を優しい顔で見た後、僕の脚の骨をへし折った。ふくらはぎから折れた足の骨が見えた瞬間一気に冷静になった。
「ぜ…、絶対死んでも逃げ出してやる~~!!!!」
☆☆☆
今から約12年前。ハーストイーグルという猛禽類の名前を冠した男が不良界隈に降り立った。本名は誰も知らない。分かっていることはただ一つ。男は“窃盗”と言う分野において、名を広げられるほどの実力者だった。男は語る。もしも時間を巻き戻すことが出来るのであれば、俺は絶対東卍と関わらないようにしてやる、と。
少し、彼等……極悪組織として名を全国のお茶の間に出している東卍との出会いを、話そう。いやもう本当にサラッと話すだけだから!長々となんて語らないからッ!!
まず、俺が東卍と出会ったのは8月3日の武蔵祭りの日だ。リュウ君…龍宮寺堅君がキヨマサってガキに背中刺されたのを見たのがきっかけ。因みに投げ捨てられた折り畳みナイフは回収しました。血の付いたナイフって呪われた道具みたいでカッコよかったからって名も無きモブである僕の部下に言ったら可哀想な目で見られたのでもう誰にも言わない。黒歴史確定だァ~~~!!
僕にとっては息を吸うのと同じ感覚で行われる“窃盗”に対して、ちょっとだけ特別感というか、優越感というか、まぁ他の人とはちょっと違うという矜持があった。だからこそ、この時リュウ君を“窃盗”して病院までもっていったんだけれどね。因みにその時僕はお祭りのお面を嵌めていたので身バレすらしなかったし、風の噂で聞いたときはリュウ君が突如として抗争の場から消えたらしいから喧嘩に集中するのは良いけれど周りをちゃんと見ようねって思った。そんなんだから僕に盗まれるんだ!!そうしてそんなことも忘れた10月のハロウィンの日、面白いモン見にいくぞ!なんて意気揚々と言ったおっさんが向かった先が、まさかの東卍とソフトモヒカンの試合だなんて誰も思わないから!!
いやまさかそんなことある!?って思っていたんだけれど、マジでそんなことあったっぽい。彼ら何を理由に闘ってんのかと思っていたらまさかのお兄ちゃん殺してごめんねって言いうやつだった。勝手に殺してやるな!!まだ目ェ覚ましてないだけで生きてるでしょ!!
けれどそんな俺たちの言葉は羽宮少年には聞こえていないし、この抗争が終わるまでずっと死んでたって思っていたのホント草。理由は褐色ギャル(♂)ちゃんから教えてもらったからって言っていたけれど、マジで人を信じすぎ。思わず幼女かなって言っちゃったもん。あとで首絞められながら怒られたけどね。情緒不安定すぎて無理。